PRESENTED BY 日本総合研究所

「脱炭素」の生活者参加へどのように行動変革を生み出すか 〜 メーカーと小売店それぞれの挑戦

生活者に脱炭素をより自分ゴトに感じ、実践してもらう環境づくりを推進するための協創型実証実験「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」が実施された。舞台となった小売店にはどのような仕掛けが展開され、そして売り場に商品を展開するメーカー企業はこのプロジェクトにどのような思いで臨んでいるのだろうか。

持続可能な社会の実現を目指して世界中が取り組んでいる環境課題である「カーボンニュートラル(脱炭素)」について、「興味はあるけど、何をしたらいいのかわからない」という生活者が多いという課題を抱える日本。こうした課題を解決するヒントを探るべく、日本総合研究所は、脱炭素を自分ゴトに感じ、実践してもらう環境づくりを様々な業種の企業とタッグを組んで推進する「チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(CCNC)」を立ち上げ、協創型実証実験「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」を実施しました。

実証実験の第1弾は、「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト~触れて、学んで、取り組んで!誰でもできる減CO2行動で脱炭素!」。“身近にあるお店の売り場から変えていこう”という試みです。今回は、この実証実験を実施した店舗のひとつである「万代 高槻インター店」(大阪府高槻市)の様子をご紹介するとともに、今回の実証実験に対する参画企業の思いをご紹介していきます。

「モンスターをやっつけよう!」店内には親子で楽しめる仕掛けが盛りだくさん!

万代 高槻インター店
万代 高槻インター店

「万代 高槻インター店」が入居する複合商業施設「ミリオンタウン」に入ると、最初に目に飛び込んでくるのは、「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」で企画・制作した仕掛けマシンコーナー。その名も「ゲンコツ(減CO2)!!でモンスターをやっつけよう!」です。仕掛けに参加する「挑戦券」を手に入れるために「合言葉マシン」に向かって大きな声で「ゲンコツ!」と叫んでもらったり、パンチングマシンに向かってパンチをすると「電気を無駄遣いするモンスター」「水を無駄遣いするモンスター」「食べ残しをするモンスター」など暮らしの中のムダから生まれるCO2が大好物の「CO2モンスター」を倒すことができたりなど、お子様が楽しく脱炭素を体験できる仕組みになっています。

そして、「万代 高槻インター店」でも、親子でお買い物を楽しみながら脱炭素を体験できる仕掛けが。「君は地球を救えるか!?減CO2(ゲンコツ)ナゾトキ大作戦!」は、スマートフォンで謎解きに挑戦してもらい、脱炭素にまつわる様々な気づき・発見を楽しんでもらおうという取り組みで、謎解きをコンプリートするには、店頭に用意された「謎解きのヒント」を使う仕組みになっています。店内の様々な場所を使って行う取り組みのため、店舗にとってはお客様に店内を回遊してもらえるという効果も期待できます。

また、店内に設置された「みんなで減CO2(ゲンコツ)特設棚」では、プロジェクトに参加する各企業の環境配慮型商品を集めて「ゲンコツチョイス」と位置付けて陳列したり、脱炭素にまつわる絵本を用意したりなど、「買い物で地球を守ろう」というキャッチコピーのもと、脱炭素について楽しみながら学べる仕組みになっています。プロジェクトに参加する各企業の商品はそれぞれジャンルが異なり「万代 高槻インター店」の店内でも陳列される場所は分散していますが、それぞれの商品が並ぶ常設棚には「ゲンコツチョイス」のPOPを掲出して目立つ工夫も。商品・ブランドが脱炭素のためにどのような工夫や取り組みを行っているかもわかるようになっています。

万代 高槻インター店
万代 高槻インター店

スピード感をもって変化を生み出すことは、小売店の使命

店舗を運営する株式会社万代 取締役の頓宮 博さんは、今回のプロジェクトに参画した背景について「脱炭素は万代にとっても重要なテーマだが、店舗経営だけで実現することは難しい。様々な企業が一緒に取り組むコンソーシアムに参加することで、新しい方法で脱炭素の取り組みが実現できるのではと考えた」と語ります。小売店では価格優位性の高い商品などに生活者の目が止まりやすい傾向がありますが、今回展開した仕掛けや謎解き、特設コーナーなどを通じて「価格に頼るだけでない新しい顧客誘導、来店動機を生み出すことにトライしたい」と意欲を語りました。

今回の売場に対して「珍しさもありお客様が足を止めてくれている。親子で来店するお客様からの反響は大きい」と語る頓宮さん。対象商品の売れ行きについても増加が見られるといいますが、実施効果はこれから見えてくるものと思われます。万代では日本総研と共同で商品の売上データ(POSデータ)による顧客分析を行っていますが、今回の実証実験によるPOSデータの分析結果はコンソーシアムに参画するメーカーなどに提供していきたいとしています。「分析結果を脱炭素に取り組む企業に還元することで、よりプラスになる取り組みに繋がれば」と頓宮さん。今後の展開に向けた抱負について次のように語っています。

「 “環境にやさしい製品”だから売れるという傾向は、地球環境の未来を考えると進まなければならない道なのは確か。生活者との接点である小売店がスピード感をもって変化を生み出していくのは使命だと考えている。今後は野菜(農場)、鮮魚(水産)、生肉(畜産)、惣菜など自社ブランドで展開する商品についても、環境配慮型へシフトしていきたい」(頓宮さん)。

