新型コロナ・原発事故で政府の対応を民間が「検証」。弁護士はどう関わったのか。

【政策起業ケーススタディ第2回】弁護士という専門性が政策起業に活かせる大きな可能性とは?

社会課題解決のため、政策を「起業」する時代が到来しています。

官僚や政治家だけでは解決できない複雑な政策課題に向き合い、課題の政策アジェンダ化に尽力し、その政策の実装に影響力を与える個人のことを「政策起業家」と呼びます。

しかし、日本の「政策起業家」の層はまだ厚いとは言えず、ノウハウも可視化・蓄積されていません。そのような課題に取り組むため、独立系シンクタンクである一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブは、政策起業に関するノウハウの可視化・蓄積を目指し、「政策起業の当事者によるケース・スタディ」を行う新しい試み「PEPゼミ」を開始しました。

第2回のテーマは、「弁護士と政策起業」。長島・大野・常松法律事務所の塩崎彰久 パートナー弁護士にご登壇いただきました。弁護士という専門性が政策起業に活かせる大きな可能性、そして検証の結果や提言を実際に政策に活かす難しさなど、様々な「リアル」。

2021年1月14日開催「PEPゼミ」の内容よりその一部をお届けします。

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【政策起業 ケーススタディ・ファイル2】

弁護士と政策起業

〜福島原発事故・新型コロナ感染症対策における民間からの検証〜

塩崎彰久 長島・大野・常松法律事務所 パートナー弁護士

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1. 政府の対応を「検証する」ということ

新型コロナウイルスの感染拡大や、福島原子力発電所の事故など、「国家的な危機」が起きた時に政府がどう対応してきたのか。それを中立的な第三者の目から確認することは、歴史的にも非常に重要なことです。

そんな「検証」を通じた政策起業を体現しているのが、危機管理やガバナンスの専門家である塩崎彰久弁護士です。今まで、新型コロナ対応・民間臨時調査会(以下「コロナ民間臨調」)、福島原発事故独立検証委員会(以下「原発事故の民間事故調」)、そして民主党政権の検証と3度にわたり、重要な節目で民間の立場から検証に取り組みました。

コロナ民間臨調
コロナ民間臨調
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

「弁護士による政策起業」というと、法制度についての専門知識を基に、規制改革やルール・メイキングなどに関して政府に提言する姿を思い浮かべます。しかし、今回のケースでは、弁護士は法制度への知見のみならず、訴訟などの業務で必要な「事実認定」など様々なスキルを用いて、「政策検証」というフロンティアに取り組むノウハウを語っています。

尚、今回のPEPゼミでは、福島原発事故の際に国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(以下「国会事故調」)に携わった三浦法律事務所 松澤香パートナー弁護士、椎名つよし法律税務事務所代表 椎名毅弁護士、コロナ民間臨調の副主査を務めた長島・大野・常松法律事務所 渡辺翼弁護士にもゲストとして議論に加わっていただきました。

2. 民間政策検証のすすめ

最も難しいのは、いつ、誰に向けて、何を検証するのかというスコーピング

コロナ民間臨調は、新型コロナウイルスの感染拡大に対し政府がどう対応したかを検証するために、独立系シンクタンクが民間の立場で立ち上げた調査会です。しかし、自主的な取り組みであるがゆえに、法律に基づく国会事故調などと異なり、そのタイミングやオーディエンスが予め確定しているわけではありません。

自由であるがゆえに、その検証が何のために行われるか。政府の次の危機への対応の教訓とするためなのか、記録として歴史に残すためなのか、国民の知る権利に寄与するためなのか・・・様々な角度が考えられ、まず何より検証を行う目的やスコーピングが肝要になります。

「コロナ禍に関する非公開の事実、世間の関心が高い事実、政策決定の理由・背景を明らかにすることを目的とし、第一波が過ぎた2020年秋までを対象とした検証を行う」

今回、塩崎弁護士らチームが上記の考えで第一波の検証を行ったのは、危機が継続し政府が自ら検証を行うのが難しい中、第三者として第一波を検証することが今後想定される第2波、第3波の対応・政策立案にとって有益だと考えたからです。

結果として、2カ月という短い期間のうちに、83名の関係者へのヒアリングを重ね、専門家が12回以上集まり、470ページにも及ぶ報告書を猛スピードで執筆することとなりました。

