漫画家「うめ」の"父母会スリム化" その理由、方法、効果

無駄なことは、全部「いっせーの、せ!」で、やらないようにできるといいですよね。

(左)夫婦漫画家ユニット「うめ」で、原作やプロデュースを担当する小沢高広さん。作画は、妻の妹尾朝子さんが担当。(右)聞き手、ライターの大塚玲子。著書は『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』(太郎次郎社エディタス)。主なテーマは「家族」「PTA」等。

仕事も家事も育児も共に取り組む夫婦の漫画家ユニット「うめ」。『STEVES(スティーブズ)』(小学館ビッグコミックスペリオール)、『ニブンノイクジ』など人気連載を抱える2人は、今まさに子育て真っ最中。そんななか、夫の小沢高広さんは、娘が通う保育園の父母会の省力化に着手! なぜ? どうやって? 前回に引き続き、小沢さんにお話をうかがいました。

「やっちゃうやっちゃう!」で変えちゃった

大塚:小沢さんは会長になってすぐ、父母会が全員自動入会だったのをやめて、入会用紙を配って任意で入会する形にされたとのこと。これって本来、当たり前のことのはずなんですけれど、まだやっていないところが多いですよね。どんな手順を踏んだんですか?

小沢:4月の総会で、決を採りました。会長になることが決まった2月ころから、何を変えるかは大体考えていたんです。 ただ、勝手に変えるわけにはいかない。なにか根拠が欲しい、ということで父母会の会則を熟読しました。そうしたら会則には「総会で2/3の賛成をもって決める」ということ以外、何も書いてない。「あ、それだけなんだな」と思って、総会にかけて、そのまま成立しました。

大塚:スムーズでしたねー。

小沢:引継ぎのときから、前の会長に「来年度はガラッと変えるよ!」って言ったんです。そしたら「いいよいいよ、やっちゃって!」って言うから、「やっちゃうやっちゃう!」って(笑)。

大塚:前任者がそういう人だと、やりやすそうですね。異論は出なかったんですか?

小沢:総会が終わったあとで、「そんな決議は無効だから、臨時総会を開きなさい」と言ってきたお母さんはいましたけどね。こちらはちゃんと正式な手続きを取っているわけで、それを変えるほうが怖いですよ。いくらでも恣意的な運用になってしまう。

大塚:どうお答えしたんですか?

小沢:簡潔に、1、2行のメールでお返事しました。そうしたら、それ以上は言って来なかったです。来れば、お答えする気は満々だったんですけれど。

大塚:お父さんたちは、何も言ってこなかった?

小沢:少しはありましたけど、そんなに揉めることもなく。お父さんになると、交渉が少しウェットになりますよね。「飲みにいきませんか?」とか、そういう感じで、同性同士のウェットさが入る(笑)。

大塚:ああ、なるほど、同性同士だから! お母さんの関係が湿っぽくなるのも、「女だから」じゃなくて、同性同士だからかもしれないですね。 そして実際に、入会申し込みの用紙を配ってみて、反応はどうでしたか?

小沢:例年通り、ほとんどの世帯が加入しました。入会率は98%。 2つ、3つ問い合わせは来たかな。驚いたのは、「これ(入会申込用紙)は、入ってほしくないってことですか?」という質問があったこと(笑)。「入ってほしくないわけではなくて、あくまで強制ではなく任意の団体なので、入りたいと思ったら入ってください」っていう説明をしたら、その方も入会しました。

大塚:へええ、そういう誤解をされる方もいらっしゃるんですね!

「壁新聞」は、すごくおすすめ

大塚:以前は毎月のようにやっていた集会を年3回に減らし、しかも毎回数時間かかっていたのを、20分程度に短縮されたとのこと。そもそも「年10回」っていうのも、ずいぶん多いですね。何を話し合っていたんですか?

小沢:何でしょうね......、前に進まない話を、ずーっとしてるんですよ。なにか議題があって、司会が順番に指差して、意見を言っていく。まとめるフェイズがないまま、結論が出ずに「また来月検討しましょう」みたいなのが続いていた感じですね。

大塚:それを4・9・3月の3回に減らしたと。何か困ったことはありましたか?

小沢:何もないです。集まりの時間も短くなりました。以前は集まりの場で突発的に手を挙げて、議案を出す人がいたんですけれど、「議案があれば、事前にお知らせください」という形にしたんです。そうしたら、一個も来なかった。メールでもOKにしていたので、来るかな、と思っていたんですけれどね。

大塚:あとは、父母会で発行していた新聞をやめて、壁新聞にしたという。これも面白いですね。デジタル化で有名な「うめ」さんが、アナログ化(笑)。

小沢:壁新聞はいいですよ! すごく、おすすめです。それまで「広報係は、パソコンを持っている人じゃないとダメ」っていうルールがあったらしいんですけど、パソコンがない人もたくさんいるし、それにパソコンを持ってるっていうだけで広報紙が作れるというわけでもないじゃないですか。

大塚:たしかにそうですね、文章を書くとか写真を撮る作業の向き不向きって、パソコンを持っているかどうかとは無関係ですし。

小沢:だったら壁新聞にして、写真をぺたぺたと貼って、横っちょにチューリップのイラストでも描いておけばいい。それを張り出して、読みたい人が各自携帯で写真を撮っていけば済むじゃないですか。

大塚:保育園は送り迎えに保護者が必ず登園するから、それができますね。作業が減って、だいぶラクになったのでは?

