川崎殺傷事件「ひきこもりではなく、"孤立"に目を向けて」 ひきこもり当事者団体がメディアの報道に注文

事件報道に関して「無関係のひきこもり当事者を深く傷つけ、誤解と偏見を助長する」という懸念が公表された。
川崎襲撃/手を合わせる人たち
川崎襲撃/手を合わせる人たち
時事通信社

ひきこもっていたことと殺傷事件を起こしたことを憶測や先入観で関連付ける報道がなされていることに強い危惧を感じています》

川崎殺傷事件を受けて、ひきこもり当事者や経験者が運営する団体が31日、「ひきこもりと犯罪を関連付けるような報道」が多くされていることに対して声明文を公表した。

今回の事件では、容疑者の男性がひきこもり状態であったことがわかっている。

声明文ではまず、《「ひきこもるような人間だから事件を起こした」とも受け取れるような報道は、無関係のひきこもり当事者を深く傷つけ、誤解と偏見を助長する》と指摘。続けて、報道機関に対して《報道倫理に則り、偏った不公正な内容や、事件とひきこもりを短絡的に結びつけるような報道はしないこと》を求めた。

ハフポスト日本版は、声明文を公表した一般社団法人ひきこもりUX会議の代表理事・林恭子さんに電話インタビューをした。

たまたま事件を起こした人がひきこもりだっただけ」

林さんは、「これまでも、凶悪事件の犯人がひきこもりだと報道されるたびに、当事者は社会からバッシングを受けてきた」と話す。ひきこもりに対しては、「暗い・コミュニケーションが取れない・ゲームやネットばかりしている・得体の知れない」などのネガティブなステレオタイプも溢れている。

「たまたま事件を起こした人がひきこもりだっただけなのに、犯罪とひきこもりがイコールに語られるような報道が多くされています。犯罪を犯したということと、ひきこもりをつなげて考えないでほしいです」と林さん。

こうした報道が続くことの一番の懸念は、ひきこもりに対するネガティブなイメージが助長され、社会に「ひきこもりを隠そうとする風潮」が広まること、と林さんは言う。そうなれば、当事者が社会の中でさらに孤立してしまう恐れがある。

声明文でも、《れまでもひきこもりがちな状態にあった人物が刑事事件を起こすたび、メディアで「ひきこもり」と犯罪が結び付けられ「犯罪者予備軍」のような負のイメージが繰り返し生産されてきました。社会の「ひきこもり」へのイメージが歪められ続ければ、当事者や家族は追いつめられ、社会とつながることへの不安や絶望を深めてしまいかねませんと語られている。

「ひきこもり」ではなく「孤立」に目を向けて

林さんは、今回の事件について、「犯人が『孤立していた』ということに目を向けていく必要がある」と話す。孤立は、ひきこもりであるなしに関わらず、誰でも抱えうる問題だ。

また「ひきこもりも、決して「他人事」ではない」と林さんは言う。ひきこもりのきっかけも、職場でのパワハラやセクハラ、親の介護など、誰にでも起こりうることが多い。

ひきこもりを危ないものや違うものと捉えるのではなく、自分事としてみんなで考えていくことが大切ではないでしょうか」と林さんは話す。

声明文は以下のように締められている。

事件の背景が丁寧に検証され、支え合う社会に向かう契機となることが、痛ましい事件の再発防止と考えます。特定の状況に置かれている人々を排除したり、異質のものとして見るのではなく、事実に則り冷静に適切な対応をとっていただくようお願い申し上げます

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