株価暴落とフェイク対策、フェイスブックの迷走はソーシャルメディアの潮目か

わずか2時間足らずで、時価総額が史上最高の1200億ドル(13兆円)近くも消失した。

フェイクニュースやプライバシー問題で迷走の続くフェイスブックに、株価が追い打ちをかけた。

フェイスブックが25日に発表した第2四半期(4月~6月)の決算が、同社の勢いに陰りを見せたことを受け、株価が暴落。

わずか2時間足らずで、時価総額が史上最高の1200億ドル(13兆円)近くも消失した。

その前週には、マーク・ザッカーバーグCEOが「リコード」のインタビューの中で、「ホロコースト否定論者」を擁護するかのような発言をし、騒動に発展。

それ以前から、フェイクニュース対策の旗を振る中で、陰謀論サイトのコンテンツが掲示されたままになっている、と対応のちぐはぐぶりへの批判も高まっていた。

3月に発覚したケンブリッジ・アナリティカをめぐるユーザーデータ大量流出事件で急落した株価も、この数カ月で回復し、決算発表前には過去最高値の217ドルをつけていた。その直後に起きた暴落劇だった。

人類の3割近くが使うフェイスブックはいま、潮目を迎えているのだろうか。

●2時間で1200億ドル消失

25日午後4時、フェイスブック株は終値で過去最高の217.50ドルをつけていた。

それが、第2四半期の決算発表を受けた時間外取引で、2時間ほどの間に176.26ドルへと19%も暴落。時価総額で1190億ドル(13兆2000億円)が失われた。

これに伴い、ザッカーバーグ氏の個人資産も、150億ドル以上が消えた、という。

この歴史的な暴落の引き金を引いたのは、決算の内容だ。

一つはユーザー数の伸びの鈍化だ。

1日あたりのユーザー数(DAU)が14億7100万人で前期比1.5%増、月間ユーザー数(MAU)は22億3400万人で前期比1.7%増。

ユーザーの前期比はこれまで3%前後で推移してきており、1%台という数字は2012年の上場以来初めての低調ぶりだ。

また、売上高は前年同期比42%増の132億ドル、純利益は31%増の51億ドル。だが、売上高は、市場予測の133億ドルに届かなかった。

これらの数字に加えて、経営陣による今年下半期、さらには来年以降への暗い見通しが、だめ押しをする。

まず、ザッカーバーグ氏が業績の鈍化の要因に、フェイクニュース対策などのセキュリティ、プライバシーの対策コストをあげる。そして、これは今後も続く、と。

今後についても、我々はセキュリティとプライバシーに重点的な投資を継続するつもりだ。我々にはユーザーの安全を確保する責任があるからだ。ただ、これまでの決算発表でも述べている通り、セキュリティへの多額の投資によって、収益には重大な影響が出るだろう。今期、すでにその影響が出始めている。

そして、プライバシー問題では、EUが5月から施行したプライバシー強化法制「一般データ保護規則(GDPR)」による、ユーザー数への影響も指摘している。

プライバシーについても述べておきたい。GDPRは我々の業界にとって、重要な転機となった。欧州では月間ユーザー数の減少が見られた――これにより、100万人減っている。

欧州の月間ユーザー数は3億7600万人で、前期比で100万人減(0.3%減)となっている。

これに続いて、CFO(最高財務責任者)のデビッド・ウェーナー氏がさらに踏み込んだ見通しを述べる。

第2四半期の売上高の伸び率は、前期に比べ約7ポイント鈍化している。そして2018年下半期も、この鈍化は続くだろう。第3四半期、第4四半期連続で、売上高の伸び率は前期比で1けた台後半の鈍化を続けるだろう。

売上高前年同期比の伸び率は42%で、第1四半期の49%に比べて7ポイント落ち込んでいる。しかもこの落ち込みがあと2期続くというのだ。

さらに来年以降の見通しについても、こう述べている。

2018年以降の展望では、2019年には支出の伸びが売上高の伸びを上回ると予想している。そして今後数年間で、営業利益率は(今期の44%から)30%台半ばになると見込んでいる。