万代 取締役 頓宮 博さん
万代 取締役 頓宮 博さん

生活者が脱炭素に参加しやすい環境づくり、そのために必要なことは

一方で、小売店に商品を供給するメーカー企業は、脱炭素をめぐる生活者の行動変化という今回の挑戦に対して、どのような思いを持っているのでしょうか。アサヒグループジャパン株式会社 執行役員 コーポレートコミュニケーション戦略部長の高森志文さん、日本ハム株式会社 加工事業本部 マーケティング統括部 ブランド戦略室長 兼 マーケティング部長の長田昌之さんにお話を伺いました。

グローバルに事業を展開し、原材料の調達から加工・生産・流通に至るまでをワンストップで行う両社にとって、持続可能な社会を実現するためのカーボンニュートラル(脱炭素)は大きな経営課題のひとつ。両社ともに明確なビジョンを掲げ、様々な取り組みを推進しています。しかしながら、日本市場においては「生活者の関心や環境を意識した購買の意欲が少ない」という課題に直面しています。

第1回の記事でも指摘した脱炭素をめぐる「日本と世界の温度差」について、売上の海外比率が50%を超えるというアサヒグループジャパンの高森さんは「サステナビリティに関しては法整備でも、生活者意識でも欧州がかなりリードしている。欧州基準で事業をしていかないとグローバル展開はできない」と語り、「日本では企業が必死に欧州基準で環境整備をしても市場環境が(欧州の基準に)追いついていない」と指摘します。「グローバルで市場を生き抜くには脱炭素への対応は避けて通れない」(高森さん)。

一方で高森さんは、日本の生活者に脱炭素への取り組みが浸透しにくい要因のひとつとして「脱炭素は“目に見えない”ことが大きな課題」と指摘。リサイクルペットボトルなどを例に挙げても、商品が環境に配慮しているのか否かを商品の外見だけでは見分けられないことで、生活者に自社の脱炭素の取り組みを伝えにくい点を挙げています。「どうやって企業の取り組みを見える化するか。今回の実証実験の狙いはそこにあるのではないか。これは1社だけでは十分な取り組みにはならず、様々なステークホルダーが集まって取り組むことに意義がある」と高森さんは語ります。「今回の実証実験では、生活者に何を伝えられたのかが重要ではないか。そこに、今後のコミュニケーションのヒントがある」(高森さん)。

アサヒグループジャパン 執行役員 コーポレーションコミュニケーション戦略部長 高森志文さん
アサヒグループジャパン 執行役員 コーポレーションコミュニケーション戦略部長 高森志文さん

こうした話を受けて「1社だけで行う実証実験は購買行動に変化を生み出せず失敗することが多い。“エコだから買う”という生活者の購買行動はまだ見られないが、様々なカテゴリーの企業と共創することで、脱炭素に向けたメッセージが認知されるのでは」と期待を寄せる日本ハムの長田さん。同社では高森さんが指摘する「脱炭素は伝えにくい」という課題について、主力商品のウインナー「シャウエッセン」をエコパッケージに変更した際にPR活動で話題化させた前例を持っています。「ただのリニューアルでは“未来に向かって変わっていく”という脱炭素へのメッセージは伝わらない。リニューアルをイベント化して世の中の話題にした」と長田さんは振り返ります。

売上を牽引する主力商品がエコになったという話題作りに挑戦した日本ハム。長田さんは、生活者に脱炭素の意識を定着させるヒントとして「お客様の当たり前にいかに環境配慮商品が入り込んでいくかが重要ではないか」と指摘します。市場競争の中で、十分なシェアを獲得して生活者にとっての「定番商品・ブランド」に成長させる。そしてその商品やブランドが環境配慮を進めることで、生活者も自然と環境配慮に参加できるわけです。「市場シェアを獲得するためのブランドマーケティングと脱炭素の啓発活動は、生活者が脱炭素に参加できる環境を生み出す上で両輪を成していく」と長田さんは提言しました。

日本ハム 加工事業本部 マーケティング統括部 ブランド戦略室長 兼 マーケティング部長 長田昌之さん
日本ハム 加工事業本部 マーケティング統括部 ブランド戦略室長 兼 マーケティング部長 長田昌之さん

生活者が脱炭素に参加できる環境を生み出す環境づくりについて長田さんの話に共感した高森さんは、「環境への意識の高い生活者層が増えていけば、購買行動が変わっていく可能性がある」と次世代を見据え、将来の購買層になる子どもたちの世代にも期待を寄せます。今回の実証実験では仕掛けや謎解きなど子どもたちが楽しみながら参加できる仕掛けがたくさん用意されました。仕掛けや謎解きを楽しんだ子どもたちが大人になり、スーパーで買い物をするようになったときに「脱炭素」「環境配慮」が当たり前になっていれば、世の中は変わったと言えるのかもしれません。

今回は、実証実験の模様とメーカー企業の脱炭素への考えについてご紹介しました。脱炭素に生活者を巻き込み、個人が自律的に脱炭素に取り組む世の中の実現を目指して、様々な企業がタッグを組んで取り組む「チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(CCNC)」の挑戦はこれからも続きます。

万代 高槻インター店
万代 高槻インター店

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