アートとカルチャー
2020年04月06日 08時18分 JST

村本大輔が堀潤に聞く「分断を前に私たちができることは?」

ジャーナリスト・堀潤さんが監督を務めたドキュメンタリー映画『わたしは分断を許さない』が公開中だ。堀さんと旧知の仲であるウーマンラッシュアワーの村本大輔さんが聞き手となり、「知ることの先には何があるのか」ぶつけてもらった。

KAORI NISHDA/西田香織
左・ジャーナリストの堀潤さん、右・ウーマンラッシュアワーの村本大輔さん

世界のあちこちで分断が起きている。

アメリカでも、日本でも、SNSの世界でも、分断を感じない日々はない。

ジャーナリスト堀潤さんは、そんな世界の分断に対してひときわ問題意識を持っている。彼は忙しいスケジュールを縫い、福島、沖縄、シリア、カンボジア、香港、ガザ、北朝鮮、アメリカと世界中を飛び回り、世界の分断の最前線を伝え続けている。

現在公開中の堀潤さんの2本目の映画作品『わたしは分断を許さない』は、タイトルどおり分断をテーマにしたドキュメンタリー映画だ。世界の様々な地域で起きる問題の根底には人々の分断があるのではないか、分断が疑心暗鬼を生み、それはやがて差別や排斥につながるのではないか。そんな危機感が堀さんに、この映画を作らせた。

分断を乗り越えるためには、まず知ること、知ることの苦しみを乗り越えること、そのためには主語を小さくすることが大事だと堀さんは語る。それはどういうことなのか。

今回は、堀さんと旧知の間柄のお笑い芸人、ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんに聞き手になっていただき、この映画の狙いや、分断を前に私たちができることは何か、率直にぶつけてもらった。

 

「知る」ことは怖くてしんどいこと、でも大切なこと

KAORI NISHDA/西田香織
ジャーナリストの堀潤さん

 村本:社会を良くするために大事なことを1つ挙げるとしたら、堀さんは何を挙げますか。

 

 堀:社会が良くなるかどうか、ということの前に、みなさんに知る機会がもっと増えればいいなと思っています。

世の中には、悪意はないけどただ知らないだけ、それが回り回っていろんな問題や分断につながっているような気がするんです。

この映画を作ったのも、世界のいろんな問題に対して、今まで抱いていたイメージと実態は違うんだなと観た方に思ってほしくて作ったんです。

 震災発生から一週間ぐらい経ったころ、以前からお付き合いのあった福島市内の銀行員の方の車に乗せてもらった時の話です。

その方は震災の日、給水車の列に子供と一緒に並んでいて、その時雪が降ってきたことについて、「あれは放射能に汚染された雪だったんですね。報道の皆さん、知っていたのなら教えてほしかったです」とおっしゃったんです。

実際、そこはホットスポットだったことが後にわかりました。

 もちろん、事故当日にはわからなかったことも多いし、テレビではいろんなことに配慮しないといけないし、放射性物質の飛散予測も放送できなかったんです。

しかし、当時実際に避難された方は、「避難しろとさんざん言われたけど、どの方角に放射性物質が飛んでいるからわからない、だから結局、放射性物質の飛んでいる方向に逃げてしまった」と言うんです。

当時、いろんな混乱があって、メディアも全ての正解を知っていたわけではないですが、だからと言ってしょうがなかったで済ませるわけにはいかないですよね。

 放射能のこと1つとっても、知らないで決断するのと知っているのとでは、たとえ同じことを選ぶとしても全然違うと思うんです。自分で知った上で決めることができないというのは、すごく尊厳を奪う行為です。

 

村本:その時、メディアがそういった情報を伏せた理由って何なんでしょうか。

 

堀:1つはパニックを誘発する可能性があるからです。

 

村本:ちょうど今も新型コロナウイルスの問題で、311の時と似たような状況だと思います。少し前、ダイヤモンド・プリンセス号に岩田健太郎さんが乗り込んで、船内をゾーニングできてないことを動画で知らせたりしていましたけど、そういうことするなって声も多かったですよね。

確かに、僕らが正確な情報を知ったとしても、ちゃんとした選択を取れないかもしれない。パニックを起こすぐらいなら、知らせない方がいいこともあるってことですか。

KAORI NISHDA/西田香織
ウーマンラッシュアワーの村本大輔さん

 堀:それはすごく大事なポイントで、パニックを助長するという国の言い分にも一理あります。

福島の楢葉町では、町議の娘さんが原発で働いていたので、いち早く情報を仕入れて7000人の町民をいわき市に避難させる決断をしたそうです。でも、いつもなら車で20分程度の距離なのに、その時は道路が渋滞して8時間かかったらしいんです。

