人気お笑いコンビ・ハリセンボン。
結成からわずか4年後の2007年、続く2009年にM-1グランプリ決勝進出を果たした2人は、この日も漫才の舞台に立っていた。
東京・新宿にある劇場「ルミネtheよしもと」に集まった観客は、近藤春菜と箕輪はるかの軽快なやりとりに、手を叩いて笑う。
目の前の人を笑わせること。これが「一番の快感」なのだと二人は口をそろえる。
はるか、40歳。春菜、37歳。「彼氏は?結婚は?」と周囲に聞かれ続け、自問自答を重ねていたら、人生の本質が浮かび上がってきた。
結成から17年。二人が今、一番大切にしているものとは?
ルミネtheよしもとでの出番の合間に、楽屋で話を聞いた。
ーー出番、お疲れさまでした。お二人の漫才に会場も湧いていましたね。
近藤春菜さん(以下「春菜」):まだまだ新型コロナが大変な時期ではありますけど、こうして生で舞台に立てるのはありがたいです。やっぱり一番やりたいことって、こうやって人を笑わせることだなって実感します。本当にアドレナリンが出るんですよね。
箕輪はるかさん(以下「はるか」):私もそうです。お客さんの笑い声って、なかなか快感というか、一度味わったらやめられないものなんですよね。
ーー色々なお仕事をされているお二人ですが、「これが一番好き」と言語化されているのがすごいですね。
春菜:新型コロナの影響も大きいです。4月に予定していたハリセンボンのトークライブができなくなりました。すごく残念だったんですけど、これを機にInstagramのアカウントを新しく作って、はるかとインスタライブをやったんですね。本当に慣れない中だったんですけど、それが楽しくて。どんな形でも私たちは発信できるんだって思ったし、コンビで笑いを届けることが好きで、それをお互いの力を出し合ってやっていきたいんだと、改めて思いました。
はるか:スタジオに集まりにくくなってるからこそ、人がわーっと熱狂するバラエティーの感じが自分は好きなんだと思いました。街ロケも、その場その瞬間でしか生まれない笑いがあって、それがまた楽しい。当たり前のことが当たり前にできなくなって、気づいたことはたくさんありますね。
女37歳。「自分の幸せは自分で決める」
春菜:それから、年齢的な部分もあると思います。はるかも40歳になって、私も37歳で。女性コンビだと結婚や出産などのライフイベントを意識する年代になってきて…。久しぶりに会う人には必ず「どうなの?」と聞かれる。それに対して「そうか…、自分は仕事やプライベートをどうしたいんだろう?」と自問自答するようになりました。
もっと若い頃は、プライベートでは、恋愛もして幸せになってコンビも続けて…、仕事では、MCやって、冠番組持つことを目指して、といった具合に「こう進まなきゃいけない」という思いが強かった。でもこの年齢になってくると、果たしてそれが自分にとっての幸せなのかな?と考えるようになりました。
ーー春菜さんは以前テレビ番組の中でも「自分の幸せは自分で決める」という趣旨の発言をされていましたね。自分に自信を持っている感じがして素敵です。
春菜:到底そんな風には思えない時期ももちろんありました。周りの芸人や友達と比べたり、SNSを見てめちゃくちゃネガティブになった時期もあります。
でもある時、尊敬する人に言われたんです。『何でそんなに自信ないの?』って。『何で、自分がちゃんとできているところを見ないで、他人のできていること、得意なことばっかり見るの?人と比べても何も生まれないよ』って。
その言葉が突き刺さってきて、「そっか、無理して他人に合わせなくていいじゃん」って思ったんですよね。ナチュラルな自分で居られることが楽しいんだって。そして、自分をそうしてあげられるのは自分だけだと改めて気づきました。私が私らしくナチュラルじゃなきゃ、見てる人にも自信をもって笑いをお届けできないですしね。
はるか:私も、どうしても他人と比べちゃうところがあるので、こういう春菜の発言は凄いと思います。ちゃんと自分で自信を持てるようになったっていうのも、そうなれるところまで経験も思考も積み上げていかなきゃいけないと思うので。私は正直、まだそれを胸を張って言えないかも…と思うと、やっぱりすごい。
「春菜に嫉妬したときもあったけど…」
ーー他人との比較という意味では、コンビ同士はもっとも身近な存在でもあると思います。相方と自分を比べてしんどくなるようなときもあるのでしょうか。
はるか:テレビに出始めた頃は、春菜が注目されるということに対して、焦りや嫉妬みたいなものもありました。でも、結局はハリセンボンは二人でひとつなので、そこがファンや視聴者の方にも伝わればいいかなとは思ってます。