フェイスブックはフェイクニュース対策として年内に2万人の社員増員を明らかにしているが、6月末時点の社員数は3万275人で前年同期比で、実に47%の増員になっている。

●「ホロコースト否定」と削除

ザッカーバーグ氏は、この歴史的暴落の前週から、騒動の渦中にあった。

「リコード」が18日に掲載した、同サイトの共同創設者、カーラ・スウィッシャー氏によるインタビューでの発言が、物議をかもしたのだ。

このインタビューの中で、スウィッシャー氏は、陰謀論やフェイクニュースの拡散で知られるサイト「インフォウオーズ」を取り上げ、フェイスブックがなぜ排除しないのか、とザッカーバーグ氏に問いかける。

「インフォウオーズ」は、右派のラジオパーソナリティー、アレックス・ジョーンズ氏のサイトで、「2001年の米同時多発テロはホワイトハウスの仕業だった」「(2012年のコネチカット州)サンディフック小学校銃乱射事件はなかった」といった主張を繰り返している。

米大統領選後の2016年12月、首都ワシントンのピザ店が児童虐待の地下組織の拠点だとする陰謀論「ピザゲート」を信じた男性が、同店に押し入り、自動小銃を発射するという事件が起きている。この男性が、犯行前に見ていたのが、「インフォウオーズ」の「ピザゲート」に関する動画だった。

「インフォウオーズ」のような陰謀論サイトを、削除することはできないのか、とのスウィッシャー氏の指摘に対し、ザッカーバーグ氏は、ナチスによるユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」を例にあげて答えている。

ザッカーバーグ:我々がフェイスブックのサービスから削除する際のルールとは。もしそれが現実の危害、実際に身体的な危害を引き起こすものであれば、あるいは個人攻撃を行っている、ということなら、そのコンテンツはプラットフォーム上から排除する必要がある。ただ、これに該当するものには、多くのカテゴリーがあり、幅広い議論もある。

スウィッシャー:「サンディフック小学校銃乱射事件はなかった」というのは議論じゃない。虚偽だ。それをただ削除する、ということもできないの?

ザッカーバーグ:私も虚偽だと思う。

そして、サンディフックの被害者のところに行って、その人たちに「おい、違うだろ、お前たちはうそつきだ」という――それはハラスメントだし、私たちもそれは削除する。ただ、もっと一般的で、身近な例を考えてみよう...

私はユダヤ系だ。そして、ホロコーストが起きたことを否定する人々のグループも存在する。

私にとってそれは極めて不快なことだ。だが結局のところ、私たちのプラットフォームがその主張を削除すべきだとは思えないのだ。人々が思い違いをしている、ということもあるのだから。あえて間違った思い込みをしているわけではないだろう。ただ、私は――

スウィッシャー:ホロコースト否定論者の場合には、その可能性もあるかもしれないけれど、続けて。

ザッカーバーグ:人の意図を疑うことも、理解することも難しいと思っている。私はそういったことをおぞましいとは思う反面、実際には、私が公の場で話しをするときに間違うことはあるわけだし、あなただってきっとそうだろう。多くの指導者や尊敬される著名人たちも同じはずだ。そして、「もし間違った思い込みをしている人がいれば、私たちは何度でも追い出しますよ」というのは、正しい行いとは思えないのだ。

この発言が、「ホロコースト否定論者」を擁護している、としてユダヤ人団体などから批判の声がわき上がった。

ユダヤ人団体「反名誉毀損防止同盟(ADL)」CEOのジョナサン・グリーンブラット氏は同日、声明を発表。こう述べる

ホロコースト否定は、反ユダヤ主義者による意図的、計画的で長年にわたる欺瞞の手口だ。これは議論の余地なく、ユダヤ人に対するヘイトであり、中傷であり、脅迫である。

また、ユダヤ人団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」も、同じ日に副学部長、エイブラハム・クーパー氏のコメントで、こう批判した

マーク・ザッカーバーグ氏は間違っている。ホロコースト否定論者には、たった2つのタイプしかない――アウシュビッツ強制収容所が存在したことを信じようとしない人々、そしてイランのように、その収容所の仕事をやり遂げようとする人々だ。

