アートとカルチャー
2021年03月21日 08時00分 JST | 更新 2021年03月22日 11時05分 JST

「その髪型、彼氏は嫌がらない?」「みっともない色」髪型に向けられる言葉から「固定観念」を考えてみた

「ベリショにしたいです!」⇒美容師「それは賛否両論だね」。挑戦したい髪型を、美容院で躊躇されたという経験談も。その“背景理由”を美容師にも聞きました【エピソード集】

ロングヘアだった女性が「ベリーベリーショート」にするまでの過程を描いたマンガがTwitterで話題になりました。

女性がベリーベリーショートにしようとしたところ、「これ以上みじかくすると、男の子みたいになっちゃうから」と止められたものの、後に自分の憧れの髪型になれた時、「かるく人生が変わった」というエピソードが描かれています。

髪型は時に、個人の大切な自己表現の一つです。しかし、周囲の目が気になったり、あるいはルールなどに縛られたりして、思うようにできない時もあります。

このマンガをきっかけに同僚たちと髪型について話してみると、「親の求める髪型にしてきた」「髪型について周りに言われた言葉」「美容師さんに難色を示された」などの、髪型をめぐってモヤモヤしたという経験が次々と出てきました。

一方で、髪型を変えたことで「自分に出会えた」という声も聞こえてきました。

ハフポスト編集部での会話を紹介しながら、髪型と社会規範、自己実現の関係を考えてみたいと思います。

 

「“花嫁”はロングヘアー」「成人式は黒髪」なの?

話題のマンガをきっかけに編集部で始まったSlack上の会話からは、髪型に対する「社会の固定観念」が浮かび上がりました。

「ショートカットがとても好き」という女性スタッフが直面した固定観念の一つは「“花嫁”はロングヘアーをアップスタイルにする」というものでした。

・髪型に関して一番「あ〜あ」と思った経験は、結婚式の前に色んな人に「髪の毛、伸ばさないとね」と言われたこと。面倒だったし、言われることで少し迷っちゃう自分も嫌だった。結局ショートカットで結婚式に臨んだ。付き合いの長い友達から「あなたらしい髪型とドレスだった」と言われたことがものすごく嬉しかった。

「特定の催し」は「特定の髪型」で迎えるべきーー。こういった固定概念は存在します。

大学生のスタッフによると、「成人式に合わせて、髪の毛を伸ばす&黒染めする人が多い」とのことでした。「着物=黒髪のイメージがあるようですけど、例えば金髪でも着物はかっこよく着られるはず、と思います」

「黒髪が正しい」とされている場面として、例えば就活などもあげられます。

 

母親の「らしく」、先生の「みっともない」。その言葉が自分の中に根を張った

Ada daSilva via Getty Images
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親をはじめとした「大人たち」の考えによって、自分の思いが押しとどめられた経験の話もありました。

・大学生の頃に、バイト先や一部の先生から「大人になって髪色が明るいのはみっともない」と聞かされた。「今のうちに」とすごい勢いで髪色を変える友人もいた。卒業し、経済的に少し余裕ができた今、色々な髪色にトライしたいけれど、前出の言葉が自分の中に残っていて、「やっていいのか…」とストップをかけている部分がある。なので、年上の同僚がブリーチして出社した時は「いいのか!」と、ときめきました(笑)

・母親が髪型にうるさく、少しでも髪の毛が伸びると「似合わない」「早く切れ」と言われ、高校時代までずっとスポーツ刈りでした。大学生の時に、テクノミュージシャンに憧れて坊主にしていた時、学内のとある選考に落ちたら、母から「坊主にしたからだ」と言われて、ショックでした。反動で、働くようになってからは髪を伸ばした時期もありました。

髪型に関する親の言葉が、大人になった今も自分の中にあるという話を聞かせてくれた同僚もいました。

・子ども時代は母親から「ショートが似合う」と言われて、ベリーショート以外は許されなかった。反動で、大学生になってからはアルバイト代を使って、パーマをかけたり、カラーをしたり。ただ大人になった今も、自分の中にどこかまだ母親がいて、「本当に憧れるスタイル」には挑戦できていない。子どもが生まれてからは、母から「母親らしく」と言われて、その言葉も引っかかっている。ずっと反発しながらも、マンガにもある「円」の外に出る勇気は持てずにいて、そんな自分がすごい嫌。