ただ、春菜に負担がかかり過ぎているなと感じて、申し訳なくなることもあります。なかなか同じレベルのお笑いができてなかったなという時には、慌てるし焦る。そういうのは日々ありますね。
春菜:私たちって全然タイプが違うんですよね。陰と陽というか。はるかみたいな「陰」のタイプは、芸人では稀少だと私は思っています。ひな壇だと、キャラは出づらいし、声も通らない(笑)。コンビの相方として「どうやったらもっと、はるか(の良さ)を出せるんだろうってすごく考えた時期もある。けど今は、これがはるかだって思ってます。このままで居てほしい。
はるか:春菜にそう思ってもらえてるなら、嬉しいですね。自分のままで良いんだっていうことが。
ーーものすごい愛ですね。
春菜: はるかがさっき「ハリセンボンは二人でひとつ」と言ってましたが、本当にその通りで。例えば、私一人でレギュラー出演させていただいている朝の情報番組『スッキリ』も、「個人の仕事」という感覚はなくて、「ハリセンボンの近藤春菜」でやってる気持ちなんです。はるかも『スッキリ』は録画して見てくれてますしね。
はるか:はい、基本的に全部見てます。『スッキリ』は春菜が帯で出演させていただいて、メインの仕事のひとつでもあるので、何を話しているのか、ちゃんと見ておきたいんです。これが春菜の一部になってるので、それを知らないと距離が開きすぎちゃうような気がして…。朝が弱いのでリアルタイムでは見れないのですが(笑)、深夜とかに録画したものを2倍速で見ています。
春菜:え、2倍速なのね(笑)初耳でした。でもこんな風にはるかが見てくれてるので安心してやれる部分は大きいです。
人を傷つける笑いは「やりたくない」
ーーところで、ハリセンボンといえば「〇〇じゃねぇよ!」などのフレーズで視聴者や観客を楽しませてきました。他方で、見た目を揶揄する笑いは古くなっている気もします。お二人は最近のお笑いをとりまく空気の変化をどう感じていますか。
はるか:見た目いじりはだんだん無くなってきた感じがしますし、逆に自分からも言うこともなくなってきましたね。容姿をあまりにも卑下しすぎるのは、自分は笑いが欲しくて言っているつもりでも、周りの人が「そんなこと言うなよ」みたいな反応になる時もあるという変化は感じています。
私自身の心境も変わってきていますね。自分がブスとか言うことによって、自分は良くても、それを見た女性で傷つく人がいるかもしれないと思うと、言いたくないなという感覚にはなってきています。容姿を蔑むようなことを他人に言っていいんだ、という(ことを認定する)種を、小さくても一つ、自分が蒔いてしまっているのもイヤというか…。
春菜:もちろん、それで“おいしい思い”をしてきた部分もあります。だけどそこにずっとこだわるんじゃなくて、時代とともに皆さんの感覚や笑いのあり方が変わっていくのを感じつつ、私たちも変わらないとな、と思います。
はるか:世の中の人たちが、どこを面白がっていて、どこはもう笑えないのか?ということについては、社会を勉強するしかないんですよね。日々Twitterを見たり、ニュースを見たり。皆さんの感覚を自分の中に入れるように努めています。
これからも「老夫婦」みたいな関係で
ーーお二人が笑いに対して敏感で貪欲なことが色んな言葉から伝わってきました。今年は新型コロナの影響で大変な1年だったと思いますが、来年はハリセンボンとして、どんな風に働いていたいですか。
春菜:新型コロナの影響がいつまで続くかわかりませんが、なるべく目の前のお客さんに向かって、ハリセンボンの笑いを発信していきたいです。単独ライブもやりたい。ネタって作ってる時は本当に苦しくてしょうがないんですけど、やった後の快感は何にも代え難いんです。一人の仕事としても、今までとは違った新しいチャレンジをしていきたいですね。
はるか:私も、二人のトークライブが再開できたら嬉しいです。普段プライベートでは全然一緒にいないので、ライブのフリートークで春菜が話してくれる内容で「そんなことやってたんだ!」「最近そんなことがあったんだ!」と聞けるのを楽しみにしてたんです。最近春菜のプライベートが全然わからない感じで……
春菜:いや別にベールに包んでないですけどね(笑)でも確かに、他の女性コンビに比べると、普段全然一緒にいないし、電話やLINEもしない。老夫婦みたいな関係なんです。その距離感だからこその笑いの形をこれからも作っていきたいですね。
それから、はるかが40、私が37。私たちと同世代で、仕事やプライベートで同じような悩みを抱えている人たちに寄り添える二人でいたいなぁと思います。色んな人がいて、ありのままでオッケーだと、自分たちの姿を通して伝えられたら嬉しいです。
(取材・文:南 麻理江 @scmariesc /撮影:坪池 順 @juntsuboike)