パニックってそういうことで、許容量を超えてしまった時、動けなくなってしまって、その後何が起こるかわからない。だから、日本政府はあの時、3キロ、10キロ、20キロと除々に避難範囲を広げていくことでパニックをコントロールしようとしたわけですが、それは本当に難しい決断だったと思います。 

でも、その時本当のことを知らされない人が出てしまう。それをしょうがないですませずに、その事実を共有していくことで、避難時の道路はどう整備すべきなのかとか、普段の避難訓練のあり方とか、町の作り方をどうするのかなどを議論すべきなんです。

今回の新型コロナウイルスへの対応などを見ていても似ている部分があると思います。知らないままに選択させられる疑心暗鬼って、すごく今の社会を重苦しくしている気がします。

©︎8bitNews
映画『わたしは分断を許さない』

 村本:この映画には原発訴訟や沖縄の基地問題、シリアや香港、ガザの問題などいろんなことが出てきて、それらの現実はすごく重たいですよね。知ることは大事だとおっしゃいますけど、人によってはそういう生々しい現実、重すぎる現実を見たくないって人もいるじゃないですか。知ったところでどうすればいいかわからないからと。

この映画を観る観客にそれらの事実を知ってもらって、堀さんは何を考えてほしいと思っていますか。

 

堀:すごく大切な問いだと思います。知ることってしんどいことで、簡単なことじゃないですよね。それに、知らなかったからこそ決断できるということも時にはあるでしょう。それが良い方に回っていけばいいのですが…。

今回の映画で選んだ現場は、実はほとんどが日本人が関わりのある場所なんです。そして、日本へのメッセージも発しています。

例えば、ガザでは3月11日の前後には子どもたちが東日本大震災の慰霊で凧揚げをしてくれているし、ヨルダンの難民キャンプでは日の丸のついたランドセルを背負った子どもたちがたくさんいます。

香港の若者たちも日の丸振りながら、自由主義の国として連帯を求めているんです。でも日本で「ガザってどこ?」って聞いても…。

 

村本:ほとんどの人は知らないですよね。

 

堀:そう。片思いですよね。これって寂しいじゃないですか。だから、僕はこの映画を観て知ってほしいんです。

 

未来の人に情報を届けるためにカメラを回す

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映画『わたしは分断を許さない』

村本:僕の中国人の友達が言っていたんです。私たちは充分裕福だから知らなくてもいいこといっぱいあるって。

僕はその子に「金盾(中国の情報管理システム)とかで自由が奪われているじゃん、それでいいの?」って聞いたんですけど、今は裕福だから別に構わないって言うんですよ。日本でもそう思ってる人がいっぱいいると思うんです。

それに、毎日山のようにニュースが溢れてて、どんどん通り過ぎていくわけじゃないですか。僕の漫才もその一瞬は喜ばれるけれど、すっと通り過ぎていってしまうのかなと感じる時があるんですけど、堀さんは、結局どういう人にこの映画を届けたいと思っていますか。

 

堀:僕は「何で伝えるんですか」とよく質問されます。その答えはシンプルで、「未来の人に届けるため」と答えるんですね。

後で振り返ろうと思っても、映像に残していなければ何もできません。それを必要とするのは、未来の自分かもしれないし、他の誰かかもしれない。

今起きていることの本質がわかっているかどうか、それは僕自身にも確信が持てないから、将来検証するためにもたくさんの映像を将来のために残しておきたいんです。

この映画に、2012年に撮影したロサンゼルスの高級ホテル前のデモが出てきます。このデモは、イスラエル国軍の資金集めのパーティーが開かれていることへの抗議です。

当時のオバマ政権は、300億ドルを超える軍事支援をイスラエルに行う法案を可決させようという時期でした。

オバマさんはノーベル平和賞を受賞したこともあるし、平和の使者みたいなイメージがありますけど、そんなこともやっているんです。

そのデモに参加している人たちは、「自分たちは真面目な納税者だ、自分たちの税金をそんなことに使ってほしくない」と主張していたんです。

そして2014年、ガザで空爆が始まり、その時の軍事支援金でガザの子どもたちが実際に死んでいきました。

デモを撮影している時には、未来のことはわからなかったですけど、あの時撮影しておかなければ、あのホテルの前で叫んでいた人の声を未来に伝えることはできませんでした。

そうやって振り返ることができるから映画ってすごいな、と思います。テレビはどちらかと言うと刹那的なメディアですから。

でも映画は10年前、20年前の作品でも観てもらえますからね。

 

