2020年03月27日 11時46分 JST | 更新 2020年03月27日 11時46分 JST

シニアは、もっとワガママになっていい。「働きたい」をどう社会が支える?リクルートの挑戦とは

人生100年時代にシニアと企業が抱える「見えない不安」。払拭のために必要なものは

ASAMI KAWAGOE

「人生100年時代」が現実となりつつある今。

従来であれば、進学→就職→定年退職→老後といったライフスタイルがスタンダードだったが、今では多様な生き方、社会との関わり方が求められている。

セカンドステージでも、自分らしく、生き生きと過ごし続けるための秘訣とは? シニア活躍をさまざまな視点からサポートする、3人のプロに聞いた。

年金だけでは不十分だから、働かなきゃいけない?

多様化するセカンドステージのライフスタイル。シニア世代は、どんな活躍の場を求めているのか? シニアライフアドバイザーの松本すみ子さんに話を聞いた。 

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有限会社アリア 代表取締役の松本すみ子さん。団塊シニア世代の動向分析・調査、ライフスタイルの提案を行い、講演、コンサルティング、およびシニアコミュニティの企画・運営、執筆などを手掛ける

── 最近、セカンドステージでも活躍するシニアが増えていると感じます。 

松本さん(以下、松本) 「働くこと」にこだわるシニアが増えています。「“年金2000万円問題”があるから、老後も働かなきゃならないんでしょ?」なんて言われますが、そこばかりクローズアップされがち(笑)

確かに、「なぜ働きたい?」と聞くと「お金が必要」という声ももちろんありますが、「生きがいが欲しい」「友達が欲しい」といった回答もとても多い。シニア世代は「働く」ということをとてもポジティブに考えています。 

ただ、社会がシニアに求めることと、実際にシニアがやりたいことの間には差があると感じています。そこにシニア活躍の課題があるのかな、と。

── その原因は、どこにあるのでしょうか? 

松本 シニア個人にも、雇う側である企業にも、双方にあると考えています。

シニア側はプライドもあるので、希望する仕事でなければやりたくないとか、黙っていても採用してもらえると思っている場合も。また、働く=雇われる、と思っている人も多い。今はフリーランスだったり、NPOやNGOの職員だったり、働き方も多様ですよね。シニアは、自分のスキルがどういうもので、どんな選択肢があるのかという情報をアップデートしていく必要があります。

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セミナーなどで、シニアの生の声を聞く機会が多い松本さん。「お金のことを心配する人が多いけれど、まずはスキルのことを、50歳になったタイミングで考えてほしいです」

企業側はそもそもシニアを雇った経験がなく、「よくわからない」ことが一番の課題。「どんなことができる?」「健康面で何かあったら...」など、見えない不安がたくさんあって一歩が踏み出せない、という企業もたくさんあります。

社会全体で見ても、世代間コミュニケーションが著しく減少していますよね。そうした背景もあり、雇う側である企業の現役世代と、雇われる側であるシニア世代の間に壁ができてしまっているのでは、と感じます。

── 今後、「シニア雇用」はどのように変化していくのでしょうか?

松本 みんな、いつかはシニアになる。でもそのことを「自分ゴト」として考えられる人がとても少ないです。

高齢化が進む日本では、シニア活躍が国の発展にも関わる課題。現役のうちからセカンドステージについて考えることが必要と感じています。そうすることで、企業の姿勢も少しずつ変わり、シニアの選択肢も増えるのでは。 

シニアには、「自分には何ができるか」というよりも「自分は何がしたいのか」という視点で、もっとワガママになってほしいです。最近では、大学がセカンドステージ向けに開講したり、ある企業はOBの社会貢献活動をサポートしたり、シニアの「やりたい」に応える動きが目立つようになってきました。このように、シニアが自分らしい生き方を求めることで、社会が少しずつ変わっていくと良いですね。 

そのためにも、シニア個人と企業、現役世代の「見えない不安」を払拭し、距離を縮めていく努力が必要だと感じます。

今必要なのは、「年齢以外のモノサシ」

シニアと企業の「見えない不安」を解消するべく、ある事業をスタートさせた企業がある。人材やライフイベント、日常消費などの領域でサービスを展開している株式会社リクルートだ。

同社は、新規事業「からだ測定」の実証実験を行っている。

Recruit
「からだ測定」の様子。体を動かしたり、タブレットを操作したり。30分程度の測定を行い、結果がその場でわかる手軽さも好評だ

「からだ測定」は、シニアの「体力」「処理力」「個性」を可視化し、シニアの自信回復や企業の雇用促進につなげることが目的。所要時間は約30分で、「体力」では筋力、バランス力、手先の器用さなどを測定、「処理力」と「個性」は、タブレットを使ったテストで分析する。

