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2020年05月29日 09時31分 JST | 更新 2020年05月29日 10時12分 JST

ネットカフェからの相談も…居場所なく漂う若年妊婦に、助産師たちは「HOME」を立ち上げた

背景には、虐待や貧困があることも。「型にはめるのではなく、彼女たちの考えを尊重しながら、安心できる場所を作っていきたい」

写真ACより
居場所がなく漂う若年妊婦たちの背景には、虐待や貧困があることも。

自宅には居場所がない。生理が来ない。妊娠しているようだ。どうすればいいか分からないーー。

孤独の中、漂流する若年妊婦がいる。頼れる場所がなく、妊娠前までもギリギリの状態で生きてきた彼女たちは、妊娠したことによってさらに追い詰められる。

そうした女性たちを支えようと、妊娠相談を行ってきた団体は4月末、一時的な居場所を提供する取り組みを始めた。

地域に開かれ「いつでもおいで」と彼女たちを迎え入れるというこのプロジェクトには、5月29日まで行うクラウドファンディングにも大きな反響が寄せられている。立ち上げた助産師たちに話を聞いた。

 

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取材に答えるピッコラーレ代表理事の中島かおりさん

 

ネットカフェ、友達の家、公園…漂う妊婦

「相談者さんの中には、ネットカフェや友達の家、公園から『妊娠しています』と連絡をくれる子もいます。彼女たちにまず必要なのは病院に行くことや母子手帳をもらいに行くことよりも、『今日の居場所を見つけること』なんです」

妊娠に関する相談を受けてきたNPO法人「ピッコラーレ」の代表理事を務める助産師の中島かおりさんは、相談者たちが置かれた厳しい状況をこう説明する。

ピッコラーレの前身となる団体は2015年に活動を開始。「にんしんSOS東京」として、電話やメール、TwitterのDMなどで妊娠にまつわる相談を受け付けてきた。面談、行政や病院への同行など、継続的な支援も行っている。

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、3月上旬から多くの学校が休校になった。これまで平均して4割程度だった10代からの相談が3、4月は6割に増加しており、影響も心配されている。

 

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「にんしんSOS東京」への10代の相談者は増加傾向だ

 

「私をイチゴで買ってくれる男がいなければ、私は今生きてない」

たった1人で妊娠を抱えざるを得ない女性たち。背景には、虐待や貧困も大きく関わっている。

ピッコラーレに寄せられる相談には、幼いころから虐待を受け、家を出て暮らしてきたという事例が少なくない。頼れる親もなく、支援にもつながらず、「なんとか生きている」という状態の彼女たちに差し伸べられる手が、搾取する大人の手ということも。「私をイチゴで買ってくれる男がいなければ、私は今生きてない」と話す、親から虐待を受け、ひとりで生きてきた19歳の女性もいた。

安心できる場所がないことが妊娠につながり、妊娠がさらに、「産むお金がない」「中絶するお金もない」「病院にも行けない」「誰にも言えない」と、女性たちを追い詰める。

厚労省のまとめによると、2017年度に心中以外の虐待で亡くなった子どもは52人。年齢別にみると0歳が28人と最も多く、うち14人は生後0日で亡くなっている。生後0日死亡の14人のうち11人の加害者が実母で、うち9人が予期せぬ妊娠。9人全員が母子健康手帳未交付、妊婦健診未受診だった。

中島さんはこうしたやりきれない事例に触れるうち、「この子たちに『いつでもおいで』と言える『HOME』を作りたい」という思いが募ったという。

「妊娠はひとりではできません。でも私たちにSOSを出してくれた妊婦さんはひとりぼっちでその妊娠を抱えています。妊婦は妊娠から逃げられないのです。彼女たちの置かれた状況を作り出したのは、彼女だけの責任なのでしょうか。『自己責任だ』と妊婦だけに妊娠を押し付けるのではなく、誰も取り残さない社会にしたい。2年前から構想を練り始めました」

 

ピッコラーレ提供
豊島区の空き家利活用事業で借りた一戸建て。若年妊婦たちの居場所になる

 

無料で利用可能、個室に宿泊も

4月末に居場所のない若年妊婦たちを迎え入れる「project HOME」としてピッコラーレがオープンしたのは、豊島区の空き家利活用事業を利用して借りた一戸建てだ。
助産師らが常駐し、妊娠の週数に関わらず無料で利用できる。相談はもちろん、おしゃべりをしたり、一緒に食事をしたり、気軽に利用することもできる。
個室も2部屋用意されており、宿泊も可能。キッチンも利用できる。
行政や地域の団体と協力し、本人の希望に合わせて就労や就学の支援、今後の生活の相談にも乗るという。