  

坊主にしたら「理由」を聞かれた

Tara Moore via Getty Images
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「男性の髪型」への固定観念を感じてきたという声も聞かれました。

ある男性スタッフは、坊主から長髪まで試してきたことで見えたものがあります。

・坊主や長髪にしていると「理由」をけっこう聞かれます。髪が長い時は「切ったら?」「やばいヘアスタイル」と言われ、坊主の時は「何かやらかしたの?」と言われる。坊主には「懲罰」のイメージを持つ人も多いようです。みんな悪気がないのは分かっていますが、「男性は短髪〜ぎりミディアム」という前提で話しているのを感じます。

以前、装いについて取材した常見陽平さん(働き方評論家、千葉商科大学国際教養学部准教授)は、「装いの自由さって、ステークホルダーとのせめぎ合いなんですよね。さらに広く言うと、人は所属している場所における『周囲』とのせめぎ合いで服装や髪型を決めていく」と指摘していました。

親や友達、学校、ご近所、勤務先、取引先…社会生活の中にはさまざまなステークホルダーがいます。社会や地域の雰囲気や文化と絡み合いながら、ステークホルダーとの無言の調整も重ねて「装いの自由さ」の「枠」が決まっていき、それが人々の中に根を張る。

髪型を含めた装いは、身近な人たちとの関係にも実は繋がっている。だからこそ、「憧れを実現する」「みんなと違うことをする」のは、時に、個人にとって心理的なハードルが高いことになり得るのだと思います。

 

ベリショにしたい!⇒「美容師さんに微妙な顔をされてしまい」

Nikki Bonuel via Getty Images
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マンガのエピソードと同じように、美容師さんから「やりたい髪型を躊躇された」経験があるスタッフはたくさんいました。

・「ベリショにしたいです!」と告げましたが、美容師さんから「それは賛否両論だね。強い意志があるなら切るけど」と微妙な顔をされてしまい、肩上ボブに落ち着きました。微妙な顔をされてしまった手前、それ以上食い下がる勇気もなく。美容のプロに言われると「やっぱ私にはショートは似合わないよな」と急に自信もなくなってしまい。「こんな髪型にしたい!」と希望を伝えても、結局「美容師さんフィルター」で加工済みの髪型に落ち着くのが悔しいです。

・髪の毛を初めて染めに行った時、「綺麗な黒髪なのにもったいない」と言われて、「黒髪、痛みゼロ=正義」という価値観がまだあるんだ!美容師さんがそれ推しちゃうんだ!と驚いたのを覚えています。

 

なぜ「渋る」のか?美容師に聞いてみた

美容師が「短くするのを渋った」というエピソードについて、サロン勤務経験のある美容師に聞いたところ、「美容師が『大きく変える』ことを避ける」背景には、美容師側が抱える「怖さ」があると分析してくれました。

「切った後に『短くなりすぎた』とクレームになるのが怖いのと、美容師自身がショートカットの技術に自信がないのが理由としては考えられると思います。ブリーチを躊躇する美容師も、『髪が痛んだ』『しなきゃよかった』と言われるを恐れているのはあると思う」 

「希望を叶えるコツ」としては、SNSを使うことがおすすめだといいます。美容師がSNSなどで紹介している仕上がり写真を見て、「ショートカットが得意」「このジャンルのカラーが得意」など、自分が挑戦したいスタイルが得意な美容師を探すのです。

「Instagramを自分の作品ページとして使っている美容師たちがいます。サロンに行くってよりは、『この人にやってもらいたい!』で選ぶ時代になっていると思います」 

例えば、行きたいエリアや #ショートカット などの髪型のほか、#春カラー #ハイトーン #グレージュ などの希望の色も検索すれば、目的にあった美容師を見つけやすいとのこと。

t.maz via Getty Images
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「『いつもの美容師さんにお願いしたい』という方は、事前に挑戦したい髪型の写真を見せて、『次はこれにしたいから、よろしく!』と早めに伝えておくとスムーズだと思います」

 

「彼氏はいいって言ってるの?」「彼氏は嫌だって言わない?

