「妊娠したから、もう自由がなくなる…」。そう思った私が、生後5カ月の我が子を連れて台湾旅行。ママも、楽しむことを諦めないで

子連れ旅行を思いっきり楽しむ田中伶さん。アドバイスを聞きました。
田中伶さん
suzumi sakakibara
田中伶さん

電車のなかに響く赤ちゃんの泣き声、通勤ラッシュの満員電車内のベビーカー、小さな子ども連れ禁止のレストラン…。

いまの日本社会は、まだまだ「子ども連れ」に厳しい。子どもを連れての公共交通機関利用や、飲食店の利用に冷たい視線を投げかける人がいます。「子どもが大きくなるまでは」とさまざまなことを我慢している人も多いのではないでしょうか。

そうした日本の現状を横目に、子連れ旅行を積極的に楽しんでいるのが、台湾がもっと好きになるウェブメディア「Howto Taiwan」の編集長を務める田中伶さんです。そんな田中さんでも、子どもができたとわかった時は、「大好きだった旅行にもう行けない」と戸惑ったと言います。田中さんはどうやって子連れ旅行を楽しんでいるのか。アドバイスなどを聞きました。

―著書『FAMILY TAIWAN TRIP #子連れ台湾』(ダイヤモンド・ビッグ社)は「大丈夫。どんどん子連れ外出しましょう」とママたちを励ます内容ですね。でも、2016年の秋に妊娠がわかったとき、「どうしよう」という戸惑いのほうが大きかったとか…

そうなんです。学生時代に2年間留学して以来、すっかり台湾に魅了され、もっとこの国のいいところを知ってもらいたい! と台湾の情報を紹介するWEBメディアを立ち上げたとたんに、妊娠がわかりました。

ネットや雑誌などから漏れ聞こえてくる先輩ママの話は、「子どもができたら、自分の自由は皆無になる」「外出には困難がつきまとう」といった暗いものばかり。自分自身、電車の中などで赤ちゃんが泣いて困り果てている母親を、居合わせた人たちが冷ややかに見つめるシーンに何度も遭遇したので、台湾旅行や食べ・呑み歩きといった大好きなことは、子どもが大きくなるまでお預けなんだなって。

いつかは子どもができたらいいなと思っていたけれど、「子どもが生まれたら自由がなくなる」と強く信じ込んでいたから、「このタイミングで!?」と戸惑いを感じてしまったんです。

―子どもができるという幸せなはずの出来事に戸惑いを感じたあと、どうしたんですか?

「子どもがお腹にいるうちにできる限り、台湾へどんどん行っておこう」と決めたんです。出産予定日を逆算して、とことん台湾取材の予定を詰め込みました。

台湾へは片道約3時間。妊娠中の飛行機や電車での移動はお腹の中の子によくないという情報もあって少々悩みましたけど、先輩ママの「私の体験上、平気だと思う」という言葉を信じたんです。もちろん家族や周囲からは心配されました。「つわりが落ち着いたから大丈夫!」「まだ行ける!」「次こそが最後!」「子どもが産まれてきたら、『囚われの身』になるのだから、今回だけは許して!」と夫を泣き落としました(笑)。

今思えば危なっかしいし、囚われの身だなんて思い込んでいたことが恥ずかしいですけれど。

妊娠したことをいつ誰に伝えるか?というのは悩みがちなポイントですが、私は妊娠の比較的早い段階から周囲に妊娠したことを伝えていました。体調不良など突発的な出来事で迷惑をかけないためにというのはもちろん、きちんと伝えることでサポートや気遣いをしてくれる味方を作ることができるとわかりました。出産ギリギリまで思いっきり大好きな台湾の取材をしていた私のように、強力な味方がいれば充実したマタニティライフが送れると思いますよ。

―妊娠中の台湾取材、どのように過ごしていたのですか?

子どもができたと分かってから旅する台湾では、これまで特に気にしていなかったことに気づきました。「子どもを連れて台湾で過ごすには」という目線でじっくり街を観察すようになったんです。

例えば「夜市」。台湾旅行の楽しみの1つである夜市ですが、「さすがに人も多いし、小さな子どもを連れていくのは難しいだろうなあ」なんて思いながら周囲を見渡すと、意外と子連れで来ている現地のママがいることに気がついたんです。「子どもとも楽しめるんだ!」という新たな発見に、なんだかウキウキしてしまって。

お腹が目立つようになってから行ったレストランでは、お祝いにとノンアルコールのシャンパンをサービスでさらっと出してくれるお店があったり、ホテルやお店で出会った人たちが一様に「次は赤ちゃんと一緒に来てね」と気軽に声をかけてくれたり…。

