PRESENTED BY 日本総合研究所

企業が一丸となって脱炭素に取り組むために、乗り越えるべき課題とは

脱炭素社会の実現に向けた取り組みを推進するにあたって、重要な指標となる「カーボンフットプリント」。算定する企業が増加している一方、一企業内の各部門を横断し社員のベクトルを合わせ、脱炭素に向けて一体感を生み出すためには課題も残る。企業の脱炭素の取り組みについて、メーカー企業、エネルギー供給企業、そして気候変動対策に取り組むスタートアップはどのような課題を感じているのだろうか。

業種・業界の垣根を超えてあらゆる企業がタッグを組み、生活者を巻き込みながらカーボンニュートラル(脱炭素)に対する世の中の関心を喚起し、課題を解決していこうという思いで日本総合研究所が推進する「チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(CCNC)」。CCNCでは、生活者にカーボンニュートラルを身近に感じていただくことを目的にした協創型実証実験「みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト」をはじめ、様々なプロジェクトを推進しています。

一方で、生活者へ脱炭素の取り組みの共感の輪を広げていくためには、企業の製品やサービスが、サプライチェーン全体でどれくらいの温室効果ガスを削減しているのかを“見える化”することが不可欠です。そこでグローバル企業や上場企業を中心に導入が進んでいるのが「カーボンフットプリント」という考え方。これは、商品やサービスがつくられてから捨てられるまでの過程で生み出される温室効果ガスの量を二酸化炭素に換算して“見える化”し、世の中に公開していくというものです。製品のライフサイクル全体で生まれる温室効果ガスを定量的に捉え、温室効果ガス削減の目標を設定したり、目標達成の進捗を“見える化”したりすることで、さらにカーボンニュートラルへの取り組みを加速させることが期待されています。

日本でもカーボンフットプリントの考え方に関心が高まりつつあるなか、国内企業はどのような取り組みを推進しているのでしょうか。CCNCに参画するメーカー企業、エネルギー供給企業、そして新しいテクノロジーを生み出すスタートアップ企業に、カーボンフットプリントの算定における現状と課題、そして課題解決のヒントについて伺いました。

脱炭素へのチャレンジを推進するメーカー企業が抱える課題

メーカー企業を代表してお話を伺ったのは、三幸製菓株式会社 取締役 経営本部長の秦野勝義さん。新潟に拠点を置く三幸製菓はご存知の通り、お煎餅をはじめ米菓商品の国内大手として創業から61年という長い歴史を持つ企業です。

秦野さんによると、同社では商品作りの面や輸送面などで脱炭素のための取り組みに挑戦しているといいます。例えば、パリッとした食感が魅力のお煎餅にとって湿気は大敵。そのためパッケージには以前からプラスチックを多用していましたが、梱包方法を見直すなどしてプラスチックの削減に取り組んでいるといいます。また、賞味期限を延長する工夫をすることで食品ロスを減らすほか、輸送方法を見直すことで輸送時に排出される温室効果ガスの削減を図るなどの取り組みを行っています。秦野さんは「脱炭素に取り組んだ結果、品質の低下や、コストを商品価格に転嫁することになったら意味がない。品質を維持・向上させながら脱炭素を実現することが私たちのチャレンジだ」と語ります。

一方で、カーボンフットプリントの取り組みについては課題もあるといいます。同社では、人気商品である「雪の宿」の温室効果ガスを“見える化”するカーボンフットプリントの算定を試みましたが、同社では工場単位のエネルギー利用量は把握できるものの、同一生産ラインで複数の商品をつくる場合に水光熱の計量を切り替える仕組みを導入しておらず、排出される温室効果ガスを正確に把握することが困難な状況なのだといいます。「温室効果ガス排出量の把握方法を自社だけでは確立できないと言わざるを得ないのが現状。外部企業の協力も仰ぎながら課題解決の糸口を探る必要がある」と秦野さんは語ります。

