新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
2020年03月04日 11時36分 JST

「消費減税」の可能性も? 新型コロナウイルスの経済対策「何でもあり」

深刻な景気減速に直面しつつあった安倍内閣。コロナ対策を「理由」に、平時なら批判を受けかねない「禁じ手」の景気対策に道を開いた。

時事通信社
首相会見/記者会見する安倍首相

安倍晋三首相は2月29日の夕方、緊急の記者会見を開き、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた政府の取り組みなどを説明した。

2月27日夕に、全国の小中高校に対して3月2日から春休みまで臨時休校するよう要請したことについて、

「何よりも子供たちの健康、安全を第一に、多くの子供たちや教職員が日常的に長時間集まる、そして、同じ空間を共にすることによる感染リスクに備えなければならない」

とし、国民に理解を求めた。

 

起死回生を狙った会見

学校の一斉休校については、安倍内閣に批判的なメディアや野党から批判の声が上がっている。休校することによる働く保護者の負担急増や、経済的な損失が指摘され、文部科学省などの慎重論を退けて「政治決断」した安倍首相が「強権発動」したからだ。

しかしむしろ、批判の集中砲火を見越したうえでの、起死回生を狙った会見だったとみていい。

というのも、「桜を見る会」の問題に加え、黒川弘務・東京高等検察庁検事長の、法令解釈を変更しての定年延長問題が、ジワジワと安倍政権を追い詰めていた。

実際、安倍政権寄りとみられている『産経新聞』と『FNN』(フジテレビ)が2月22、23日に実施した世論調査では、内閣支持率が8.4ポイントも急落。支持率が36.2%、不支持率が46.7%と一気に逆転。これにはさすがに与党内でも驚きの声が上がった。

新型コロナへの政府対応について「評価しない」とする回答が45.3%に及び、「評価する」の46.3%に迫るなど、「後手後手」の印象が強まっていた安倍内閣の新型コロナ対策の不手際さが、内閣支持率に影を落とし始めていたことは間違いない。

特に、加藤勝信・厚生労働相が、2月25日に打ち出した「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」が、手洗い・うがいの実施や、テレワーク・時差通勤の要請などにとどまり、スポーツ、文化行事の開催については、

「全国一律の自粛要請を行うものではない」

としたことから、ネット上などで批判が噴出していた。

それだけに、さらなる批判を承知で安倍首相が「強権発動」したのは、ウイルスの感染経路が分からず、重症化のプロセスもみえない中で、このまま今後の対策が「後手に回っている」と国民に判断されれば内閣の死活問題になりかねない、との危機感を覚えたからだろう。

政権の行方も考えて行った判断とはいえ、「前のめり」と批判するのは難しい。一斉休校などへの批判は早晩、沈静化していくに違いない。

 

政策的には「禁じ手」

むしろ29日の会見で注目すべきは、「新型コロナ対策」を理由に、「何でもあり」の景気対策に道を開いたことだ。

学校の一斉休校に伴って保護者が休職した場合の所得減に、「新しい助成金制度を創設」し、

「正規・非正規を問わず、しっかりと手当てしてまいります」

と明言している。また、

「業種に限ることなく雇用調整助成金を活用し、特例的に1月まで遡って支援を実施します」

とも述べた。

さらに、中小・小規模事業者の強力な資金繰り支援なども行うとした。

政府が個人や企業に直接、所得補填するのは政策的には「禁じ手」で、平時ならば「ばら蒔き」との批判を受けかねない。

今後、制度や法律を作る段階で、どこまでを新型コロナによる影響とするかなど、難題が出てくるが、それも「非常時」ということで、「大盤振る舞い」されることになるのだろうか。

実のところ、新型コロナ対策を「理由」にできることは、深刻な景気減速に直面しつつあった安倍内閣にとっては、救いの船とも言える。

2019年10-12月期の実質GDP(国内総生産)の成長率は、年率換算でマイナス6.3%と大幅なマイナス成長になった。前の消費増税直後である2014年4-6月期はマイナス7.1%、東日本大震災の影響が出た2011年1-3月期はマイナス6.9%だったので、これに次ぐ激震に見舞われたことになる。

もちろんこの段階では新型コロナの影響は出ていない。2019年10月からの消費増税に伴う家計消費支出の大幅な減少が響いた。

そうでなくても弱い国内消費が、消費増税によって一気に悪化した格好になったのである。

そこに、さらに新型コロナによる経済停滞が加われば、国内消費は「底が抜ける」。消費を下支えする「唯一の期待」だったインバウンド消費が激減することは火を見るよりも明らかだ。

 

