背を丸め、小さな声で「船戸雄大です」 起訴内容を概ね認める【目黒5歳児虐待死裁判・父親の公判①】

「一点だけ」と、起訴内容とは異なる主張を語る場面もあった。

東京都目黒区のアパートで2018年3月、当時5歳だった船戸結愛(ゆあ)ちゃんが亡くなった事件で10月1日、殴るなどの虐待を加えていたとされる父親の船戸雄大被告(34)の裁判員裁判が東京地裁(守下実裁判長)で始まった。

東京地裁
東京地裁
Huffpost japan/Shino Tanaka

9月にあった元妻・優里被告の公判では、結愛ちゃんが亡くなる直前の様子や、雄大被告による優里被告へのDVなどについても詳らかになった。

優里被告は第一審で懲役8年の実刑判決を言い渡され、その後9月30日に控訴。

父親の雄大被告の公判では、結愛ちゃんの遺体に残された170以上の傷についてどのように説明するか、注目が集まっている。

午前10時の開廷とともに法廷に姿を現した雄大被告は、黒のスーツに濃紺のネクタイを締めていた。逮捕時よりもかなり体の線が細くなり、スーツが少し大きく見えた。

起訴内容を概ね認めるが「一点だけ」と異なる主張も

守下実裁判長が船戸優里被告に確認した=東京地裁
守下実裁判長が船戸優里被告に確認した=東京地裁
Huffpost japan/Shino Tanaka

裁判長は、優里被告の時と同じく守下実裁判官が担当した。傍聴席からみて裁判長の右側に座っている「左陪審」の裁判官は、女性から男性に変わっている。

裁判長が開廷を知らせる。雄大被告を証言台に立たせ、話しかける。

「被告人は証言台の前に立ってください。名前は何と言いますか」

雄大被告は「船戸雄大です」と答える。

声は小さく、その調子からは緊張している様子が見て取れる。

子どもへの苛烈な虐待や、妻へのDV(ドメスティックバイオレンス)を行うような暴力的な怖さではなく、裁判長らを前にして萎縮し、肩をすぼめる様子は逮捕時の表情とはかなり違っていた。

続けて、生年月日、本籍地と住居を聞く。

最後に、職を聞くと「無職です」とさらに小さな声で回答した。

裁判長が続ける。

「ではあなたの保護責任者遺棄致死罪、傷害罪、大麻取締法違反の罪についての審理を行います。まずは検察官が起訴状を読み上げるから、聞いていてください」

そう裁判官が話すと、雄大被告は被告人席に戻った。証言台には、優里被告の公判のときと同じ検察官が立った。

女性検察官は、裁判員や裁判長らに向かって頭を下げると、起訴内容を読み上げた。

「ではまず、平成30年(2018年)3月20日付の公訴事実です」

起訴状は、結愛ちゃんに暴行を加えたとする傷害の罪についてから述べられていった。

「被告人は、当時の妻である船戸優里とともに被告人ら方において、被告人の養子である船戸結愛、当時5歳などと居住していたものであるが、平成30年(2018年)2月下旬ごろ、同児に対し、シャワーで冷水をかけて顔面を複数回、両手で殴るなどの暴行をし、両目の眼下出血を……」

雄大被告は、検察官の方にはあまり目を向けず、下を向いて眉間にしわを寄せていた。

起訴状は、続けて2018年6月27日付、優里被告と同じく保護責任者遺棄致死罪についての部分に差し掛かる。

内容は優里被告の時に語られたものとほぼ同様だった。

母親である優里被告(27)とともに2018年1月下旬から、結愛ちゃんに十分な食事を与えず、栄養失調状態にして細菌感染を起こしやすい状態にまで衰弱させ、2月下旬には衰弱に気が付きながらも虐待の発覚を恐れて病院に連れて行かず、3月2日、肺炎による敗血症で死なせたというもの。

一つ違うのは、2月下旬の内容についてだった。

優里被告のときは「船戸雄大が同児の顔面を拳で殴るなどしていることを知りながら放置するなどの虐待を加えていたもの」という点が、雄大被告の起訴状では「顔面を殴打するなどの暴行を加えたところであるが」となっている。

雄大被告は、取り乱す様子はなく、少し体を小刻みに揺らし、目を閉じたり顔をあげたりしながら、内容を聞いていた。

検察官はさらに、現場のアパートで大麻を含む植物片2.414gを所持していたとする起訴内容を伝え、席に戻った。

雄大被告が再び証言台に立つ。

裁判長は雄大被告が罪を認めるか否かを聞く前に「この裁判では、全ての証言を黙秘する、そういう態度をとることもできます。ただし言っておきたいことは言って構いません。すべて証拠となって残るので、その点に留意して話してください」と黙秘権についての説明を加えた。

雄大被告が、証言台で少し目線を落とす。

証言台に立った船戸雄大被告=2019年10月1日、東京地裁
証言台に立った船戸雄大被告=2019年10月1日、東京地裁
Huffpost japan/Shino Tanaka

「一点だけ」

雄大被告が口を開いた。

「私が、結愛の身体の状態に危険が及んだと感じたのは、3月1日ごろかと思います。それ以外は、間違いありません」

起訴内容は、おおむね認めたものの、結愛ちゃんの命の危険を察知した時期については争う姿勢を見せた。

弁護人は保護責任者遺棄致死罪の成立に争いは無いものの「船戸さんが結愛さんの状態に気づいたのは3月で、検察官の言う2月下旬とは異なります。この点を踏まえて、皆さんには適切な刑を決めていただきたいと思います」と付け加えた。

続けて、検察側の冒頭陳述が始まった。

(検察側の冒頭陳述に続きます)

5歳児を追い込んだ虐待の背景は。公判で語られた事件の内容を詳報します

2018年、被告人らの逮捕時に自宅アパートからは結愛ちゃんが書いたとみられるノートが見つかった。

「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」
5歳の少女の切実なSOSが届かなかった結愛ちゃん虐待死事件。

行政が虐待事案を見直すきっかけにもなり、体罰禁止や、転居をともなう児童相談所の連携強化などの法改正が進められた。

この事件の背景にある妻と夫のいびつな力関係、SOSを受けとりながらも結愛ちゃんの虐待死を止められなかった周囲の状況を、公判の詳報を通して伝えます。

この記事には児童虐待やDV(ドメスティックバイオレンス)についての記載があります。

子どもの虐待事件には、配偶者へのDVが潜んでいるケースが多数報告されています。DVは殴る蹴るの暴力のことだけではなく、生活費を与えない経済的DVや、相手を支配しようとする精神的DVなど様々です。

もしこうした苦しみや違和感を覚えている場合は、すぐに医療機関や相談機関へアクセスしてください。

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