美容師からの言葉について、女性のスタッフからはこんな体験談が聞かれました。

・「派手な髪型」にする時、いつも「彼氏はいいって言ってるの?」「モテないよ?」と言われます。(そもそも、このタメ口も嫌です…)

ほかにも、髪を短くする時に、「彼氏は嫌だって言わない?」「彼氏とか大丈夫?」と確認されたという声が複数のスタッフからあがりました。

こういった言葉が出てくる背景には、社会に根深く残る価値観の影響を感じます。

 

男性の同僚たちにも、美容院での経験を聞きました。

・「こう切ったら“そっち系”みたいになっちゃいますね」と言われたことがあった。同性愛者を指しているのだと思う。「同性愛者は良くない」という前提に立った発言で、差別。

・白髪染めをしていたが、家族から「白髪のままで素敵だ」という言葉をもらって、やめると決めた。ところが、美容師さんからは「白髪が目立つ」「不自然」と妙に抵抗されてしまって、困惑した。結局、白髪染めはやめることができ、今の髪色を気に入っています。

自分の希望するスタイルを、プロである美容師からやんわりであれ否定されたら傷つきますよね。またこの他にも、ハラスメント発言が出てきてしまい…という体験談がありました。一対一の時間が長いからこそ、会話内容なども含め、「自分と相性のいい」美容師に出会うまでは長い道のりとなることもあります。

ということは逆に、美容師との出会いが、自信につながることもあるはず。そんな、同僚たちの体験です。

 

「違う自分に出会えた」「心が楽になれた」

Malte Mueller via Getty Images/fStop
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・くるくるふわふわの髪に憧れているのですが、全くクセがつかない髪質なので、パーマは3日で落ちます。しかし、ある時出会った美容師さんが私の願いを全て叶えてくれました!ミュージカル『アニー』の主人公のような髪型にしてくれた。「生まれ変わった」「違う自分に出会えた」と思えました。それ以来、ずっとそんな気持ちでいます。

・毛量が多くて横に広がるのが悩みだった私に、「サイドをバリカンで刈り上げてツーブロックにしよう」と提案してくれた美容師さん。以来14年お世話になっています。一度転勤でその美容院に行けなくなり、転勤先の美容院に行ったら「バリカンがない」と言われてしまいました。結局、里帰りして元の美容院に通ったほど信頼しています。

・髪に関連する体質のことで、美容師さんが言ってくれた一言で、ものすごく心が楽になれた。

・ずっとお世話になっている美容師さん、「もっと短い方が服装に合う」「ブリーチやってみます?」などと、私が挑戦したいと心のどこかで思っていることを見つけ出して提案してくれる。一歩前に進みたい気持ちを応援してくれる人がいることは、自分が自由に生きられる、心の支えになっています。

無数にある社会規範や「らしさ」という「円」。そこが心地よいことももちろんありえますし、出たくても自分自身にとらわれてしまうこともあります。

そんな時、「外に出てみようよ」「次に進もうよ」という勇気をくれるきっかけにヘアスタイルはなり得るのだということを、改めて考えました。

 

自分の髪型は、自分の歴史であり、今生きている日常の話

髪型の話をしてみたら、思いがけず同僚たちと会話が広がりました。

ここまでに紹介した以外にも様々な話題が出ました。

「新しい髪型が気に入らず、学校を休んでしまった」「髪をすきすぎて、スカスカに」などの過去の失敗談。

「子どもの頃はクセ毛を馬鹿にされていたのに、ある時から『羨ましい』と言われるように。髪質にも流行があるのか」という経験に基づく分析。

「おかっぱが世界一おしゃれな髪型だとずっと信じている」「クセの強い髪が、秋の天気の日にサラサラになる時は、密かに一人で感動している」などと、自分の髪型の歴史や今生きている日常……髪型に関する話は尽きませんでした。

みなさんも身近な人と、髪型をきっかけに、会話してみませんかーー?

(湊彬子 @minato_a1 ・ハフポスト日本版)