目も当てられない悪化ぶり

たとえば、日本百貨店協会が発表した1月の全国百貨店売上高は、前年同月比3.1%の減少となったが、それでも春節による中国人訪日旅行客の増加で、免税売上高は20.9%も増加した。1月の全体の売上高は4703億円で、そのうち免税売上高が316億円なので、6.7%を占めたことになる。もちろん免税対象品以外も買われているので、インバウンド消費の効果は大きい。

逆に言えば、免税売上高が2割も増える中で、全体は3.1%も減ったわけで、昨年10月の増税から4カ月たってもいかに国内消費が弱いかということが分かる。

また、春節期間(1月24日〜30日)の免税売上高は2ケタのマイナスだった百貨店が目立ったと報道されたが、それでも1月全体のインバウンド依存は大きかったわけだ。何せ、1月の中国からの訪日旅行客は92万4800人と、前年同月に比べて22.6%も増えている。

ちなみに、春節後の2月1日まで、日本政府が武漢を含む湖北省などからの旅行者受け入れを停止せず、その後も中国からの旅行者を規制していないことにも批判が集中している。

だが、仮に春節前に中国からの旅行客をブロックしていたら、消費は目も当てられない悪化ぶりになっていたことは容易に想像が付く。

なお、昨年は2月に春節があったので、対前年同月比では2月のインバウンド消費が落ち込むのはもちろん、これに新型コロナ問題が加わったことで激減することになった。百貨店大手4社が3月2日に発表した2月の売上高速報は、大丸松坂屋百貨店が21.8%減、三越伊勢丹が15.3%減など、軒並み2ケタのマイナスになった。

また、様々な行事が中止になっている3月は、訪日客が激減していることもあってさらに消費が落ち込む懸念が強い。

 

乗数効果が下がる経済対策

インバウンド消費で最も影響が大きいのは、4月だ。ここ数年、中国などアジア各国の人たちの間で、日本の桜を見るツアーが人気を博してきた。4月の訪日客は、実は春節の月よりも多い。

たとえば2019年の場合、春節の2月は260万人だったが、4月は292万人。多くの国が夏休みの7月(2019年は299万人)に次いで、4月がインバウンドの稼ぎ時なのである。

現状では、4月の旅行計画を組むのは難しいだろうし、今年の「桜の時期」は例年になく外国人観光客が少なくなるに違いない。

2019年の訪日外国人旅行消費額は、観光庁の推計によると4兆8113億円。うち36.8%に当たる1兆7718億円が、中国からの旅行者だ。まだ訪日客も増えてインバウンド効果もあった今年1月はともかく、2月以降の数値では、確実にインバウンド効果が減少しているはずだ。しかも、いまや訪日客減は中国からだけではなく世界傾向であるため、仮に全体の旅行消費が半減したとすると、2019年実績数値から単純計算すれば、2月からの3カ月間で6000億円の消費が消えることになる。

こうした消費の減少で中小企業の収入が激減し、資金繰りが悪化した場合、政府がそれを支援する、というのが今回の会見で安倍首相が示した方針だ。これを融資で支援するのであれば通常の危機対応でもあるので、それほどの混乱はないかもしれない。

だが、収入の減少や雇用の確保に向けた人件費の負担を政府が行うことになれば、その財政負担は大きい。それでも考えられる限りの支援を安倍首相は行うつもりに違いない。

経済が猛烈な勢いで縮小しかねない時に政府が財政支出をするのは、伝統的な経済対策だ。しかし、土木工事を中心とする公共事業では経済を底上げする力が弱くなってきていることは明らかだ。政府の支出額以上に経済効果が大きくなる「乗数効果」が下がっているのである。

経済全体のサービス化が進み、消費がGDPの55%近くを占める中で、土木や建築などの工事に従事する人の数も減り、全国的に消費を押し上げることが難しくなっているのである。

今回、「非常事態」ということで、消費産業や働く個人に直接、国の財政支援が行われる仕組みができれば、予想外に景気下支えの効果を引き出すことができるかもしれない。

さらに新型コロナが終息した直後からの景気の立ち上げを力強くするためには、本格的な消費支援策を打ち出す必要が出てくる。

もっとも効果があるのは、時限的な「消費税の減税」だろう。

れいわ新選組代表の山本太郎氏が「消費税率ゼロ」を主張したり、立憲民主党などとの野党連携を想定して消費税率5%への引き下げを議論するなど、野党から出ていた「奇抜な案」は実現不可能とみられていたが、「非常時」に乗じれば、安倍政権が実行に移すことも可能になるはずだ。 

磯山友幸 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間——大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。

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(2020年3月3日フォーサイトより転載)