夫の不機嫌ハラスメント「フキハラ」に泣きながら声をあげた。私たち夫婦はどう話し合ったか。

不機嫌になることが悪いわけではない。相手を萎縮させずにきちんと会話をして、歩み寄りたい。夫は最初は戸惑いながらも、心を開いてくれました。「弱さを見せた方が自分も生きやすくなるかもしれない」と思ったのだといいます。
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夫と息子と娘と。(撮影:佐藤健介)
夫と息子と娘と。(撮影:佐藤健介)
伊是名夏子

私が先日書いたコラム、“不機嫌ハラスメント「フキハラ」”が話題になり、Twitterでも多くの反応をいただきました。

私と夫のパートナーシップを例に、特定の相手に不機嫌な態度をとり続けることで、ハラスメントの加害者と被害者の関係におちいってしまう恐れについて書いたのですが、反響の大きさに驚くばかり。「ずっと求めていた言葉だった」「わかる!いつもされていてつらい」という共感の声から、「自分がしているかもしれないので気を付けたい」「なんでもハラスメントと名付けられると、どこで安心して気持ちを出せばいいの?」など様々な視点からの書き込みがありました。

そうした声を一つ一つ読みながら、改めてフキハラに悩む方に伝えたいこと、そして、前回のブログで書ききれなかった「私と夫がどのように対話を重ね、どうフキハラを乗り越えたか」について綴ろうと思います。

夫と息子と娘と。(撮影:佐藤健介)
夫と息子と娘と。(撮影:佐藤健介)
伊是名夏子

不機嫌になったっていいんです。

反響の中で多かったのが「いつも機嫌よくいなきゃいけない世の中は辛い」というものです。この指摘にはハッとしました。そして改めて考えてみたのですが、不機嫌になることと、不機嫌ハラスメントはやっぱり違うものです。

不機嫌になること自体は、ハラスメントではまったくなく、忙しかったり、疲れていたり、うまくいかない時に不機嫌になるのは誰だってあること。私もイライラしたり、PMS(月経前症候群:生理前の心や体の不調)などの体調不良で、パートナーに八つ当たりをしてしまうことがあります。また、疲れて帰ってきたのに、家でもいつも元気いっぱい、笑いながら過ごさなきゃいけないとなると、つらいですよね。不機嫌になること自体は全然問題ではないんです。

しかし…!特定の人の前だけで、何の説明もせず、急に不機嫌になったり、相手に恐怖や苦しみを与え、委縮させることはハラスメントにつながっていきます。相手の意見や思いを汲み取ることなく、不機嫌オーラ全開で、相手を一方的に責め立て、傷つけることはよくないと私は思います。

「力関係」に注意したい。

不機嫌とフキハラの境界について考える時、自分と相手の「力関係」や、それに伴う「恐怖感」もポイントになってくるかもしれません。

例えば、まだ小さな子どもが駄々をこねて不機嫌になってもそれはハラスメントではありません。機嫌が悪い子どもの相手をするのは、こっちもイライラしたり疲れたりするけれども、子どもに対して怖いと感じたり、委縮させられることは、基本的にはありませんよね。むしろ子どもにとって、安心している相手の前で、気持ちを素直に出すことはいいことです。

気を付けたいのは、一方的に相手を攻撃、支配しようとしたり、力や権力がある人が、自分よりもない人を委縮させていないか、ということ。お互いの関係性や相手に与える影響の違いで、ハラスメントかどうかが決まってくるのです。

子どもたちと八ヶ岳で。
子どもたちと八ヶ岳で。
伊是名夏子

夫に「フキハラをやめてほしい」と伝えた時のこと

記事への反響の中には、「自分もフキハラをしているかも」という声も目立ちました。もし自分がハラスメントしている側にいるかもと感じたら、まず相手と話し合い、お互いがどんな気持ちなのかを聞き合うことが大切だと思います。

とはいえ、気持ちを伝えるのは、本当に勇気がいるものです。私も最初は泣きながら夫に本音をぶつけました。

当時の私は長い間「夫が不機嫌になるのは仕方ない、仕事が大変で、頑張っていて、疲れているから仕方ない」と思っていました。でも毎朝、彼の顔色をうかがい、私がやりたいこと、お願いしたいことを言うのをためらい、我慢してしまうことはおかしいと気づき、不安を抱えながら、泣きながら彼に話をしました。

夫と話し合いをした日の前日、私たち家族は外食をしました。実はその時も、外食をしたいのだけど、提案すると嫌な顔をされないか、行く途中で不機嫌にならないか、どのタイミングで切り出そう、と不安を抱え、悩んでいました。結果的には楽しくランチができてよかったのですが。

そして彼にこう伝えました。

「きのう、外食をしたでしょ?あの時も、どうやって誘ったらあなたが不機嫌にならないか、楽しく過ごせるかと不安だったんだよ」「こんな風にいつもあなたの機嫌に振り回されて、気を遣い続けるのがつらい」と伝えると、彼はびっくりしていました。だって彼は楽しくランチできた、としか思っていなかったからです。

