「Fukushima waterは言語道断」福島県議会で県側の姿勢問う質問。煮え切らない答弁に議場ざわつく

一部メディアが福島第一原発の処理水を「Fukushima water」と表記した問題。福島県議会の一般質問で、議員が県に対し、差別や風評を生む情報発信に強い姿勢で臨むことを求めました【メディアと差別】
試料として採取した水産物を見るIAEAの調査団=2023年10月19日、福島県いわき市
試料として採取した水産物を見るIAEAの調査団=2023年10月19日、福島県いわき市
時事通信

東京電力福島第一原発の処理水について、一部メディアが「Fukushima water」と表記していた問題で、福島県は12月20日、「報道機関も含め、県として正しい情報発信に努めていく」という見解を示した。

県議会12月定例会で、自民党の渡辺康平議員の質問に県担当者が回答した。

一方、差別や偏見を助長する報道への具体的な対応策については明言を避けたため、議場がざわつく場面もあった。

「Fukushima water」という表記を巡っては、ハフポスト日本版が「福島への差別や偏見を助長する」と記事で繰り返し指摘し、共同通信毎日新聞が表記を変更してきた経緯がある。

12月初旬に北海道函館市で起きたイワシ大量死でも、「原因はFukushima waterだ」とする投稿がSNSなどで相次ぎ、問題視されていた。

【※「Fukushima water」に関する一連の記事は、記事下部の「関連記事」から確認することができます】

The Mainichiの記事
The Mainichiの記事
ハフポスト日本版

「Fukushima water」経緯を振り返る

処理水に関して、国や東電は英語で表記する際、「treated water(処理水)」としている。

一方、共同通信は9月28日、2回目の処理水の海洋放出が10月5日に行われることを報じた際、英字記事の見出しに「Fukushima water」と記載。毎日新聞の英語ニュースサイト「The Mainichi」も11月9日、処理水が絡む記事の見出しに「Fukushima water」と付けた。

ハフポスト日本版はこの表記を問題視し、福島の被災地を研究する社会学者で東京大学大学院情報学環の開沼博准教授を取材。地名を入れた「Fukushima water」という表記は「住民への差別・偏見を生み出すことにつながる」という指摘を受け、経緯や問題点をまとめた記事を配信してきた。

なお、共同通信は「字数制限が理由」としながらも、「重く受け止める」と取材に回答。毎日新聞も、「差別・偏見を生み出す可能性を理解し、そうした差別・偏見が広がる可能性を可能な限り小さくすべく、いっそう努力する」と答えた。

それ以降、この2社は「Fukushima water」という表現を使用していないとみられる。

しかし、函館市で12月初旬にイワシの大量死が発生した際、「Fukushima waterが原因」などとする書き込みがSNSで再び相次いだ

英大衆紙「デイリー・メール」も処理水とイワシ大量死を関連づけて報道したことから、外務省が同紙に申し入れをする事態に発展しているが、この件について福島県から具体的な発信はされていない。

函館でイワシなどが打ち上げられた出来事に対し、「Fukushima water」などと書かれた投稿(Xから)
函館でイワシなどが打ち上げられた出来事に対し、「Fukushima water」などと書かれた投稿(Xから)
ハフポスト日本版

「新たな差別や偏見うむ」県議会で指摘

このような経緯を受け、自民党の渡辺康平議員は12月20日の定例会で、「共同通信と毎日新聞が『Fukushima water』と記事に記載した。海外に新たな差別や偏見を生み出すことになり、言語道断で見逃すことはできない」と指摘。

その上で、「外務省だけではなく県としても早急に対応すべき。海外向けの誤った報道や風評を助長する情報発信に対して、どのように対応していくのか」と質問した。

県側は、岸孝志・風評・風化戦略担当理事兼原子力損害対策担当理事が次のように答弁した。

「海外向けの誤った報道などについては、科学的な事実に基づき、正確な情報を発信し続けることが重要。国や東京電力に、正確で分かりやすい情報発信に全力で取り組むよう訴えていく。県としても本県への理解を促進するなど万全な風評対策に取り組む」

渡辺議員はこれを受け、「一般論でしか答えていない。処理水を『福島水』とするのは差別的で、この英文表記(Fukushima water)は県から厳しく申し入れをするべき。デイリーメールにもどう対応していくのか」とさらに質問。

すると、岸氏は「処理水は日本全体の問題」としながらも、「国や東電による丁寧な説明を求めていく」と繰り返し、議場はざわついた状態に。

煮え切らない県側の姿勢に、渡辺議員は「大変残念。国と東電は当たり前として、福島県としてどのように対応するのか」と重ねて質問したが、岸氏は「引き続き報道機関も含め、国と東電による丁寧な説明を求めるとともに、県としても正しい情報発信に努めていく」と述べるにとどめた。

福島第一原発では、原子炉建屋に雨水や地下水が流入するなどして、放射性物質を含む汚染水が発生している

これを多核種除去設備(ALPS)などに通し、トリチウムを除く放射性物質を国の安全基準を満たすまで除去したものが処理水だ。海洋放出する際は、トリチウム濃度が規制基準の40分の1、世界保健機関(WHO)飲料水基準の約7分の1となる「1リットル当たり1500ベクレル」未満まで海水で希釈される。

国際原子力機関(IAEA)も7月、処理水の海洋放出を「人や環境に与える放射線の影響は無視できるもの」とする包括報告書を公表している。処理水は11月20日、3回目の海洋放出が完了しており、1、2回目と同様に海水や魚類への影響は確認されていない。

なお、トリチウムは水素の仲間で、自然界や水道水、人間の体内にも存在する。放出するエネルギーは紙1枚で防げるほど弱く、これまで日本を含む世界各国の原発施設で海洋放出されてきた。

ハフポスト日本版は、処理水の安全性について「処理水とは何?汚染水と言わない理由は?危険じゃないの?福島第一原発【3分でわかる】」という記事でまとめている。

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