「新型コロナウイルスの感染拡大という現行の危機に対して、同時並行で検証を行ったことで、検証としてのインパクトを与えることができた」と塩崎弁護士は振り返ります。 

稀に見るチーム体制:7人のプロボノ弁護士

このコロナ民間臨調での政策検証における大きな特徴は、共同主査である塩崎弁護士を筆頭に、7名もの弁護士が初期段階から最終段階まで検証に携わったことでした。

塩崎弁護士は所属事務所での「プロボノ(公益活動)」案件として、事務所に原則無償で協力すること相談。弁護士チームは関係者からのヒアリングを通じた事実認定から執筆まで、各界の専門家と協力して検証にあたる中心的な役割を担いました。

特に、報告書の前半は「ダイヤモンド・プリンセス号」「一斉休校」など具体的な事例に基づくケースを設定し、ここを弁護士が担当。事象の時系列や制度の設計を含め「事実認定」を徹底的に行い、後半は「官邸」「医療体制」「コミュニケーション」など、主に各分野の専門家による縦断的な政府対応の「評価」を行いました。

コロナ民間臨調のプログラム・ディレクターを務めたAPI理事長の船橋洋一氏は、事実認定の段階から弁護士がプロボノとして参加する検証は、世界的にも稀有だと言います。

幾重にも重ねる「堅い」「客観的な」事実認定の方法

具体的な事実認定の方法について説明する塩崎弁護士の様子
具体的な事実認定の方法について説明する塩崎弁護士の様子

まず第一段階として行われた、「徹底的な事実認定」はどのようなものなのでしょうか。

塩崎弁護士は、「裁判に耐えうる強度」を意識して事実認定を行ったと述べます。最も怖いのは、公表された報告書について関係者から「事実と違う」といった指摘を受け、政策検証全体の信憑性が損なわれること。だからこそ、関係者の証言を拙速に鵜呑みにするのではなく、他の客観的証拠との比較検討を行う「堅い」事実認定が重要、と強調します。

この検証の事実認定は、図の通り大きく3つのレイヤーに分かれます。

まず国会議事録、審議録、法令、要人インタビューなどの報道記事など、すでに公開されている情報。この公開情報だけでも、ご想像の通り半年間に渡るため膨大な量になります。ここを精査した後、非公開情報を政府への資料請求や関係者からの取得などを通じて集め、公開情報だけでは足りない情報の穴を埋めていきます。

その後、集めて整理した情報を基に、政府関係者らにヒアリング。しかし、ヒアリングによる証言は、その人の置かれた立場を元にした発言であることに注意が必要です。ここでさらに、複数の人の証言を読み合わせたり、公開情報と非公開情報の間に存在する隙間を埋めることで、緻密な事実認定を行います。

こうして一つ一つ認定していく事実について、

「報告書での言葉使い一つにも細心の注意を払った。」と塩崎弁護士は言います。

例えば、大きく話題となった、小池都知事のロックダウン発言に関する内容。

例:

文案→ 「小池都知事のロックダウン宣言で緊急事態宣言が遅れた」

本文→ 「西村大臣は、都知事のロックダウン発言により「緊急事態宣言(発出)が遅れた部分がある」と指摘した」(報告書:426頁)

実際に「小池都知事のロックダウン宣言で緊急事態宣言が遅れた」ということを客観的に認定するのか、西村大臣などの「受け取り方」として実際にそのような混乱が生じたことに焦点をあてるのかによって表現は大きく変わってきます。そのように「認定できる事実」を慎重に積み上げて一文一文が練られ、報告書となっていきます。

「根拠のある」政策評価を行うために更なる検討が重ねられる

このように明らかになった「事実関係」に付いて、それをどのように「評価」するのでしょうか。評価にあたっても、客観的な根拠が求められます。

塩崎弁護士は、「報告書はお金を払って買っていただいているわけで、また評価される当事者は自分の評価を熟読します。なので単なる個人的な感想ではなく、きちんと根拠に基づく評価を下さなければななりません。」と説明します。

