アートとカルチャー
2020年02月28日 08時04分 JST

“分断”が疑心暗鬼を生んでいる。堀潤さんが、映画「わたしは分断を許さない」を通して伝えたいこと

映画「わたしは分断を許さない」の公開にあわせ、トークショーや写真展を開催するためにクラウドファンディングで支援を呼びかけている。

ヨルダン・ザアタリ難民キャンプで、カメラに興味を持つ少年と笑顔を見せる堀潤さん

NHKアナウンサーとしてお茶の間で人気を博した堀潤さん。ジャーナリストとして独立後は、テレビだけでなくSNSなども駆使しながら、国内外の社会課題について発信を続けている。

そんな堀さんが自ら、監督、撮影、編集、ナレーションの4役を担い制作したのがドキュメンタリー映画「わたしは分断を許さない」だ。3月からの公開に向け、全国各地でトークショーや写真展を開いており、クラウドファンディングで協力を呼びかけている

 

監督第二作目のドキュメンタリーで、“分断”を追いかける

アメリカのマンザナー強制収容所。第2次大戦中は多くの日系アメリカ人が収容され、悲劇を生んだ「分断」の現場だった

NHK時代から、自分でカメラを担いで取材、録画、編集までこなすことが多く、米国留学では映像制作を学んだ堀さん。2013年に、ドキュメンタリー映画「変身 – Metamorphosis」で監督デビュー。日米原発メルトダウン事故の実態に迫る映像で、社会に問題提起した。

「変身」後、さらに5年以上の歳月を費やして完成したのが、監督2作目となる「わたしは分断を許さない」だ。

テーマとして取り上げるのは、私たちを取り巻くさまざまな「分断」という社会課題。人々の間に横たわる分断は疑心暗鬼を生み、差別や排斥、争いへとつながっていく。

堀さんはこう語る。

「身近な場所にも、そして遠くの世界にも、わたしたちを分断するさまざまな問題が広がっています。しかし、多くの人は無関心だったり、そんな分断が生じている事実すら正確に知らないことがほとんどです。この映画では、もう一度、私たちを分断するものが何なのか、それをどう解決していけばいいのか、観てくれた人たちと一緒に考えていきたい」

 

東日本大震災の被災地で見た“分断”の傷跡

福島県富岡町から避難を続ける深谷敬子さん(左)と堀潤さん

「分断された世界」を実感するようになったのは、東日本大震災後もずっと続けてきた被災地取材でのことだった。そこには、目に見えないさまざまな「分断」が横たわっていた。

その象徴となるもののひとつが『「生業を返せ、地域を返せ」福島原発訴訟』(通称:生業訴訟)だ。

事故を起こした側が、被災者と被災者ではない人を選別し、地域を分断。補償に差がつくことで、同じ被災住人でありながら温度差が生まれ、コミュニティが崩壊していく。同じ被災県民同士で、争いになることも珍しくなかった。さらには、被災地から避難した先で、いわれなき差別に苦しんだ人たちも多くいる。

「生業訴訟を取材していく中で知り合ったのが、原告のひとり、深谷敬子さんです。彼女には、映画の中で “分断”されて失ってしまった自分たちの暮らしへの想いを語ってもらっています。誰も責任をとってくれない分断による喪失。そのことに被災者の多くは苦しみ続けているのです」

 

「原告の皆さんの願いは、責任の所在をはっきりさせた上で、分断されてしまった社会、暮らしを取り戻すこと。それこそが、彼らが本当に望む復興です。被災され故郷を追われた方々がこの10年置かれてきた状況や想いには非常に共感するところがあります。それが、今回の映画のテーマにつながっていきました」

映画では、沖縄の米軍基地問題も取り上げている。基地の存在に苦しむ沖縄、同時に基地があることで経済的な恩恵を受けている現実。震災を契機に沖縄に移住した久保田美奈穂さんを通して、ふたつの世界で揺れる沖縄の人々の想いを追いかけている。

 

