BREAK THE SILENCE
2020年12月18日 16時27分 JST

草津町議リコール問題、性被害の「白か黒か」議論で見過ごされているもの

「多くの住民は常識を働かせて、伝聞情報を基に判断したにすぎません」。専門家が語る、性被害の真偽以前の問題とは。

kazuma seki via Getty Images
草津温泉

町長からの性被害を訴えた町議の解職請求(リコール)問題に揺れる、群馬県草津町。町議はリコールされ、住民投票の結果失職した

町長と元町議はそれぞれ12月に日本外国特派員協会(FCCJ)で記者会見を開くも、双方の主張は平行線をたどった。ただ、専門家からは“性被害の真偽以前”の問題を指摘する意見が上がる。

何が問題になっているのか?

地方自治に詳しい高崎経済大の増田正教授(政治学)が、ハフポスト日本版の取材にメールと電話で回答した。増田教授は「事実関係すらあやふやな状況で、住民が冷静に判断できると考えるのは無理がある」として、現段階での住民投票の実施に疑問を投げかける。

 

食い違う主張

「100%嘘の作り話ででっち上げです」

草津町の黒岩信忠町長は、12月14日の記者会見で、元町議の新井祥子氏が訴えている性暴力の疑惑を真っ向から否定した。

FCCJのYouTube
日本外国特派員協会で記者会見を開く草津町の黒岩信忠町長

黒岩町長は、新井氏らを名誉毀損の疑いで刑事告訴している。さらに、黒岩町長は新井氏らを相手取り、損害賠償を求めて裁判所に提訴し、民事訴訟でも争っている。 

会見で、黒岩町長は「新井元議員は被害者を装っておりますが、刑事・民事事件とも訴えておりません」として、新井氏が刑事告訴や提訴をしていない点を指摘した。

さらに町長は、新井氏が「性行為を強要された」と主張する時刻に録音したとみられる音声に、行為の証拠となる内容が含まれていなかったことも、新井氏の証言を虚偽と断定する根拠としている。

これに対し、新井氏は18日の記者会見「町長から性被害に遭ったことは事実です」と主張。「町長や、議長をはじめとする議員のほとんどが私の告発を嘘と決めつけ、リコール以前から私や私の支援者に中傷やデマなどの圧力をかけてきました」などと反論した。

FCCJのYouTube
記者会見で、草津町長の主張に反論する新井祥子氏

刑事告訴については、「群馬県警の方に行ったのですが、その時の対応に関しても不審に感じることもあったので、今は刑事告訴については検討保留にしています」と説明した。

民事訴訟に関しても、新井氏は「議会で様々な圧力、懲罰の嫌がらせをされている中で、自分の刑事・民事(訴訟)まで対応が及びません」と述べた。

 

伝聞情報で判断する危うさ

大きく食い違う双方の言い分。

だが、増田教授はこうした主張の対立以前の問題を指摘する。

増田教授は「法律上、住民投票によって公職者の解任ができるので、住民が権利として行使することまでは批判できません」と前置きした上で、「私個人としては、すでに町長側からの民事訴訟や刑事告訴がなされており、司法的解決による決着が妥当だと考えます」と話す。

その理由に、性暴力の疑惑の真偽をめぐる事実が、まだ明らかになっていない点を挙げる。

「住民投票での圧倒的多数による賛成を理由に、今回の解職を正当化する向きもあるようです。ただ、双方の意見が食い違い、事実関係すらあやふやな状況で、住民が冷静に判断できると考えるのは無理があります。多くの住民は常識を働かせて、伝聞情報を基に判断したにすぎません。冷静に司法的決着を待つべきだったのではないかと残念に思います」

実際に、リコール運動を主導した黒岩卓議長は、住民投票の結果を受けて「圧倒的多数による大勝利だ。新井氏の発言はうそという審判を町民が下した」などと発言していた。「事実か、事実ではないか」が、多数決で決まってしまう危険もある。

 

町ぐるみで進めたリコール運動

今回は、議長を筆頭に町議らがリコール運動を率先した。さらに、公共施設の敷地内に新井氏の解職への賛成を呼びかけるポスターが貼られたことなども報じられ、波紋が広がった。

増田教授は「町当局がリコール運動を主導したことには疑問を感じます」と首を傾げる。

「実際には町長の意向をくんで、議長や町議らが町ぐるみで進めました。市井の個人が進めたとしても、署名を効率よく集められるはずがありません。その意味では、権力側による排除です

「新井氏の解職で一旦問題が解決したように見えますが、今後の補欠選挙などの選挙では、同じ構図での対立が繰り返されるかもしれません。結局、町がこの問題をずっと背負っていくことになります