PRESENTED BY 本田技研工業

ホンダ「脱エンジン宣言」の覚悟。カーボンニュートラルに向けて走り始めた3つの新“エンジン”

ソニーとEVの共同開発・販売の合弁会社をつくると発表し、話題をさらったホンダ。カーボンニュートラル社会の実現に向けてアクセルを踏んでいる。
ホンダ提供

ホンダがエンジンをやめる ──。

モビリティ業界に衝撃が走った2021年4月。三部敏宏社長の就任会見でのことだ。

気候変動対策に各社が大きく舵を切る中、日本メーカーで真っ先に手を挙げたホンダ。2040年までにEV(電気自動車)とFCV(水素で走る燃料電池車)の販売比率を全世界で100%にすると宣言した。

あれから1年。

大きな目標を掲げたが、市場や関係者からは「果たしてどう実現するのか…」という疑問の声もあった。実際のところ、どんな具体策を持っているのか。

ホンダの環境技術をはじめ、先進技術全般の研究開発を担う本田技術研究所の代表取締役社長 大津啓司さんに聞いた。

株式会社本田技術研究所 代表取締役社長 大津 啓司(おおつ けいじ) 1983年、本田技術研究所入社。四輪車用エンジンの開発に長く携わり、 2018年、本田技研工業執行役員として、品質管理を担当。2021年4月より現職となり、未来技術の開発の舵を取る。
株式会社本田技術研究所 代表取締役社長 大津 啓司(おおつ けいじ) 1983年、本田技術研究所入社。四輪車用エンジンの開発に長く携わり、 2018年、本田技研工業執行役員として、品質管理を担当。2021年4月より現職となり、未来技術の開発の舵を取る。
ホンダ提供

<目次>
・ “脱エンジン”の先に待っているもの
・「EV一辺倒」にはしない理由
・ 3つのサイクル。実用化にむけた開発状況は…?
・ すべては本田宗一郎の時代から始まっていた
・ “絵に描いた餅”
にならないために

“脱エンジン”の先に待っているもの

── 欧州メーカーから遅れをとる形になりましたが、日本メーカー初の「脱エンジン宣言」には驚きました。なぜ踏み切れたのでしょうか。

地球環境の現状をふまえれば、もはやカーボンニュートラルは企業として必須の目標です。とはいえ、それを達成するのは、決して簡単ではありません。正直「難問」です。難問だからこそ、解決にはチャレンジが必要になる。

そのために避けて通れないと判断したのが、脱エンジンだったのです。

── 具体策が見えづらいという声もありますが、どのように実現していこうと考えていますか。

具体的な技術の話はあとで説明させていただくとして、まずはモビリティカンパニーである我々が目指すカーボンニュートラルのコンセプトをお話しします。

我々が「Honda eMaaS(ホンダ・イーマース)」と呼んでいるものです。

── eMaaS…。モビリティ業界では今、モビリティを生産・販売する存在から、移動というサービスを提供する(MaaS=Mobility as a Service)存在へ変わろうとする流れがありますが、それとはどう違うのでしょうか。

eMaaSは、その「MaaS」と「EaaS=Energy as a Service(エネルギーをサービス化し最適化をはかること)」を組み合わせたホンダ独自の概念です。

クリーンな再生可能エネルギー(再エネ)であらゆるモビリティサービスが提供される社会を構想しています。再エネは、天候や気候、日照時間など自然条件に合わせて発電量が変動するため不安定です。作りすぎたり足りなくなったり、変動することを想定しています。電力需要と発電量のバランスというのは非常に重要なポイントになります。

そこで、再エネで充電された電動バッテリーや燃料電池を積んだモビリティが、作りすぎた電力を蓄えたり、不足しているところに供給する仕組みを考えました。災害時には“動く蓄電池”としても活用できます。

── なるほど。勝手に未来のイメージを膨らませてみたのですが、車が再エネの“キャリア(運び屋)”として街を行き交う社会というイメージでしょうか?