田中さんの息子と遊ぶ、台湾の親子レストランのスタッフ
筆者提供
田中さんの息子と遊ぶ、台湾の親子レストランのスタッフ

―台湾は、妊婦にも赤ちゃんを連れた人にも優しい国みたいですね。

そうなんです。調べてみると、台湾は世界でトップレベルの少子化が問題になっています。だからこそ、国が母子を応援するシステムをしっかり備えている。

例えば、台湾は駅や飲食店などの公共の場所で授乳している母親に「授乳は控えてください」と注意するのは禁止されているんです。なぜなら、授乳を妨げる行為を禁ずる条例があるから。そのうえ、地下鉄の各駅や商業施設、お寺などにも授乳室があってとても便利です。

さらに地下鉄には、日本の女性専用車両のような、子連れ優先車両を導入している線もあります。小さな子ども連れでもウェルカムな雰囲気で、壁には可愛いイラストが描かれている。

また、現在台湾では「親子レストラン」という形態の飲食店が流行中で、インターネットで検索すると、わんさか出てきますよ。店内の半分ぐらいが子どもたちがのびのび遊べるスペースになっていて、ボールプールやおもちゃ、アスレチックがたくさん。中には子どもと遊んでくれるスタッフが常駐している施設も。広い施設を利用して、無料の英会話教室や絵本の読み聞かせなどのイベントを開催する店もあります。その傍の飲食スペースでママやパパたちは、食事やお茶をゆっくり楽しめるんですよ。

旅行が好きで、お気に入りの国や地域がある人は、出産前にその地を訪れて、「もし子どもと一緒に来たとしたら」とイメージして、街を見てみるといいと思います。子ども連れが旅をしやすいかどうかは、あまりガイドブックには載っていませんから。

実際に足を運ぶ以外にも、最近ではInstagramに情報がたくさんあるので、ハッシュタグで現地在住ママたちの情報を検索してみてリサーチをするという方法も。子連れに優しい国かどうか、どんなお店なら入りやすいか、これは外国だけに限ったことではなく、日本国内でも知っておくことが大事なのは同じですね。

―そんな出産前の台湾旅行で観察した情報や経験が、実際に役に立ったのはいつくらいのことですか?

息子が生まれたのは、最後の台湾取材から2ヵ月後で、初めて家族と一緒に子連れ台湾旅行に行ったのが、生後5ヵ月のことでした。生後4ヵ月から息子を保育園に預けて、仕事に復帰していましたから、そろそろ取材を兼ねた子連れ旅行も許されるかなって。だって、それまでは、2、3ヵ月に1度は台湾を訪れていたのに、半年以上行っていなかったんですよ。ちょっとウズウズしはじめてしまったんです(笑)。

義母の「離乳食になると、旅先で食べ物に困るし、歩けるようになると迷子が心配。今のうちが一番ラクかもよ」という助言も、背中を押してくれました。離乳食をいつから始めようかとちょうど悩んでいた頃だったので、まずは旅行に行って、離乳食はその後にしようと決めて。

息子にご飯をあげる田中伶さん
筆者提供
息子にご飯をあげる田中伶さん

―現在、お子さんは2歳ですよね? この間、何度も台湾に子連れで訪れ、時には母子二人旅をしたこともあるとか。

そうですね(笑)。これまで子連れの海外旅行は、台湾に4回、ハワイに1回行っていますが、そのうち2回は息子と二人旅でした。ワンオペで飛行機というと大変そうに聞こえるかもしれませんが、機内では、CAさんが、子どもをあやしたり、私がトイレへ行くとき抱いていてくださったりと、とても親切。新幹線ではそんなことをしてくれる人はいないですからね(笑)。空港にはキッズスペースもあるし、ベビーカーもレンタルできるし、小さな子どもを連れての旅なら、電車より飛行機のほうがラクなのではと感じました。

まぁ息子と二人旅だと、夫と交代で食事をすることもできませんから、自分の食事はバタバタと慌てて済ませることもあります。でも、台湾のレストランは屋台などを除けば、かなり高確率でキッズ・チェアがあるので、腰さえすわればそこに座らせることができるようになって、だいぶ楽になりました。

普段、東京の電車やレストランで肩身の狭い思いをしながら子連れで過ごしている私にとって、台湾は本当に天国! とにかく、親切な人ばかりなんです。電車では必ずといっていいほど席を譲ってもらうし、道の段差に困っていたら知らない人が助けてくれることもしばしば。レストランなどでベビーカー入店を断られたこともありません。一度、「ベビーカーでも、入っていいですか?」と尋ねたら、逆に「なぜダメなの?」とポカンとされたことも。

そうそう。これは台湾で子育てをしている日本の友人に聞いた話なんですが、店内にいた子どもが騒ぎだしたのを、近くに座っていた外国人観光客が店員に「注意してくれ」とお願いした場面に遭遇したそうです。そうしたら、その店員さんったら、「子どもだから騒ぐのは当たり前。だから私たちには注意する権利がありません。そのかわり、静かな席へご案内しますね」と言っていたそうなんですよ。それも本人や母親たちには気づかれないように。なんてスマートな対応なのだろうと心底感心しました。

―とは言え、赤ちゃんと旅をする以上、事前に準備したことがたくさんあるのでは?

