「トリチウム以外も公表の必要…」社民・大椿裕子議員の投稿はミスリード。処理水めぐる発信で

処理水をめぐる社民党の大椿裕子議員の投稿をファクトチェックしました。結果は、ミスリードでした。
Xにされた投稿
Xにされた投稿
「大椿ゆうこ」議員のXから

東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐり、社民党の大椿裕子・参議院議員が「問題はトリチウムだけではない。それ以外の核種も調べて公表する必要がある」とXに投稿した。

しかし、国や東電によるトリチウム以外の物質の分析は実施されており、公表結果もネット上で見ることができる。

大椿議員の投稿は、トリチウム以外の物質の分析結果が公表されていないと誤解を招く恐れがあり、ミスリードといえる。

ハフポスト日本版はファクトチェックした。

経緯を振り返る

大椿議員は9月22日、Xにこう投稿した。

「問題はトリチウムだけではないので、トリチウム以外の核種についても、継続して調べ、公表する必要があると思います」

投稿には、NHKが9月21日に配信した「処理水放出“4回目もトリチウム濃度 検出下限を下回る”環境省」という記事が添付されていた。

その記事の内容は、8月24日に処理水の海洋放出が開始されて以降、環境省が定期的に海水のモニタリングを行っているというもの。

4回目となった調査でも、1〜3回目の調査と同様に「全ての地点でトリチウムの濃度は検出できる下限を下回った」という結果を伝えていた。

大椿議員が示すように、この記事にはトリチウム以外の分析結果は記載されていないが、実際には国や東電のウェブサイトでチェックすることができる。

それを確認する前に、まずは処理水に関する基本的なことをおさらいする。

ALPSで処理

福島第一原発では、原子炉建屋に雨水や地下水が流入したりして、放射性物質を含む汚染水が発生している。

これを「多核種除去設備(ALPS)」に通し、トリチウムを除く62種類の放射性物質を国の安全基準を満たすまで処理をかけたものが処理水だ。

トリチウムは水素の仲間で、自然界や水道水、人間の体内にも存在し、エネルギーも紙1枚で防げるほど弱く、これまで日本を含む世界各国の原発施設から海洋放出されてきた。

福島第一原発の処理水を海洋放出する際は、規制基準の40分の1、世界保健機関(WHO)飲料水基準の約7分の1にあたる1リットルあたり1500ベクレル未満まで海水で希釈される。

処理水の海洋放出の放射線影響は?

さらに、処理水を海洋放出した際の1年間の放射線影響は、0.000002〜0.00003ミリシーベルトとなっている。

日本人が宇宙や大地から受ける自然放射線は年平均2.1ミリシーベルトのため、約100万分の1〜約7万分の1の値ということだ。

このほか、東京ーニューヨーク間の飛行機移動(往復)は0.11〜0.16ミリシーベルト、CT検査は2.4〜12.9ミリシーベルトで、海洋放出の人への影響はこれらを大幅に下回っていることがわかる。

つまり、放射性物質は存在そのものが問題なのではなく、人や環境に影響を与えない水準(規制基準以下)であることが重要となる。

国際原子力機関(IAEA)も7月、処理水の海洋放出を「人や環境に与える放射線の影響は無視できるもの」とする包括報告書を公表した。

大椿裕子議員
大椿裕子議員
時事通信

「処理水 モニタリング」の検索で上位に

これらを踏まえ、話をもとに戻す。

大椿議員は「トリチウム以外の核種についても、継続して調べ、公表する必要がある」としているが、国や東電はそれらの物質を分析し、結果を公表している。

Googleで「処理水 モニタリング」と検索すると、「ALPS処理水に係る海域モニタリング情報」という環境省のウェブサイトが上位に表示される。

最新は、9月19日分の海水調査(トリチウム及びγ線核種)で、結果概要として、①11測点で海水のトリチウムは全て検出下限値未満②3測点で海水のγ線核種は全て検出下限値未満ーーとあった。

海水のトリチウムやセシウム137などの物質は、全て検出下限値未満だったということだ。

さらに、東京電力「処理水ポータルサイト」の「海域モニタリングの結果」というページにある「詳細な分析結果はこちら」をクリックすると、処理水を希釈して放出する前の分析結果を確認することもできる。

9月21日に発表された資料を見ると、測定・評価対象核種(29種類)の告示濃度比総和は0.25で1未満と確認された、とある。

告示濃度比総和とは、各放射性物質ごとに規制基準値(告示濃度)に対する実際の放射線濃度の割合を出し、その数値を合計した値。

告示濃度は、その濃度の水を毎日約2リットルずつ飲み続けた場合、1年間で1ミリシーベルトの被ばくとなる濃度として設定されており、規制基準を満たすためには、告示濃度比総和が「1」を下回る必要がある。

つまり、9月21日の発表では、告示濃度比総和が「1」を下回っており、規制基準を満たしているといえる。

このように、Googleで検索すると、国や東電が処理水に関連する分析結果を公表していることがわかる。

ニュースとして報道もされていた

また、朝日新聞も9月21日、「処理水放出、2回目分の放射性物質分析 トリチウム以外は基準未満」という記事を出している

東電によるタンク内の水の分析結果をまとめたもので、「原子力規制委員会が認可した計画で定めた放射性セシウムなど29種類の放射性物質の濃度は、すべて法令基準を下回った」と書いてある。

大椿議員の投稿は、「トリチウム以外の核種についても、継続して調べ、公表する必要がある」としている。

国会議員による発信のため、「トリチウム以外の核種の分析結果が公表されていない」と誤解する人が出る可能性もある。

しかし、実際は国や東電のウェブサイトで分析結果が公表されており、ニュースとしても報道されていた。

以上の結果から、大椿議員の投稿はミスリードと判定した。

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