そう考えていただいてもいいと思います。

モビリティは人々に「自由に移動する喜び」を提供しながら更に、余ったクリーンな電力で音楽を聴いたり、家庭内の電気として活用してもらったり、さまざまな用途で社会に貢献するようになっていきます。

車が再エネの運び屋に…? 取材後、ハフポスト日本版でイメージを描いてみました。
車が再エネの運び屋に…? 取材後、ハフポスト日本版でイメージを描いてみました。
イラスト / ハヤシナオユキ

「EV一辺倒」にはしない理由

── そのような社会を実現するために、具体的にどのような技術開発を進めていますか。

核になるのが、エネルギーの「マルチパスウェイ(複数の経路)」です。①電気の循環(電気サイクル)、②水素の循環(水素サイクル)、③カーボンの循環(カーボンサイクル)の3つを軸に、社会に再エネを循環させます。

わかりやすく表現すると、バイクやクルマは電気で動かし、より大きなエネルギーが必要な長距離移動やトラックなどには水素を使っていく。

さらに出力が必要な飛行機などを動かすには、CO₂を資源としたカーボンニュートラル燃料の活用です。燃料を使う際にどうしても出てしまうCO₂を回収し、再利用することでトータルゼロにする考え方です。

取材を終えて、ハフポスト日本版が「Honda eMaas」のイメージをまとめて絵にしてみました。
取材を終えて、ハフポスト日本版が「Honda eMaas」のイメージをまとめて絵にしてみました。
イラスト / ハヤシナオユキ

── つい「全てをEV化(電動化)すればいいのでは?」とも思ってしまうのですが、いかがでしょう?

電気、水素、そしてカーボンのサイクル(循環)が必要なのは、それぞれの強みや役割が違うからです。

電気は再生可能エネルギーをそのまま使えて、経済性が高い。

水素は、燃料電池を使って、よりパワーを要する大型商用車や長距離移動に対応できます。電池に蓄えた電気に比べてエネルギー密度が高いので、同じ容量でよりたくさん走らせることができるんです。仮に、長距離トラックを電気だけで走らせようとすると、大量のバッテリーを積む必要が出てきます。

それから電気に比べて、はやくチャージでき、ガソリン給油と同じくらいのスピードで充填できるなど、水素には水素のメリットがあります。

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── なぜ直接電気を使わず、わざわざ電気を水素に変換して使うのだろうか? と疑問でしたが、そのような背景があるのですね。

そしてカーボンサイクル。繰り返しになりますが、さらに高出力や長時間運転が求められる飛行機などのモビリティには、CO₂を資源としたカーボンニュートラル燃料の使用を想定しています。

また、走行時だけでなく、製品の生産時に排出されるCO₂をどう前後で吸収するのか。難易度の高い技術開発に取り組んでいます。

3つのサイクル。実用化にむけた開発状況は…?

── 3つの新“エンジン”とも呼ぶべき電気、水素、カーボンサイクル。それぞれの実用化にむけてどんな開発状況ですか。

全てをお話しできるわけではないのですが、まず「電気」に関しては、電動の着脱式可搬バッテリー「Honda Mobile Power Pack」(MPP)が、すでに実装段階に入っており、“EVバイク”が街を走っています。

実は日本郵便の郵便配達用に、MPP搭載の電動二輪車「BENLY e:(ベンリィ イー)」がもう導入されています。また、アジア各国でMPPを使用した二輪や三輪のバッテリーシェアリングサービスの実証実験も行っています。

インドで実証実験されるリキシャ(左)と、充電中のMPP(右奥)。
インドで実証実験されるリキシャ(左)と、充電中のMPP(右奥)。
ホンダ提供

乗用車でいうとEVの「Honda e」が好評いただいている他、中国にて展開するEVブランド「e:N」を2021年に発表しました。22年春発売のモデルは、航続距離が500kmを超える予定です。

発売中のEV「Honda e」。
発売中のEV「Honda e」。
ホンダ提供

すべては本田宗一郎の時代から始まっていた

── 水素とカーボンに関してはいかがでしょう?