三幸製菓株式会社 取締役 経営本部長 秦野勝義さん
三幸製菓株式会社 取締役 経営本部長 秦野勝義さん

そして、カーボンフットプリントの算定を含めた脱炭素の取り組みを企業として推進するためには、全社的な理解の促進も不可欠だと秦野さんは指摘します。同社が経営計画の中でサステナビリティへの取り組みを打ち出したのは2024年度が初めて。これまで「より良い商品を、よりお買い求めいただきやすい価格でお客さまへ安定して提供する為、低コストで大量に生産する」ことを重視して原料調達・製造・輸送の最適化を推進してきたメーカー企業にとって、脱炭素への取り組みを理解し、一丸となって取り組むためには全社的な理解の促進が重要です。この点について秦野さんは「脱炭素への取り組みが事業へのインパクトとしてメリットがあるかどうかが重要。社内の理解が得られるまで、KPIを設定して社内の各部門と話し合いを持つ時間を作っていく」と語りました。

脱炭素への取り組みをポジティブに捉えてもらうためには

秦野さんの話を受けて、「脱炭素を意識した経営目標の設定や設備投資は増えている。当社が提供するソリューションに対して、過去にない程多くの相談がある」と語るのは、大阪ガスのグループ企業で、工場や店舗などにエネルギーの供給をはじめとしたエネルギーソリューションを提供しているDaigasエナジー株式会社 広域エネルギー営業部の八尾正俊さん。しかしながら、脱炭素への企業の関心が高まる一方で「実際には上手く進められていない企業も多い」と課題を挙げます。「経営目標を定めるものの、それぞれの事業で具体的にどのように脱炭素の取り組みを進めるべきか悩んでいる企業は多い。設備投資のコストも大きな課題だ」(八尾さん)。

経営課題として脱炭素に取り組むことが明確になっているものの、業務の現場で具体的なアクションが生まれにくいという課題に対して、どのような解決策があるのでしょうか。八尾さんは、そもそも脱炭素への取り組みを「社会課題解決のために取り組まなければならないもの」という義務感をもって捉えるのではなく、「企業活動が未来に向けて進化するためのもの」とポジティブに捉えることが重要だと指摘します。「脱炭素への取り組みは導入の手間やコストが掛かるほか、ビジネス上のメリットが見えにくいと捉えられてしまいがちだが、これを前向きな取り組みに転換していく必要があるのではないか。私たちもCCNCでの取り組みを追い風にしながら企業に価値のあるエネルギーソリューションを提案していきたいと考えています」(八尾さん)。

Daigasエナジー株式会社 広域エネルギー営業部 八尾正俊さん
Daigasエナジー株式会社 広域エネルギー営業部 八尾正俊さん

八尾さんが指摘するように、脱炭素への取り組みをポジティブに進めるためにはどのような打ち手があるのか。そのヒントになるのが、まず自社の温室効果ガス排出量を定量的に把握することです。クライメートテック領域のスタートアップ企業であるアスエネ株式会社は、CO2排出量を見える化・削減・報告できるクラウドサービスを開発・提供しています。取締役COOの岩田圭弘さんは「脱炭素の取り組みはダイエットに似ている」と指摘します。まずは現状を数値で把握する。そして目標を定め、その進捗状況を日々確認しながら、より良い効果が出ていればそれをモチベーションにして取り組みを加速させ、効果が出ていなければさらなる改善策を考える。「現状把握と進捗管理をすることで社内のモチベーションの醸成に繋がる」と岩田さんは語ります。 

実際、岩田さんによると、このような考え方で温室効果ガス排出量の見える化に取り組む企業は増えており、最近では環境先進企業だけでなく中小企業にまで、その裾野は広がっているといいます。また、単なる把握に留まらず脱炭素の成果をCSRやIRにおける情報開示や製品・サービスのブランディングに活用するという企業も増加しているとも。岩田さんは、スタートアップ企業が脱炭素社会の実現に積極的に取り組むことについて「大企業はイノベーションのジレンマを抱え、新しいことになかなか挑戦しにくい。一方でスタートアップは失うものがない分、チャレンジがしやすい。多くのスタートアップが気候変動問題の解決に立ち上がることで、ムーブメントを生み出していくことができるのではないか」と語りました。