続けて、私は、パートナーシップを終わらせたいわけではなく、安心して過ごせないこの毎日がとてもつらいこと、朝から「うまく寝られなかった」と不機嫌な態度をとられると、話しかけるのが怖くなるので、普通におはようと言ってほしいということ、私がお願い事をしたときに、もし応じたくない・応じられない理由があるならば、嫌な顔をするのではなく、「今は疲れているからできないけど、お昼にやるよ」などと気持ちや状態や言葉で言ってほしいということ、そして、出かけた先で道を間違えて不機嫌になるのをやめてほしいし、本当に怖いので、そういう時はまずは休んでほしいということなどを伝えました。

家族4人で。(撮影:佐藤健介)
家族4人で。(撮影:佐藤健介)
伊是名夏子

彼もとてもショックを受けていました。しかし、もともと彼にハラスメントの知識があったこともあり、この状況を理解し、改善につながりました。

コラムを書くにあたり、あの時のことを聞いてみると、彼はこんな風に話してくれました。

「最初に話をされた時はなかなか受け入れられなくて。仕事も忙しいし、疲れているから仕方ない、と思って自分を正当化したくなった。でもまさかここまで怖がられているとは思っていなかったので、びっくりした」

「このままイライラが止まらない生活を続けるのは、限界があるし、ハラスメントの知識があるのに、自分もやってしまったと気づき、耐えられなくなった。相手も傷つけたくないし、自分のことを自分で追い込んで、こうした態度になっているのだろうから、自分を解放するためにも変わりたいと思った」

もちろん今でも、時には不機嫌になったり、強い口調になってしまうときはあります。

でも今までのように、私が不安を抱えて、萎縮することはなくなりました。彼が私の気持ちを聞いてくれるとわかっているので、「今のは怖かったよ」と冷静に気持ちを伝えることができるようになりました。彼も一度不機嫌になっても、イライラした威圧的な態度を続けるのではなく、状況を顧みるようになりました。

夫と息子と娘と。(撮影:佐藤健介)
夫と息子と娘と。(撮影:佐藤健介)
伊是名夏子

コラムを書く背中を押してくれた夫。その理由…

フキハラは、一度の会話ですべてが解決するわけではなく、出口の見えない長いトンネルのよう。睡眠不足だったり、疲れているときは、早く寝る。自己管理に気を付ける。相手はわかっているだろうと思って、ないがしろになりがちなコミュニケーションを丁寧にやる。例えば予定変更があっても、「カレンダーアプリを見たらわかるじゃん」「LINEで伝えたよ」ではなく、言葉で伝えて、確認する…。こうしたことの積み重ねです。

少しずつお互いに思いを伝える練習や、ピンチの時の改善方法を考えることが大切です。

Twitterでの反響の中には「こんなことを書かれて夫が可哀想」というものもありましたが、実はコラムを書く背中を押してくれたのは彼でした。

「自分が家で不機嫌になってしまう一面を持っていることは事実だし、弱さを見せた方が自分も生きやすくなるかもしれない」と思ったからだそうです。

さよなら、俺たち』『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』などの著書を通じてジェンダー問題について考察し発信する清田隆之さんは“男性が弱みを見せることが、男性自身の生きやすさにつながることもある”という趣旨のことを書かれています。これを読んだ夫も「変なプライドに縛られるのではなく、自分の弱いところを認めた方が生きやすくなるのかもしれない」と言って、今回背中を押してくれました。

フキハラのコラムを読んだ周囲の人から、夫は、「そんな一面、あなたにあったの?」と驚かれたり、「大丈夫?」と心配してもらったそうです。自分をオープンにしたことで、彼も人前で頑張りすぎたり、無理をしすぎるのではなく、自分らしく生きやすくなっていけるといいなと思います。

夫と二人で(撮影:佐藤健介)
夫と二人で(撮影:佐藤健介)
伊是名夏子

パートナーシップを諦めないために。

パートナーシップって本当に難しいですよね。変えたいと思っていても、長年積み重ねてきた関係性を見直すことは大変で、どこから手を付けたらいいかわからなくなります。

いざ気持ちを伝えるといっても、お互いに安心できる関係がないと、なかなか本音を言えませんよね。また、素直な気持ちを言葉にしても、伝わるか不安もある。素直な気持ちを伝えるってハードルが高いと思います。

もちろん、パートナーシップをやめる選択肢もあるし、うまくいっていないと感じながらも、なんとか現状維持を目指す生活もアリだと思います。だって、行動を起こすこと、本音で話すことは、本当に大変だからです。

それでも私は、パートナーシップをやめる前に、彼との関係性をあきらめたくなかったのです。できる方法を試してみたかった。これからももちろん色々な問題は起きるでしょうし、パートナーシップを辞めたいと思う時が来るかもしれません。でも、できるかぎり話し合いをしていきたいです。

時には私の話を聞いてくれ、寄り添ってくれる友だちの存在も必要だし、私自身が勉強し続け、ジェンダーの知識をアップデートすることも大切です。それはパートナーも同じです。相手や周囲に助けを求めて、学び続けながら、パートナーシップを続けていきたいです。

そして、前回のコラムと繰り返しになりますが、フキハラやその他のハラスメントに苦しんでいる方がいたら、「『よくあることだから仕方ない』と我慢し続けないで」と伝えたい。何とか思い切って口に出して、少しでも、より心地いいパートナーシップや自分の生き方を探っていけたらいいなと思います。

(文:伊是名夏子 @izenanatsuko 編集:南 麻理江 @scmariesc /ハフポスト日本版)