経済格差と将来への不安。疎外される香港の若者たち

香港のデモ隊の若者たちには10代の子も目立つ。自由を求め戦っている。

こういった社会の分断は、世界のあちこちで人々の生活に暗い影を落としている。

 「わたしは分断を許さない」のオープニングは、2019年春から続く「香港民主化デモ」の生々しい映像だ。

「日本で伝えられているのは、中国の圧力に若者が反発してデモが起きているというストーリーですが、実はこの民主化デモも、香港で生まれつつある分断が大きな要因となっています。北京中心の経済が入り込み、香港でも中国からの入植者が経済界をリード。教育の現場でも言語や社会風習を中国式に置き換えていく動きが進みつつあります」

 

「香港生まれの若者たちは就職先にも苦労し、仕事が得られたとしても低賃金の限られた職種という、現実の壁が立ちはだかっています。経済的不安、民主的な自由が奪われつつあることへの不満がデモの根底にあるのです」

 

「しかも、『国際社会は中国に配慮し、香港に表立った支援をしてくれないのでは』という不安も聞きました。国際社会から孤立し、見捨てられてしまうのではという焦燥感が彼らをデモに駆り立てているのです。そこには、日本にいながらただ傍観しているだけの私たちも少なからず関係しているといえるのではないでしょうか」

 

ついついセンセーショナルなデモの一部を切り取った情報に目が向きがち。しかし、堀さんが何度となく香港に足を運び、映しとったデモに参加する若者たちの素顔からは、攻撃的になり高揚するデモ隊のイメージは窺えない。

戸惑いや不安に押しつぶされているーー。そんな若者たちの姿を映し出す映像からは、香港が抱える分断の背景が浮かび上がってくる。

 

この10年で更に深刻化した世界中にある “分断”

パレスチナのガザ地区で少年と一緒に撮影する堀潤さん

NPOやNGOの活動にも深く関わる堀さんは、ヨルダンのシリア難民キャンプやパレスチナ・ガザ地区、朝鮮民主主義人民共和国、カンボジア農村部なども訪れ、それぞれの地に横たわる「分断」の現実をカメラに収め、私たちに深く問いかける。

「東日本大震災から10年目、シリア内戦も10年目を迎えます。この10年、世界の“分断”はますます深刻化。分断されてきた人たちは、人々の記憶から忘れ去られ、孤立した10年を過ごしながら、今も誰かの支援の手を待っているのです」

 

「だからこそ、国内外の現場に足を運び、人々のリアルな声を拾い届けることが重要。そこにある現実を知ることで、みなさんに自分たちに何ができるのか、何をすべきなのか、ぜひ考えていただきたい」

 

事実を知り、実際に語り合うことで、解決への道を探る

大阪で開催した写真と映像展「分断ヲ手当スルト云フ事」でのギャラリートークの様子

今回のクラウドファンディングも、資金調達だけでなく、そのような問題意識の共有を投げかけることが大きな目的だ。映画公開に合わせたトークショーや写真展なども全国各地で開催し、来場者たちと実際に語り合う場を積極的に設けてきている。

「日々の報道では、短い時間で限られた情報しか伝えられませんが、映画というまとまった時間で分断された世界を見てみると、多くのことを考えさせられるはずです。まず大事なのは、事実を知り、関心を向けること。そこから議論を重ねることで、解決の道筋を考えていくことが必要です」

 

「オリンピックムードに吹き飛ばされがちですが、10年目という大きな節目を迎える東日本大震災について、もう一度立ち止まって考えてほしい。この10年、我々が何を忘れ去ってきたのか、そしてこれからどう復興をしていくのか。改めて考える大きなチャンスです」

 

「同時に国内外に広がるさまざまな分断についても、無関心・無自覚でいることなく、考えたり、行動を起こしたりしてもらえるとうれしいですね。この映画がそのきっかけになることを願っています」

 

震災10年目の2020年春――。

映画「わたしは分断を許さない」が3月上旬から順次、全国の劇場で公開される。 

 

3月25日まで、クラウドファンディング実施中

パレスチナ・ガザ地区にて。戦争で破壊された街を取材中、子どもたちが笑顔で集まって来た

堀さんは映画公開にあわせてトークショーや写真展を開催するために目標額1000万円を掲げてクラウドファンディングに取り組んでいる。

支援者には、「堀潤さんからの手紙」や限定オフ会への招待などのリターンも。詳細はこちら

(取材・執筆=工藤千秋)