 

ピッコラーレ提供
居場所のない若年妊婦たちを迎え入れる玄関

 

「見て見ぬ振りされる存在」を地域に

「project HOME」最大の特徴は、地域に開かれた場所だということだ。

居場所のない女性たちの行き場になりうるシェルターや母子生活支援施設は、虐待やDVの被害者が入居することもあるため場所や外観は明らかにされておらず、基本的に閉じられている。また、加害者に居場所が知られないようスマートフォンの持ち込みが制限されているところもあり、入所をためらう人もいるいるのがげ。

DV被害者らにはこうした施設が必要な一方で、中島さんは、そうした事情のない女性たちには開かれた場所が必要だと感じている。

「オープンにすることで、誰もがいつでも来たい時に来られるようになります。また、出産後に母子生活支援施設に入ったとしてもいつかは地域に出て暮らしていくことになるので、妊娠中から地域とどんな繋がりを作ることができるのか、経験してほしいという思いがあります」

「さらに、彼女たちのような『見て見ぬ振りをされている存在』を社会に知ってもらうきっかけを作れると考えています」

「project HOME」では、ピッコラーレだけでなく協働団体や地域で活動する団体なども女性たちと関わる。育児支援や学び、仕事、趣味など、関わり方の可能性は幅広い。女性ひとりひとりのニーズを聞き、関わる人の個性や特技を生かしながら、少しずつその人にあった「居場所」をつくるのだという。

 

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取材に答えるPIECES事務局長の斎典道さん

 

専門家である必要はない

「project HOME」にやってくるのは複雑な背景を抱えながらも自分の力で生き延びてきた女性たち。地域に開かれるとしても、支え手は彼女たちの背景を想像した上で関わる必要がある。

そこでピッコラーレと協働するのが、地域で子どもに寄り添う大人たちを独自のプログラムで育成してきたNPO法人「PIECES」だ。今後、地域の人たちや連携先も巻き込みながら、大切にしたい価値観や関わり方について考えるワークショップなどを行う予定という。

事務局長で社会福祉士の斎典道さんは言う。

「HOMEでは、助産師や社会福祉士といった専門職としてよりも、ひとりの人間として妊婦さんたちと関わることが重要だと考えています。信頼感、安心感をつくっていくために必要なのは、時間をかけて丁寧に関わり『あなたのことが大事だ』と伝えること。専門家である必要はありません」

さらに「活動を通して、ここに来る女性たちに暖かいまなざしを持った地域をつくっていきたいと考えています」と広がりを期待する。

 

ピッコラーレ提供
「project HOME」を立ち上げたピッコラーレとPIECESのメンバー

 

「型」にはめない。「あそこなら戻れる」居場所に

新型コロナウイルス感染症の流行の中で、少しずつ動き始めたproject HOME。緊急事態宣言も解除されたため、今後少しずつ活動を活発化させていく予定だ。
中島さんは「訪れた妊婦さんたちが、体と心を休めながら、何が必要なのかを一緒に考え、欲しいものを選び取っていくことができる場所にしたい」と強調する。重要なのは、訪れた女性ひとりひとりに寄り添うことだという。

「大切にしたいものは人それぞれ違うし、本人が必要だと思うものと、支える側が必要だと思うものは違うこともあります。型にはめるのではなく、彼女たちの考えを尊重しながら、安心できる場所を作っていきたいんです」

これまで何人も、施設や支援の「型」に合わず転々としたり、行き場をなくしたりする女性たちを見てきた。

「目指すのは、妊娠をきっかけに、彼女たちが自由に幸せに生きられる社会にすること。そのためには、まずは私たちが、訪れた妊婦さんひとりひとりが何を苦しいと感じ、何を幸せと感じるのかを教えてもらうことからだと思っています。一度出て行ったとしても、『あそこなら戻れる』と思えるような居場所でありたいですね」

「project HOME」では運営資金を募るため、5月29日までReady forでクラウドファンディングを行っている。

「にんしんSOS東京」
年中無休、16:00~24:00(受付は23:00まで)
電話番号 03-4285-9870
メールやネットを使った通話料無料の電話での相談は公式サイトより