アスエネ株式会社 Co-Founder & 取締役COO 岩田圭弘さん
アスエネ株式会社 Co-Founder & 取締役COO 岩田圭弘さん

何を目標に進むべきかを明確にし、メリットが実感できる脱炭素を

脱炭素の実現が持続可能な社会の実現にとって大きな課題であることは明確です。ではその実現のためにはどのような課題と向き合う必要があるのでしょうか。今回お話を伺った3社が共通して挙げたのが「目標とプロセス、そしてメリットの明確化」という課題です。

Daigasエナジーの八尾さんが「エネルギー転換により脱炭素をしようにも、経済性や技術面において課題は多く、現実的な脱炭素の道筋・ゴールが見えにくい」と語ると、三幸製菓の秦野さんも「『脱炭素って私たちにどんなメリットがあるの?』を生活者にも企業の社員にも理解してもらう必要がある。それが浸透していないから、脱炭素の取り組みが加速されないのではないか」と指摘。そしてアスエネの岩田さんも「取り組んだことのメリットが十分に感じられていない。脱炭素に対するインセンティブと進捗の見える化が重要」と語ります。

企業や生活者が一丸となって脱炭素社会に取り組むためには、こうした課題を企業の垣根を超えて考え、生活者を巻き込むためのアイデアを形にしていくことが重要です。Daigasエナジーの八尾さんはこれからのCCNCでの取り組みについて「1社ではできないことを実現したい。企業と連携することで脱炭素だけでなくあらゆる課題を乗り越えていければ。当社だけでなく、Daigasグループ全体でCCNCに貢献していきたい」と語ると、アスエネの岩田さんは「業界の第一線で活躍されている企業と一歩を踏み出せたのは大きい。CCNCをきっかけに連携の輪が拡大していけば、私たちの目指す世界が社会に伝えられるのでは」と期待を寄せます。そして三幸製菓の秦野さんは「自社だけでは『なぜ脱炭素なのか』『なぜサステナブルなのか』をなかなか生活者に伝えられない。CCNCでの取り組みをきっかけにして、当社でも独自の企画で生活者に脱炭素を伝えていく施策を生み出されば」と語ってくださいました。

あらゆる企業がタッグを組むCCNCの取り組みから、社会のムーブメントを生み出す 

チャレンジ・カーボンニュートラル・コンソーシアム(CCNC)では、2024年4月から新年度となり新しいチャレンジがスタートします。そこでコンソーシアムを推進する日本総合研究所グリーン・マーケティング・ラボの責任者である佐々木 努さんより2023年度の振り返りと2024年度の展望についてまとめてもらいました。

株式会社日本総合研究所 創発戦略センター グリーン・マーケティング・ラボ ラボ長 佐々木努さん
株式会社日本総合研究所 創発戦略センター グリーン・マーケティング・ラボ ラボ長 佐々木努さん

「2023年度は、生活者の意識変容を促すための試みとして協創型実証実験『みんなで減CO2(ゲンコツ)プロジェクト』を推進しました。その成果については現在詳細を取りまとめていますが、生活者の意識向上と行動の変容、脱炭素商品の認知向上と購買促進など、様々な側面で非常にポジティブな結果が生まれていると感じています。今まで脱炭素にあまり関心のなかった方も、今回の仕掛けや特設コーナーなどの実証実験を通じて脱炭素について考えるきっかけになったという声も耳にしています。脱炭素についての学びや気づきの機会を設けられたことや、実際に商品棚から脱炭素に取り組む商品を選んでいただいたことによって『これからも継続的に実践したい』という反響が生まれたことは大きな成果だと感じています。

CCNCとしての第一歩は成功したので、実証実験の中で生まれた課題・問題点などにも向き合いながらこれからも取り組みを進めてまいります。2024年度は、引き続き生活者の行動変容を促すコンテンツを開発していくほか、多様な企業が参画することによる横断的な取り組みを通じて脱炭素社会の実現に向けて推進するというコンソーシアムの意義を踏まえて、新しいパートナーを巻き込みながら活動の幅を広げ、より大きな社会のムーブメントを生み出していくことができればと考えています」。

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