小さい主語を大事にする

KAORI NISHDA/西田香織

村本:僕、この間、広島の朝鮮学校に行ってきたんです。なんで行ったかというと、そこの先生が僕の独演会によく来てくれていて、生徒がもうすぐ卒業なので学校で独演会をやってほしいとお願いされたんです。

そこで僕は、まず生徒に言ったんです。「ここに来たのは先生のためだ。例えば、君たちの誰かが朝鮮学校無償化のビラ配りを手伝ってくださいといきなりお願いされても、僕はやらない。でも、君たちと接してみて個人として好きになった時には手伝うよ」と。

 

堀:村本さんのそういうシンプルさが、いつも素晴らしいなと思います。社会問題を背負おうとかじゃなくて、知り合いだから助けますと。そういう方がよっぽどリアルですよね。

僕はいつも、小さな主語で語れるものを一度見てみましょうと言っているんです。香港や沖縄という大きな主語で見たり聞いたりしていたことも、小さい主語で見てみると違った印象を抱くはずなんです。

 

村本:それは堀さんも同じじゃないですか。結局、友達になっちゃったから知らせたいとか、助けたいと思うんでしょう。

 

堀:この間、福岡で開催された東日本大震災に関する映像展に行った時、「堀さんは福島以外の取材はされないんですか」と聞かれたんです。

NHK時代は東北の他の地域も行っていましたが、僕がたまたま震災前に取材で福島を訪れた時に、鮮魚店のおやじさんと知り合いました。

それであの日、そのおやじさんを探して、復興に向けて奮闘しているその人のことを支えたいということから始まったんですが、そういう想いが連なっていけばいいと思っています。

シリアや難民キャンプの問題は難しくてわからなくても、この映画に出てくるシリアの11歳の女の子、ビサーンちゃんのことならば関心が持てる、入り口はそういうことでいいと思うんです。

 

村本:朝鮮学校の子たちも、高校無償化のためにビラを一生懸命配っているんですけど、それも別に北朝鮮を肯定するとかじゃなくて、親に負担かけたくないというとかそういう単純な動機だったりするんですよ。

他の学校の子たちがデートしたり、遊んだりしている中で、彼らは汚い言葉を浴びせられながらビラ配っている。

僕は、そういう体験が青春の思い出になってほしくないなと思っているんです。

 

放送法とメディアのルールから抜け出したかった

KAORI NISHDA/西田香織

村本:この映画は有名人も出てこないし、派手な音楽も使っていませんけど、伝え方として意識したことはありますか。

 

堀:2つあります。1つは、これはテレビじゃないので僕の言いたいことを表現したいということ。テレビでやっている時もそれなりに自分の主張を出していたつもりでしたけど、それは放送法という枠内でやっているに過ぎなかった。

テレビというのは、放送法という大きな法律の縛りの中で運営されていて、さらにそこに視聴率とかいろいろな思惑が絡み合ってきます。

僕も長いことテレビで仕事をして、放送法の感覚が染み付いていたので、編集には半年近くかけて試行錯誤しました。自分自身の培ってきた何かを削るような作業でしたね。

もう1つは、ガザの問題だけとか、福島の話だけをするようにしたくなかったということです。ベテランの映画記者さんに、「なぜ1つの現場に絞らず、海外の話を混ぜるんですか」と言われたんですけど、逆に国内と海外の話ってどう違うんでしたっけって思うんです。

孤立する不安や、親に会えない寂しさとかに何か違いがあるでしょうか。もっと言えば、政治と経済の話とか細かく分ける必要あるのだろうかと思ったんです。

恐ろしいことにこれもメディアのルールなんですよ。国際部、社会部、経済部、エンタメ、スポーツって細かく分かれてますよね。でも本当は全部つながっているはずじゃないですか。

KAORI NISHDA/西田香織

 村本:そうですよね。僕の漫才が社会風刺だってよく言われますけど、ナイツの塙さんはコンビニ店員のコントやるのも1つの風刺だし、全部が社会の風刺だって言っていました。原発ネタやったら風刺で、それ以外は違うって誰が決めたんだと思うんですよね。

 

堀:そうですよね。もしかしたらそういう分断は、メディアのやり方が招いているのかもしれない、そしてそれをやってきた僕はそれを止めますということです。

SNSのタイムラインから情報を得ている若い子たちはそんな線引きをしていなくて、もっとシームレスに捉えています。

BBCも朝日新聞も、中東の個人の人や武漢市内の人の情報をタイムラインで見ている子たちにとっては、社会面、経済面、国際面なんてくくりはないんです。

 