小沢:お母さんが2人でやってくれたんですけど、「1、2時間で完成した」って言ってました。コピー代もいらないから、コストも安いですし。

適度に「アナログ」を混ぜるておくのもコツ

大塚:それから、各種プリントを配布するのをやめて、メールやLINEで連絡するようにされたという。

小沢:これは経費の削減もありますけれど、一番は「手間の削減」ですね。お手紙を人数分コピーとって、一枚ずつ全部子どもの名前を書いて、一人ひとりのロッカーに入れていく、みたいな作業って不毛じゃないですか。

大塚:ロッカーから落ちたときに誰のものかわからなくなるから、お手紙も全部名前を書かなきゃいけないんですよね(苦笑)。メールに切り替えれば、そんな作業は全て不要になります。切り替えてみて、何か困ったことはありましたか?

小沢:「送ったのに届かない」っていうのは、たまにありましたね。重要なメールについては「レスがない人にはクラス役員さんから声をかけて確認して」ってお願いしていたので、たいして問題はなかったですけれど。 その点ではLINEのほうが確実だし、もしこれからやるんだったら、SNSのメッセンジャーのほうがいいんじゃないかな。

大塚:さらに、メールで受け取りたくない、受け取れない、という人がいたときのために「プリントを1部だけ掲示板に貼っておいた」とのこと。これも、親切な対応ですね。

小沢:もしどうしても紙で必要な人がいたときは、これを事務室でコピーさせてもらえるよう、事前に園長先生にOKをもらっておいたんです。コピー経費は父母会で出すから、と言って。でも結局、一人も使わなかった。

大塚:何か作業をデジタル化しようとすると、「まだハード(端末など)が追いつかない人がいる」という理由から、全員であきらめてしまうことがよくありますけど、こんなふうにちょっとフォローするだけで、クリアできるケースもありますよね。それでも全部アナログでやるのよりは、ずっと手間が減りますし。

小沢:あれ、もったいないですよね。だから適度にアナログを混ぜてデジタル化しておいたほうがいいんですよ。

「やりたくない人にやらせる手間」を省く!

大塚:「最高学年は全員役員をやる」という決まりも、やめたんですね?

小沢:「絶対にやりたくない人に何かやらせる」と、かえって手間になるじゃないですか。「誰々さんがやってない!」って言う人も、本当はやりたくない人だから、そういう人もやらせるとあとで大変になる。

大塚:深く同意です。「やりたくない人にやらせるコスト」は、ホント無駄だと思います。

小沢:そういう無駄なことは、全部「いっせーの、せ!」で、やらないようにできるといいですよね。なんでそんな、泥沼で足をひっぱりあうようなことをしなくちゃいけないのか。そのためにたぶん、みんなすごく時間を割かれるじゃないですか。それを避けたい。

大塚:日本中、そうしたらいいですね。無駄な縛りは全部、「いっせーの、せ!」でやめる(笑)。「全員役員」をやめてみて、実際どうでしたか? 人は足りました?

小沢:足りましたよ。ちょっとしたことなら、役員が兼任しちゃったほうがずっと早いですしね。 それに、意外とみんな「なんか手伝うよー」って言ってくるんですよね。何もしないでいると、仲間はずれ感を感じるのか。そういう人には「じゃあ、これ手伝って」ってお願いして、他の人のサブにつけたりしました。

大塚:それはありますね! 「やれ」って言われなければ自分からやるって人は、けっこういますよ。わたしもそうですけど。そういう人種は、放置されたほうが自分から動きます。

小沢:あとはこっちも、気軽に言うんです。「忙しいから手伝って!」とか、「これめんどくさいから、やって!」とか。そうすると、「あ、いいよいいよ」ってなる。

大塚:いいですね。みんな勝手に歯を食いしばって仕事しといて、「やらない人、ズルイ」とか陰で言うけど、だったら「手が足りないから、いっしょにやって!」ってストレートに頼めばいい。

小沢:みんな、理屈をつけるからいけないんですよ。 やらない理由だって、「めんどくさいから」とか「二日酔いだから休む」とかで、いいじゃん!って思う。そんな、きまじめにやることじゃないですよ。正当化できない理屈でいいんです。

お礼はたくさん言われたけど、あくまで「消極的」な改革

大塚:これだけ仕事を省力化して、みんなに喜ばれたのでは?

小沢:お礼はいっぱい言われましたね。「回数が少なくなってホント助かる」とか「時間かかんなくて、ありがたい」とか、「これだよね!」っていう感じ。「憑き物が落ちて、今まで何やってたんだ?と思った」っていう嘆きもありました(笑)。 かなり"消極的"な改革だったんですけれどね。

大塚:え、これ"消極的"なんですか?

小沢:だってコスト低いじゃないですか。時間も手間もかけないから。

大塚:たしかに省コストですけど......。でも、みんなに喜ばれる形にしたんだから、すごくポジティブじゃないですかね。 これから、小学校のPTAで何か変えたりされないんですか?

小沢:PTAでは、できるだけ目立たないよう、日陰で暮らそうと思ってます(笑)。 積極的に変えるのは、やっぱり大変なので。それもまた"熱心な活動"だから、かなり胆力が必要になるじゃないですか。もしも火の粉が降りかかってきたら"消極的"に変えていきたいとは思ってますけど。ちなみにベルマークはいっさい集めずに、空の封筒を出してます。僕はそんなスタンスです。

大塚:自分がやりたいこと、やれることの見極めも大事ですよね。"消極的"ながら前向きなお話を、本日はどうもありがとうございました!

前編はこちら

文:大塚玲子 写真:内田明人 編集:渡辺清美

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本記事は、2015年12月10日のサイボウズ式掲載記事無駄なことは全部「いっせーの、せ!」でやめる──漫画家「うめ」の"父母会スリム化"より転載しました。

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