「水素」については、燃料電池を搭載した商用トラックをいすゞと共同で研究開発中で、2022年度中にモニター走行を開始する予定です。また、ゼネラルモーターズ(GM)と、FCV(燃料電池車)の拡大だけではなく、モビリティ領域以外での活用も見据えたFCパワーユニットの共同開発をしています。

カーボンサイクルに関しても複数の取り組みを進めていますが、その1つが藻の研究開発です。これは光合成を行う藻を使ってCO₂を吸収し、その藻を原料にバイオ燃料やバイオ樹脂、さらには食料やサプリメントとして活用していくものです。その名も「Honda DREAMO(ドリーモ)」。10年前から研究開発を重ね、実用化に向けて準備を進めています。

研究開発中のHonda DREAMO(ドリーモ)。
研究開発中のHonda DREAMO(ドリーモ)。
ホンダ提供

── 藻の開発まで手がけていたんですね。「技術のホンダ」という言葉はよく聞きますが、そのすごさはどこにあるんでしょうか。

一つひとつの技術開発に、ホンダが長年培ってきた技術が活かされています。それこそクルマは、気温マイナス30度から50度までの過酷な環境で使われ、走行中や衝突時には大きな力もかかる。モビリティは人の命を乗せるもの。その開発は、他の電化製品等と比べても非常に厳しい条件のもと行われてきました。

だからこそ、我々の技術はどんな領域でも使えるタフさを備えているという点に、自信を持っています。

遡ればホンダは、本田宗一郎の時代から、現在でいうSDGs的な取り組みをしてきました。例えば、「水上を走るもの、水を汚すべからず」という考えがあります。1964年、船外機の主流が2ストロークエンジンの時代に、ホンダは重量やコスト面で不利でも、水中にオイルを放出せず、海を汚さない4ストロークエンジンで参入しました。海などで働く人の役に立つために開発したエンジンが仕事場の環境を汚すことなどあってはならないという、ものづくりへの信念です。

この他にも、そんな領域まで手掛けるの?といった技術も数々開発してきました。「人の役に立つ」と思ったことはどんどんやってしまう。自社ながら面白い会社だなぁと思います。でも、その「人の役に立つ」技術が、「3つのサイクル」という形で繋がり、活きてきていると感じています。

“絵に描いた餅”にならないために

──「Honda eMaaS」構想は、自社だけでは到底実現できないものだと思います。他社や他業界、ステークホルダーに期待することはありますか?

何といっても、すべての源泉となる再生可能エネルギーの供給が多くならなければ、“絵に描いた餅”になってしまいます。せっかくEVに乗っていただいても、バッテリーに充電する電気が石炭火力由来だとクリーンとはいえない。

やはり社会全体でクリーンエネルギー化が必要です。我々も一緒に頑張っていきたいですし、何より国のバックアップが不可欠です。我々としても、電気・水素・カーボンの3つのサイクルや仕組みをできるだけ整え、再生可能エネルギーの“供給先”を大きく広げて備えたいです。

これは、ホンダ製品に限られた話ではありません。同じ規格のバッテリーや燃料電池を使える製品が多くなればなるほど、お客様の利便性も高まりますので、他社とも積極的に協業していきたいです。

── ソニーとEVの共同開発・販売を目的に合弁会社を立ち上げるというのも、挑戦的なパートナーシップという意味では、大きな一歩でしたね。

ともに記者会見に臨んだソニーグループの吉田憲一郎社長(左)とホンダの三部敏宏社長。
ともに記者会見に臨んだソニーグループの吉田憲一郎社長(左)とホンダの三部敏宏社長。
ホンダ提供

今後のモビリティ事業のあり方として、オープンであること、パートナー連携を進めていくことは非常に重要だと考えています。異業種でも大きなビジョンを共有し、お客様や環境に寄り添い、進化を続ける新しい時代をつくっていきます。

── カーボンニュートラルに向けて走り出した今を「第二の創業期」と位置づけられています。脱エンジンとなれば、仕事内容が大きく変わる社員もいるでしょう。第二の創業期を迎えたホンダは、どんな会社でありたいですか。

私たちは長い間、エンジン開発に取り組み、製品を生み出してきました。でも、それを変えなければいけない時代がやってきた。会社が変わらなければいけないということは、働く一人ひとりが変わる必要があります。人間、変わるのは嫌なものです。同じことを続ける方がラクだし、新しいことをするのは怖いです。それでも、変わらなくてはいけない。

技術でみんなを笑顔にし、世界の先頭を目指して、ホンダはやる。そのためにホンダにいる一人ひとりと、諦めずにチャレンジし続けていきます。


(取材・文:ハフポスト日本版)

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