重要なのは「物差し」と仮説の「根拠」の明確さ

例えば、「厚労省のパンデミックへの備えは杜撰(ずさん)だった」との評価をする場合、何をもって「杜撰」という評価を下すことができるのでしょうか。

根拠のある評価を行うために、まずその評価内容を因数分解することから始めます。

例えば、「杜撰」という評価を客観的に示せる内容として以下のようなものがあります。

・政府が過去に実施すると言った基準や目標に照らして達成できているか。

・外国で標準的なパンデミック対策と比べてどうだったかという国際比較。

・法令上の要件をクリアしていたか。

・関係者の証言があるか。

・支持率やアンケートなど客観的な評価を下したデータがあるか。

評価を一つ下すのに複数の「物差し」から明確な根拠を示すという作業を積み重ねていきます。上記のケースでいえば、厚労省は2009年新型インフルエンザ総括報告書において指摘された対策を十分に行っておらず、また複数の関係者の「準備が不十分だった」という証言がありました。

塩崎弁護士は、「こうした作業を行っていると、約470頁の報告書を書くのに、誇張ではなく一文書くのに20~30分かかることも珍しくなかった」と振り返ります。

最後に、塩崎弁護士は報告書の総括の最後の一文を紹介し、お話を締めくくりました。

「同じ危機は、二度と同じようには起きない。しかし、形を変えて、危機は必ずまたやってくる。学ぶことを学ぶ責任が、私たちにはある。」 

塩崎弁護士は自身の弁護士としての専門性を活かし、この「学ぶ」という公共の責任を果たすために民間ができること、その政策起業の大きな可能性を示しました。

3. ディスカッション:検証の難しさのリアル

ゼミは、ここまでの塩崎弁護士のケース説明を踏まえて、参加者のディスカッションに移ります。ディスカッションでは検証の「難しさ」も浮き彫りになりました。

1. 検証における「メッセージング」と「堅さ」のバランス

塩崎弁護士の説明の通り、弁護士は厳格に構成された法制度の前提のもと、明確な根拠に基づいた事実認定を行います。このファクトベースの厳格な検証プロセスは、弁護士にとっての強みです。 

一方で、「強固な事実認定は同時に弁護士の弱みにもなり得る」と、福島原発事故の国会事故調で調査課長として委員会のマネジメントを担当した松澤香弁護士は言います。

左から椎名毅弁護士(椎名つよし法律事務所)、松澤香弁護士(三浦法律事務所)、渡辺翼弁護士(長島・大野・常松法律事務所)
左から椎名毅弁護士(椎名つよし法律事務所)、松澤香弁護士(三浦法律事務所)、渡辺翼弁護士(長島・大野・常松法律事務所)

「国会事故調の取り組みを通じて感じたのは、政策評価・検証に人々が求めているのは、裁判官のような判決ではなく強いメッセージであるということです。 

ファクトに基づく正確な事実認定は当然必要です。しかし、厳しい時間的制約の中で、強いメッセージを出し、社会に伝えるという観点からは、事実からスタートする積み上げの事実認定だけではなく、同時に仮説検証のようなアプローチが必要なのではないか。

短い調査期間の中でどのようなメッセージを国民に対し伝えるべきかを常に考え、仮説検証とファクトベースの事実認定を行ったり来たりしながら、仮説を組み替えインタビューの対象を選定していくという作業を行う必要がありました。」

 また、同じく国会事故調で調査報告書の執筆に従事した椎名毅弁護士は、

「弁護士がやる限り、きちんと証拠に基づいた事実認定を行わなければならないと提言していました。しかし、調査委員会は弁護士だけで構成されるわけでありません。様々な分野の専門家がいる中で、事実認定のレベル感がどこまで共有できるかは難しいところもあります。」

と述べ、実務的に報告書全体でそのようなアプローチを担保することの難しさも語ります。

2. 他分野への展開:いじめの第三者委員会の場合

今回、テクノロジー分野、社会福祉分野、政府内弁護士、組織内弁護士など様々な立場で、「政策起業」に携わっている弁護士の方々が参加しました。その中で、弁護士による検証メソッドに関連して、他の分野への取り組みについても議論が及びます。

例えば、学校のいじめについての第三者委員会。学校問題についても、コロナ民間臨調と同様に、事実認定をするために弁護士の専門性が期待されます。しかし、一方でいじめは客観的事実が乏しい事案が多い中で、当事者である「子ども」にどうヒアリングし、どのように証言を認定していくのか、など、大人による政策検証とは異なる課題が挙げられました。

また、設置を義務付けるいじめ防止対策推進法における第三者委員会設置の範囲が広く、全国でいじめの件数が多い中、どのように十分な対応をとれるのか、結果についての効力が限定的であることなど、法的根拠に関する問題も解決していく必要性について論じられました。