「体力」と「処理力」は同年代平均と比較できるので、日常の能力向上の参考としても活用できる。「個性」は、科学的な分析結果をコアラやイルカなど動物の種類で特徴が表現され、「動物占い」のような感覚で自分の性格を客観視できる工夫がされている。

「夫の定年退職を機に働こうかなと思っていたが、どんなことをどれくらいできるかわからず、なんとなく不安だった。運動能力には自信があったので、体力測定だけでもと思って」と参加した71歳の女性。結果が後押しとなり、中高年の就労などを支援する株式会社歩のサポートを受けて、翌月仕事に就くことになったそうだ。現在は1日3時間、週6日勤務しているという。 

「体力の“お墨付き”をもらえた気分になったし、自分に向いている仕事がある、ということが分かるだけでも自信になった」。

10年のブランクを経て再就職、変化を聞くと「職場の人と喋ったり、毎日自分の中で小さな目標を決めたり、生活にハリが出た。そのせいか、体の調子もすごく良いんです。10年来悩まされていた足腰の痛みもなくなって、趣味のバレーボールも楽しめています」と、明るい声で話してくれた。

「からだ測定」起案者である、同社の宇佐川邦子さんにその狙いを聞いた。 

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株式会社リクルート 次世代事業開発室の宇佐川邦子さん

── 「からだ測定」スタートの背景を教えてください。

宇佐川さん(以下、宇佐川) 何らかの形で活躍したいと思うシニアは多いのに、仕事に就けるのは3人に1人。企業側も、成長のために何が必要かと考えてはいるものの、「シニア雇用に消極的」という企業が7割。聞くと、4割以上が「特に理由はない」。こうした調査結果を踏まえ、解決のためには既存の事業では限界があると感じ、新規事業を立ち上げました。今はまだ「実証実験」の段階ですが、参加者の声、周りからの評価をもとに、どんどんブラッシュアップしていきたいです。

── シニア雇用に対して、どのような変化をもたらすことを期待していますか?

宇佐川 シニアにも企業にも、「見えない不安」がたくさんあります。その原因の一つは、双方が年齢という部分にばかり着目してしまうこと。「からだ測定」の結果が新しい基準になれば、シニアはより活躍できるし、企業側も採用しやすいではないかと考えています。

私が目指すのは、「働きたいに、年齢以外のモノサシを」作ること。向き不向き、得手不得手は年齢に関係ありません。測定結果を見れば、シニアでも現役世代に引けを取らない能力があることが一目瞭然。シニアの自信、企業の安心につながればいいなと思っています。

セカンドステージの選択肢は、「働く」だけじゃない 

同社は社会貢献活動の一環として、人材事業領域での長年にわたるノウハウを生かした活躍応援プログラム「WORK FIT for シニア」も展開している。

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「WORK FIT for シニア」の様子。リクルートの知見を生かしたプログラムで、自分のスキルや強み、やりたいことを再発見することが狙いだ

WORK FIT」は2011年、自分らしい活躍の場を見つけてもらうためのプログラムとしてスタート、現在は大学生、ママ、養護施設の子どもなどを対象に様々なプログラムを実施。「人生100年時代」に同社が貢献できる取り組みとして、今年からシニア向けにも試行的に開催することに。

2時間のグループワークを通して、他の参加者からのフィードバックを参考にしながら自分のスキルを発見していく。それを生かして今後何をしたいのか、そのために何が必要かということを考えるきっかけ作りだ。

参加者の一人は「人生100年時代と言われても、何をすれば良いか分からず不安だった」というが、参加したことで「働く以外の選択肢を知ることができ、自分がやりたいことが見えて安心した。好きな趣味を極めて、何らかの形で社会貢献したいと思う」と笑顔を見せた。 

「WORK FIT」担当者の鎌内由維さんは、「決して働くことがゴールではない。セカンドステージには多様な活躍の場があるべきだし、どう生きていくかということを、ポジティブに考えられる環境を作りたい」と話す。

「何歳になっても、自分が自分で良かったと思える、そんなライフプラン作りのサポートをしていきたいです」。

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株式会社リクルート サステナビリティ推進室の鎌内由維さん

「人生100年時代」において、自分らしく生き生きと活躍し続けるためには何が必要? 答えは、自分自身の中にある。

そのきっかけ作りとなるのが、「からだ測定」や「WORK FIT for シニア」といった取り組みかもしれない。 

個人にも企業にも、変化が求められる中、こうした取り組みはさらに増えていくだろう。シニアがより活躍できる社会の実現に向けて、今何ができて、何をしたいのか──。一度立ち止まって考えてみてはどうだろうか。