選択肢を持てる人、持てない人の分断

©︎8bitNews
映画『わたしは分断を許さない』

村本:改めて「知る」ということについて聞きたいんですけど、やっぱり知りすぎてしまって不安になったり、誰かに怒りをぶつけてしまうことってあると思うんです。

福島から沖縄に移住した、でも沖縄には基地があるから今度はカナダにしようとか、知り始めると際限なく不安になってしまう人もいると思います。

みんなが知ることが大事だと堀さんはおっしゃるけれど、そうなるとみんな不安になるかもしれない。それが堀さんの理想ですか。

 

堀:知ってしまうことで不安になることも確かにあると思います。でも、知っておかないと、いつの間にか誰かに都合の良いルールを作られてしまうし、自分たちにとって都合の悪いルールの中で生きていかないといけなくなってしまうんです。

2008年ごろ、僕は派遣切りの問題で日雇い派遣の現場の取材をしていました。日比谷公園などで派遣村が炊き出しをやっているような時期です。

派遣の方の給料は、「データ整備費」という謎の名目で天引きされていたんですよ。派遣ユニオンという組合を作ろうと提案していた方に取材させてもらった時に言われたことを今でもよく覚えています。

「堀さんを評価する部署は人事部ですよね。僕はどこに評価されていると思いますか? 資材部ですよ、釘やトンカチなんかと同じ扱いなんですよ」と。

あの時、ぼくがショックを受けたその現象は今や当たり前になってしまっていますよね。個人の尊厳が尊重されない問題はあるけど、経済発展するならしょうがない、基地問題で反対の声を聞かなくても、原発避難の賠償が打ち切られたとしても、もう五輪で復興させるし、経済発展させるんだからいいじゃないか、みたいな。

豊かさのためにいろんなものを切り捨てていくことが定着してしまっています。

いつの間にか格差もどんどん開いて、もう知ろうとする余力も残っていない人が出てきています。人々をそういう方向に追い詰めるシステムは、物事を知っている人たちによって作られているんです。

システムを作る側って、ずっと大きな主語なんですよね。政府とか、原発推進派とか。そうじゃなくて、責任者は誰なんですかって話なんですけど、そういう小さい主語は出てこない。

だから、僕は知ることが大切だと思っています。最初に言ったことと重なりますが、自分たちで選択したんだって思えるのと、知らされずに巻き込まれたのではやっぱり違うんです。

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映画『わたしは分断を許さない』

村本:知るということで1つ思うのは、香港の人たちは自由を知ったから戻りたくないと思うわけじゃないですか。英国領にならずにずっと中国のままだったらデモは起きなかったんだろうなって。

 

堀:村本さんがおっしゃるように、自由を知ったから香港では今戦いが起きているんです。

渋谷で香港取材の写真・映像展をやった時、上海からの留学生が2人やって来たんです。上海は比較的リベラルな場所で、彼らは香港の若者にシンパシーを感じているようでした。

でも自由とか民主主義の本質が見えてこず、ただのスローガンになってしまっているように感じると言うんですね。

これは、自由主義国でも悩んでいることです。中国は民主主義じゃないし、表現規制も多い。でも、我々も自由が大事だと言うけど、豊かさと引き換えにできるのかと問われるとどうでしょうか。

もしかしたら何十年後には、資本主義と相性良いのは決断の速い独裁だ、となり、民主主義は消滅するのかもしれません。資本主義を選択する以上はどういう仕組みと相性がいいのか考える必要はあると思います。

もし、非人道的なものと資本主義は相性がいいのなら、資本主義のあり方を変えるべきです。

しかし、それは欲望との戦いだし、それこそ他にどんな仕組みがあるのか知らないと選択できませんよね。でも、このまま分断が進むと、選択さえしなくなる時代が来てしまうんじゃないかと危惧しているんです。

 

村本:多くの人にとって選択肢のない時代が来てしまうかもしれないと。

 

堀:選べる人は選択肢がどんどん増えているけど、選べない人はどんどん選択肢が少なくなっているんだと思うんです。その先にある態度は「選ばない」でしょう。そういう社会は嫌じゃないですか。だからこそ、やっぱり僕はみなさんにいろんなことを知ってほしいんです。

KAORI NISHDA/西田香織

(文:杉本穂高/撮影:西田香織/編集:毛谷村真木