3. 検証結果が「活かされる」ためにはどうすればいいのか。

「コロナ民間臨調」は第三波対応に十分反映されたのか 

今回のコロナ民間臨調の報告書は、発表に際して新聞やテレビなどのメディアにも取り上げられたほか、政府にも提出され、また各政党の議員への説明会も実施されました。結果、国会審議でも引用されるなど多くの反響がありました。

しかし、「政府の第三波の対応を見ると、今回の報告書の提言をより迅速に、より効果的に政府が取り入れる方法はあったのではないか」と塩崎弁護士は忸怩たる想いを滲ませます。

どうしたら更に報告書の検証を活かすことができるのか、様々な視点から議論されました。

「苦い薬」をどう飲ませるか 

実際にコロナ民間臨調の副主査として報告書について国会議員への説明などを行った渡辺翼弁護士は、

「柔軟な変化や迅速な改善が苦手、言わば『PDCAAが弱い』といったある意味では日本共通の課題に、弁護士としてどのように向き合っていくことができるのか」と疑問を投げかけました。

「客観的な立場からの『Check』(評価)やそれに基づく提言は弁護士の得意分野であり、今回の検証でも、まさにそのような点での貢献ができたのではないかと思います。

その一方で、その後の政府における『Act』(改善活動)に、どのような形で弁護士としての専門知識を活かせるのか、そのような活動に関心がある弁護士とパブリックセクターをどのように結び付けるかという点が、日本の課題ではないかと感じました。」

それに対して、議論に参加していた官僚経験者は、「政府は外部からの批判を受け入れることに慣れていない」と指摘します。

すなわち、霞が関の中の立場からすると「外部は政策の現場を分かっていないという考えも前提にあり、その中で玉石混交である外部の情報から『石』を防ごうとする姿勢が硬化し、特に、危機が起きて人員などが圧倒的に足りていない中では、特に『玉』を受け止めることができない」と言います。

政府内部において、今回の報告書のように、外部でもきちんとした政策検証ができるという認識の普及が必要な状況が伺えます。

また、政府は外部の意見に防御的となりがちなだけでなく、行政は法律に基づいて行われていることから、受け身での政策になりがちであり、積極的な対応をしにくいのではないか、との意見も出されました。

また同時に、塩崎弁護士らは評価を行った側として「政府側で民間の提言を活かすインセンティブが欠如していると感じる時があった」と語り、政策決定者の面目を潰さない形で受け入れてもらうよう、政権交代や大臣が変わったタイミングで提言を出すなど、「苦い薬をどう飲んで頂くか」も検証する側として考えなければならないと指摘しました。

政策の検証結果を組み込むというのは、政策当事者からしてみれば、過去の失敗を認めることになり、それはキャリアに大きく響く。「間違いを認めて学習するということは本来褒められるべきことだと思うが、過去のことを修正すると批判されるということが学びのインセンティブを削いでいる」との意見も出されました。

政府を取り巻くステークホルダーの役割は大きい

様々な視点を伴う政府が検証を「活かす」ことの限界を克服するにあたって、政府を取り巻くアクターの役割も重要です。

特に、議論の中で何人かの参加者が指摘したのはメディアの役割です。

過去に行った政策を検証し、どの点が良くて、どの点で失敗したか。短期的な失敗を批判するのではなく、そこからどのような改善点を洗い出し、次の政策へと活かしたかを評価する「褒めるメディア論」の可能性についても議論されました。

また、内部だけでは改善されにくい状況に対して、リボルビング・ドア(霞が関の中途採用や官僚の外部経験の構築)といったシステムを拡充する利点も指摘されました。

例えば、弁護士が政府に所属し積極的に意見を提言する。官僚が私的なワークショップを通して報告書をフィードバックするなどの活動を行う。

このように外部の意見を政府としても取り入れながら、その政策評価を活かしてアクションにつなげていくサイクルの確立が期待されます。

またそのためには政府だけではなく政府を取り巻くステークホルダーの政策起業力の底上げが欠かせないと見えてきました。

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今回のゼミは、政策起業の中でも「検証」という分野を取り上げ、弁護士の専門性、そして弁護士×政策起業の大きな可能性を感じられました。

更に、その「検証」の結果を活かして次の政策につなげていくためには、メディアや各分野での政策起業家のステークホルダーが一体になって取り組んでいく必要がある。まさにPEPで取り組む「エコシステム」形成の重要性も再認識するケース・スタディとなりました。

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