騒動を受けて、ザッカーバーグ氏は釈明のメールをスウィッシャー氏に送ったという。

私にとってホロコースト否定論は、個人的に極めて不快だ。そして、私はホロコーストを否定する人々の意図を擁護するつもりは全くない。

我々のフェイクニュース対策のゴールは、誰かが虚偽の発言をするのを阻止することではない――フェイクニュースや虚偽情報が我々のサービス上で拡散するのを止めることだ。

ザッカーバーグ氏としては、同社が定める「コミュニティ規定」に抵触しているとまで言えないコンテンツについては、不快な内容でも表現の自由を重んじたい、という趣旨だったようだが、言いぶりや「ホロコースト」の例えが、舌足らずだった面は否めない。

●陰謀論サイトへの対応

スウィッシャー氏がインタビューの中で取り上げたように、フェイスブックのフェイクニュース対策をめぐっては、その取り組みが喧伝される一方で、「インフォウォーズ」のような陰謀論サイトが、情報拡散を続けていることに、疑問の声が高まっていた。

フェイスブックは11日、ニューヨークオフィスにメディア関係者を集め、同社のフェイクニュースへの取り組みの現状についてプレゼンテーションを行った。

この席で、CNNのオリバー・ダーシー氏から、フェイクニュース対策が真剣なものだと言うなら、なぜ「インフォウォーズ」のようなサイトがいまだにフェイスブックページを削除もされず、100万人近いフォロワーを維持し続けているのか、説明してほしい、との質問がでる

これに対し,フェイスブックのニュースフィードの責任者、ジョン・ハーマン氏は、「虚偽のニュース、というだけでは削除はしていない」と述べる。

虚偽である、というだけでは「コミュニティ規定」には抵触しないと思う。(「インフォウオーズ」は)削除にいたるような規定違反は犯していない。

この回答が、「インフォウオーズ」の扱いについての明確な説明ができなかったと受け止められ、フェイスブックのフェイクニュース対策の真剣度を疑問視する声が勢いを増す。

ザッカーバーグ氏の「リコード」への単独インタビューには、その釈明の狙いがあったのかもしれないが、結果は全く裏目に出た。

ただ、株価暴落後の27日、フェイスブックはようやく「インフォウオーズ」対策に乗り出す

フェイスブックは、アレックス・ジョーンズ氏と「インフォウオーズ」のフェイスブックページに掲載されていた動画4本を、規定違反として削除。さらにジョーンズ氏のフェイスブックアカウントの30日間凍結を発表した。

それぞれのフェイスブックページは削除はされていないが、「ページ閉鎖に近い」状態にある、とも説明しているようだ。

ただ、削除を決める規定違反の線引きがはっきりしない点は、なお残されたままだ。

表現の自由への配慮を見せるザッカーバーグ氏だが、一方でフェイスブックは、2016年の8月から9月にかけて、ピュリツアー賞を受けたベトナム戦争の報道写真「ナパーム弾の少女」の投稿を、"児童ポルノ"の扱いで次々に削除した経緯もある

●ツイッターも100万人減で株価急落

成長鈍化と株価急落は、フェイスブックばかりではない。

27日に第2四半期の決算を発表したツイッターも、月間アクティブユーザーの減少を受けて、株価が急落した

ツイッターの株価は21%下落。時価総額で66億ドルの消失となった。

月間ユーザー数は3億3500万人で、前期比100万人減となっている。

一つの要因は、フェイクニュース対策による、フェイクアカウントの大量削除。これにより、数千万件単位のアカウント削除が行われる見込みだ。

さらに、ショートメッセージ経由の利用に関する携帯電話会社との契約の見直し、また、より軽微な要因として、GDPRの影響にも触れている。

●ソーシャルメディアの潮目

ソーシャルメディアはこの10年、急拡大を続けてきた。

だがユーザーの増加が飽和に近づくとともに、それがメディアとしての影響力を持つにいたり、フェイクニュース対策など、コンテンツへの責任が厳しく問われることとなる。

規模拡大の天井と、社会的責任のコスト。

この二つの障壁の手触りが、株価急落という形で現れたということだろう。

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(2018年7月29日「新聞紙学的」より転載)

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