喜怒哀楽、と言うように、人間の感情にはいろんな色があり、それらがグラデーションになっています。明るくてきらきらした色もあれば、ふっくら優しく柔らかい色のものもありますが、「嫉妬」や「ねたみ」のように、暗くて重く、そして苦しい色の感情があるのも事実。そして時として、それが「仕事」というオフィシャルな画面で顔を出してしまう瞬間があります。
人間ですから、湧き起こってしまう感情はどうにもならないもの。しかし同時に、オフィシャルな場面で自分の感情をいかにコントロールするか、というのは、仕事人にとって共通の課題ではないでしょうか。今回は、そんな「自分の醜い感情とどう付き合っていくか?」について考えてみました。
こんな時、ありますよね
職場は仕事をするところ、と割り切っていても、さまざまなネガティブ感情が湧いてくるタイミングはやってきます。同僚に比べて自分が評価されていないと感じたり、意見の合わない同僚と議論になり、ちょっとした言い回しが気になって、嫌な気分になってしまったり。
そうした感情の「ひっかかり」は、その瞬間は小さいことのように思えますが、時間が経つにつれ抜けない棘(とげ)のようにイガイガと残り、ふとした瞬間に爆発を引き起こしかねません。そうした棘(とげ)のせいで相手の言うことを素直に受け入れられなかったり、場の空気を悪くしてしまったりと、ネガティブな連鎖を巻き起こしてしまうこともあります。
では、そんな感情と、どのようにして向き合えばいいのでしょうか?
ファクトベースで切り分けよう
ネガティブな感情を抱いてしまったとき、誰かの言動で嫌な気持ちになったときは、その状況からいったん離れることを意識しましょう。誤りや事実と異なることについてはすぐ主張するべきですが、自分の感情を強弁して意見を通そうとするべきではありません。事実のみをシンプルに伝え共通認識が取れるところまでをゴールとして、場から離れ、冷静になる時間を持ちましょう。
ここで大切なのは、こだわるのはファクト=事実のみに限る、という点です。
人と人とがコミュニケーションを取る際には、さまざまな要素が絡んできます。議論の際には自分の意見や意思、理想や関係性などが複雑に絡み合い、主張したい事柄の中にあるそれらの正当性をその場で判断するのは、なかなか難しいものです。自分の感情や意思を冷静に分析して優先度を判断するのが難しい場合は、まず「事実はなんだ?」という点と、「それが正しく伝わっているか?」に目を向けてください。
議論を通じ、どんなにネガティブな感情が湧き起こったとしても、事実が正しく伝わっている、と確認できたなら、目的は果たせたと認識し、いったん話を切り上げましょう。物理的に距離を置くのがもっともシンプルで、席から離れてお手洗いに立ったり、可能であれば少し外の空気を吸いに行ったり、その状況から距離を置く。そしてなぜその感情が自分の中に起こったのか、を見つめる時間を持ちましょう。
例えば、「自分よりAさんの意見のほうが重用されたことに、納得がいかない」と感じてしまった場合、なぜ自分の意見よりAさんの意見が劣ると自分が感じたのか、事実のみで比較して、誰が見ても納得できるようなポイントはあるだろうか? を考えてみて下さい。
「誰が言ったのか」ではなく「何を言ったのか」のみで比較し、冷静になってみたときに、もしかしたら自分の中に「Aさんのほうが、自分より後輩なのに」という、事実とは関係のない感情が見つかるかもしれません。
その感情が起きること自体、おかしなことではありませんし、感じてしまう自分を責める必要もありません。ただ、その感情に振り回されて、事実を間違えてしまわないように距離を置くことも必要です。
事実と感情を切り分け、ネガティブな経験も面白がろう
繰り返しになりますが、自分の中に起こるどんな感情の存在も、否定するものではありません。しかし、ビジネスで重要なのは「事実を正しく認識し、すべき仕事を遂行する」こと。また、さまざまな人と関わって働く以上、「なんとなく合わない」「自分とは価値観が違うな」と思う相手を遭遇してしまうのは、避けられないことです。それについて対応策を持っておく、というのは自分にとってもメリットがあるのではと思います。
自分のネガティブな感情と、相手や相手の意見に対しての評価を直結させてしまうのは、結果的に自分の損になりかねない。そういう観点を持ち、「この人とは価値観が合わないけれど、主張そのものは正しいな」というように、「事実と感情の切り分け」ができるスキルを身につけることを意識してみましょう。
そしてあまりに自分と価値観が違う相手と遭遇してしまった場合、「逆に、面白い」と切り替えて相手を観察してみるのも、またひとつの方法です。自分とあまりに違う価値観、というのは、なかなか出会えるものではありません。ネガティブな感情や違和感をポジティブにとらえて、これは今後の自分の糧(かて)になるぞ、と発想し観察してみると、あとあと「苦労したけれどあの経験は自分にとって価値があった」と思えるかもしれません。
ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者であるダニエル・カーネマンは「幸福のとらえかた」には、「経験の自己」と「記憶の自己」という2つの要素があると語っています。人間は「経験」と「記憶」を混同してしまいがちで、それらはまったく異なる概念であるにも関わらず、感じる「幸福」はひとつにまとめられてしまう、というのです。
つまり「経験」と「記憶」は同じように「幸福」を感じる自己であるにも関わらず、「記憶」のほうが最終的にはより強く印象に残ってしまう、というのです。カーネマンが語った例を要約すると、ある痛みを伴う検査を終えた患者Aと患者Bに、時間を置いて「検査はどうだったか」という聞き取り調査をしたところ、検査が終わるときに痛みがピークに達していた患者Aのほうが、全体を通じて痛みを感じるタイミングが多かった患者Bよりも、検査をより嫌な記憶として認識していた、というのです。
これは実際の「経験」よりも「記憶」のほうが認識に強い影響を与えていることがわかる結果で、非常に面白いと思いました。
であれば、どんなネガティブな感情を抱えたとしても、最終的にそれを良い記憶として変換するのは自分の認識ひとつであり、それをうまく活用しない手はないな、と思うのです。
自分の感情をうまく乗りこなそう
最終的に重要なのは、「どんな瞬間でも、なるべく自分が心地よくいられること」。
生きている以上、さまざまな人と出会い、苦手な相手とも時間を共にせざるをえない瞬間は発生してしまいます。自分ひとりの意思では避けることができない状況に立ち向かわなければいけないのであれば、その状況と上手に付き合い、うまく受け入れていくテクニックを手に入れて活用していきましょう。
そうした「自分の感情とうまく付き合う」という技術は結果的に自分の支えとなり、他者の個性を受け入れ、多様性にあふれたチームづくりに転用できるのではないだろうかと思うのです。
今日はそんな感じです。
チャオ!
イラスト:マツナガエイコ
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本記事は、2017年1月24日のサイボウズ式掲載記事嫉妬やイライラの感情と「うまく付き合う」技術より転載しました。
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