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2021年07月01日 12時10分 JST | 更新 2021年07月07日 12時39分 JST

日本映画のヒット作、女性監督の割合は3% 「ジェンダーギャップ120位の日本社会や働き方が反映」

「ガラスの天井」は日本映画界にも。特に大規模な予算がかかった作品で女性監督の起用が少なく、その背景には過酷な労働環境も考えられる。

Japanese Film Project
女性監督の割合は32人に1人と極めて少ない

女性の組織内での昇進などを阻む見えない壁を「ガラスの天井」と言うが、映画界では、フィルムの材質をもじった「セルロイドの天井」と呼ばれている。

中でも監督業は、その天井が特に分厚いとされる。

日本映画では、過去21年間で製作されたヒット作で、監督の延数796人のうち、女性監督はたった25人、全体の3.1%しかいないという統計結果が明らかになった。

 

2020年は、大作での女性監督がゼロ

調査を行ったのは、日本映画業界の「ジェンダーギャップ・労働環境・若手人材不足」を検証、課題解決するために調査及び提言を行う非営利団体「Japanese Film Project(JFP)」。

対象となったのは、2000〜2020年の21年間に発表された、大規模な予算がかかっているとみられる興行収入10億円以上の実写邦画だ。

Japanese Film Project
女性監督の割合。興行収入10億円以上の映画で、過去21年間で25人しかいない

年別にみると、2000年、2002年〜2005年、そして2020年は女性監督は1人もいなかった(なお、2020年は新型コロナの影響で、劇場公開本数が例年より100本以上減少)。0%から最大8%までの間を推移している。

さらに、規模を問わず2019〜2020年に劇場公開された全作品における女性監督の比率は11〜12%であることから、特に大規模な作品で、女性監督の起用が少ないことがわかる。

Japanese Film Project
2019〜2020年に劇場公開された全作品における女性監督の比率は11〜12%

監督以外の役職では、撮影監督の女性比率は8〜11%、編集20%、脚本19〜22%で、現場で働く役職(監督・撮影監督)より、室内で作業できる役職(編集・脚本)のほうがおよそ2倍女性比率が高い。

大学や専門学校など主な教育機関で映画を学ぶ学生の数は、ジェンダー比率に大きな偏りは見られないといい、例えば日本映画学校は、学生の6割が男性、4割が女性。しかし、実際に働く人々では女性の割合は低い。

JFPメンバーの1人であるジャーナリストの伊藤恵里奈さんは、これら結果について「ジェンダーギャップ指数120位である日本の社会や働き方が、映画界にも反映されている」と指摘した。

 

アメリカや韓国の状況は?

アメリカ、特に予算規模の大きな映画を生むハリウッドでは、女性監督をめぐる「セルロイドの天井」は長年問題視され、#MeToo運動以降、是正を求める声はより大きくなっている。

アカデミー賞では、93年におよぶ歴史の中で監督賞にノミネートされた女性はたった7人しかいない。うち受賞したのは、『ハート・ロッカー』のキャスリン・ビグロー(2009年)と、『ノマドランド』のクロエ・ジャオ(2021年)の2人だけ。「女性監督の作品をないがしろにしている」と、アカデミー賞の主催団体には多くの批判が寄せられてきた。

Getty Images
2021年のアカデミー賞監督賞では、初めて女性が2人同時にノミネートされた。クロエ・ジャオ(左)、エメラルド・フェネル(右)

状況は徐々に改善の傾向にあり、アメリカのサンディエゴ州立大学の調査結果では、2020年に興行収入が高かった100の映画のうち、女性監督の割合は、過去最高の16%だった。

2018年は4%、2019年は12%で、2年連続上昇の傾向にある。

また、スポーツソウルによると、韓国で2019年までの過去10年間で、興行収入上位50位までの映画計468作品で、女性監督の作品は6.2%だった。

 

「ジェンダーギャップと労働環境は密接に繋がっている」

フリーランスで働く人々に支えられる日本の映画界では、近年、ハラスメントや低賃金かつ過酷な長時間労働などを改善しようという動きが高まりつつある。

新たに立ち上がったJFPは、これまで「解決策を練るための具体的な調査が十分に行われてこなかった」とし、意思決定層だけではなく、弱い立場に置かれることもある若手や女性のスタッフ、現場で働く人々の声を反映した調査を目指す。「日本映画業界の持続可能な制度設計」を考え、政策提言へと繋げていく。

Japan Film Project提供
左上から時計回りに伊藤恵里奈さん、歌川達人さん、西原孝至さん

JFPのメンバーで映画監督/アーティストの歌川達人さんは20代前半から撮影現場で働いてきたが、長時間労働による不眠や日常的な暴言の被害も経験してきたという。

「ジェンダーギャップや労働環境の改善に向け、業界全体で取り組もうとする姿勢は、正直あまり感じられません。特にジェンダーギャップについては、映画製作の意思決定層にいる人々は、その深刻さに気づいていないのでは。だからこそ、外側からも働きかけていくことが重要だと感じます」(歌川さん)

また、映画監督の西原孝至さんは「『改善しなければならない』という声を聞くことはあっても、見合う活動があまりできていない」と指摘。

「これらの問題に気付いていても、『とは言ってもね…』というムードがあるように思います。今映画作りの中心となっている男性たちは、席を渡すことで自分が損してしまうのではないかと考えているのではないかと。

システムを作らなければ、ある程度はジェンダーギャップが解消されたとしても、一定のレベルで止まってしまうのではないでしょうか。女性のスタッフが増えても、労働環境が改善されないと、何年か働いてやめていくという状況が起こるのではないか。それは健全ではないと思います」(西原さん)

JFPでは、「ジェンダーギャップと労働環境と若手人材不足は、密接に繋がりあっている」とし、今後は他の団体とも連携していく考えだ。 

製作現場だけではなく、批評家や映画祭・映画館等のプログラマーなど、映画をめぐる様々な分野でのジェンダーギャップ等の調査も行っていくという。