そうですね。不安がまったくなかったと言えば嘘になります。息子は風邪をひきがちで、旅行前、少し風邪気味だったので、病院へ行って「先生のお子さんがこれくらいの症状だったら、旅に行きますか?」なんて相談をしたことも…。

先生が「台湾なら気温差もそれほどないし、これくらいなら連れて行くかな」と言ってくれて、ホッとして一緒に連れて行ったこともあれば、急に高熱を出して、泣く泣くキャンセルをしたこともありました。なので、いつもチケットを予約するときはキャンセル規定について事前にしっかり調べるようにしていますね。

それから、これはよく眠る子がどうかにもよりますが、我が家は子どもが確実に寝ている早朝便を選択するようにしています。親はちょっとハードですが(笑)、うちの子の場合はぐずることなくほぼ熟睡です。

そして準備といえば、荷物ですね。一人で旅行していた頃はずいぶん身軽でしたが、子どもと一緒の旅行は大荷物です。まずは移動中に飽きてグズってきてしまった時のための、100円ショップで買いだめしたおもちゃ。1時間おきに、息子にとって新鮮なおもちゃを「ジャーン!」と出して、ご機嫌をキープしています。どうせすぐ飽きてしまうので、100円ショップで出費はセーブ。

子どもの好きな動画をいくつもダウンロードしたタブレットも欠かせません。あとは紙おむつ、子ども用の日焼けや虫よけ対策、食事用のエプロン…。子どもが自由に歩きまわるようになると、噴水に飛び込んだり、泥んこ遊びをしたりすることを想定し、着替えも旅行日数分✕2着はマストですね。

田中伶さんと息子さん
筆者提供
田中伶さんと息子さん

一日本では、子連れでの外出だけでなく、子育てと仕事の両立の大変さ、保育園がなかなか決まらないなど子育てに関するネガティブな情報が流れがちです。

そうですね、私より先に出産した友だちからも、メディアからも聞こえてくるのは「これが大変」「子どものためには我慢しなくては」というような話が多かったです。

でもいざ自分が母親になってみたら、案外なんとかなった!子どもに逆にチャンスをもらった!ということも多くて。こうしたプラス面をもっと知っていたら、妊娠中に「子どもができたら、自由がなくなる」なんて思わず、もっとワクワクできたかもしれない……。

だから私は今回、「子連れでも旅行はできるよ」「台湾なら、母も子も一緒に満喫できるよ」と背中を押すような情報を世の中のママたちと共有したくて、本を出したんです。

海外でも日本でも自治体が「うちは、こんなに子連れに優しい。どんどん来てください」ってもっと積極的にアピールしてくれったらいいのに。そうしたら安心して足を運べるでしょう?

実際、子どもと一緒に旅行してみたからこそ知れた、台湾の魅力もたくさんありました。だから、「子どもができたら、あれができない。これができない」と最初から考えないほうがハッピーになれるんじゃないかな。

子育てと仕事をどうやって両立すればいいのかと相談されることもあります。だけど、Facebookの最高執行責任者、シェリル・サンドバーグ氏がバーナード・カレッジの2011年卒業式でこんなスピーチをしているんです。

「どうか今この瞬間から次のことをしっかりと心に留めてください。本当に仕事を離れる決断を下すその日まで、仕事に全力で取り組むこと。身を引くのではなく、身を乗り出すこと。辞めるか否か、その決断を下さなくてはならないその日が来るまで、アクセルを全開にしたまま走り続けること」。

私はこのスピーチが大好きで。何人かの友人は、子育てをキャリアアップにつなげています。料理好きな友達は、子どもができてから世界中の離乳食を研究することに邁進している。イラストレーターの友だちは、子ども向けの絵本を描き始めた。私も、子どもがいるからと色々なことを諦めずに、子育てを自身のキャリアを広げるチャンスだととらえていきたいですね。

(取材・文/武香織 編集/榊原すずみ)

田中さんの著書『FAMILY TAIWAN TRIP #子連れ台湾』(ダイヤモンド・ビッグ社)発売中です
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