RETHINK
2021年10月04日 12時14分 JST

双子ベビーカーに優しい社会は、きっとみんなに優しい。都営バスの変化に双子育児中の私が思うこと

2021年、都営バスで2人乗りベビーカーが折りたたまず乗車できるようになった。双子の娘を育てている私からすれば、本当にありがたい。「みんなに優しい社会」を考えるきっかけにもなってほしい。

kumacore via Getty Images
横型の2人乗りベビーカーのイメージ写真

都営バスの全路線で2021年6月、2人乗りベビーカーが原則として折りたたまず乗車できるようになった。

双子の娘を育てている私からすれば、本当にありがたい。でもうれしい半面、乗り合わせた他の利用者に不便をかけるかもしれないという複雑な気持ちもある。それでも温かい目で見守ってほしい理由を伝えたい。

2人乗りベビーカーはたためない

街で2人乗りのベビーカーを見かけたことはあるだろうか。
子どもが並んで座る横型と、前後に座る縦型がある。年子など年齢の近い子どもに使う人も多い。

2014年から朝日新聞ヨーロッパ総局員としてイギリスに赴任し、2018年にロンドンで双子の娘を生んだ私は横型のものを愛用してきた。

幅65センチ、奥行き114センチ、高さ76センチ。大きさはだいたい大人用の車いすくらいだろうか。重さは15キロ近くあるが、これがないとどこへも行けないくらい、新生児期からシートを付け替えながら重宝してきた。

Shiho Watanabe
ロンドンの路線バスは車いす用のスペースにベビーカーをたたまず乗れる

つかまり立ちができるようになった娘たちと帰国したのは2019年春。

まもなく、手続きや乳児健診のために駅から少し離れた役所にワンオペで連れて行く必要が生じた。

自宅からの距離は2キロほどで路線バスが通っている。だがSNSには、日本の路線バス車内でベビーカーは「たたむのがマナー」「場所をとって迷惑」などと書かれていて不安が募った。

2人乗りベビーカーは、たためないからだ。

正確には、メーカーのサイトには「ワンタッチでたためる」と書いてあったりする。でも「よいしょ」とたたむ間、まだ歩けない双子を座らせておく安全な場所がない。ベビーカーに積んでいるおむつや着替えなど荷物の置き場所がない。双子を両膝に乗せて座席に着いたとして、荷物やベビーカーまで持つことができないのだ。

このときは、意を決してバス停まで行ってみたら、近所を走る民間の路線バスは、何事もなく2人乗りベビーカーをそのまま乗せてくれた。

混雑時ではなかった。でも「すみません」と繰り返しながら小さくなって乗り降りするとき、疑問が膨らんだ。双子を連れてバスに乗ることがなぜこんなに大変なのだろう。 

Shiho Watanabe
都営バスと、都交通局の各営業所支所に配備された研修用の2人乗りベビーカー

なぜ1人乗りはOKで、2人乗りはNG?

電車やバスに1人乗りベビーカーを原則たたまずに乗れるように国交省が共通ルールを改訂したのは2014年3月。国に先駆けて横浜市は2004年1月から市営バスで、東京都も2006年2月から都営バスで導入した。

1人乗りベビーカーがたたまず乗れるようになってからも、2人乗りベビーカーが長らく「たたむ原則」だったのはなぜだろう。
東京都交通局や、一足早く2020年11月から市営バスで2人乗りベビーカーの新ルールを採用した横浜市交通局によると、主な理由は二つ。大きくて車内で場所を取るから、そして、急ブレーキ時など走行中の安全確保の問題だ。

さらには、乗客はバス停で並んだ順番に前方のドアから乗車するのが原則なので、本来は降車口の後方ドアから乗り込む2人乗りベビーカーは「横入りしてずるい」という意見も一部であったそうだ。

それでも、子育て環境の改善や多胎児を育てる家族の利便性向上を検討してきた国交省が2020年3月に「2人乗りベビーカーも折りたたまずに使用できるよう取り扱うことを基本とする」という方針をとりまとめた。

これを受けて、東京都は実証実験で安全性などを確認。2021年6月から全131路線でたたまず乗れるようにルールを改定した。

フローレンス提供
小池百合子都知事に2人乗りベビーカー乗車の陳情をした市倉加寿代さん(左から5人目)たち

「象徴的で大きな一歩」

この動きを「象徴的で大きな一歩」と評価したのは市倉加寿代さん(37)だ。病児保育など子育て支援に取り組む認定NPO法人フローレンスに勤める傍ら、「多胎育児のサポートを考える会」を作り、ルール改定を求めてロビーイングしてきた立役者の一人だ。

「2人乗りベビーカーはこども2人を安全に運ぶのにマストの乗り物。今まで排除され、乗る側が苦労しなければいけなかったところ、東京都がみんなで思いやり、配慮しあおうよとメッセージを出してくれた」と話す。

 市倉さんは2019年に都内で双子や三つ子を育てる保護者に大規模アンケートをして「多胎育児の困りごと」を調べた。その結果、実に9割の人が「外出・移動の困難」と答えた。

電車とタクシーに比べて、バスはそもそも乗れるとすら思っていない回答が多かったという。

「赤ちゃん2人を同時にだっこすらできないのに、さらにベビーカーをたたむのは難しいとかじゃなくて、無理。『たためば乗れます』というのは乗車拒否と同じだった」と市倉さん。

さらに「タクシーとか別の方法があるだろうと言われるけれど、だからといってバスを排除することにはまったくならない。選択肢が増えるのはいいことだから」と話す。

よれよれになって2人の乳児と向き合っていた時はうまく整理できなかったモヤモヤを、市倉さんがスバリと言葉にしてくれた。

そうなのだ。

日本で双子を育てていてつらいのは、普通に生活しようとしているだけで、周囲の迷惑になっているのではないかと息苦しさを感じる点だ。

乳児期は、ただでさえ世話に追われて家から出られず気持ちがふさぐのに、外出したらしたで、バリアフリーではないお店に入れなかったり、同時に泣かれて周囲の目線にいたたまれない気持ちになったりする。普段から心が削られている中で、さらに公共交通機関にまで乗れないとなると、世界を敵に回した気持ちにすらなり、本当にこたえる。

行きたいところへバスも使って自由に行きたいと願うことは悪いことではないはずなのに、罪悪感にさいなまれていたところ、市倉さんの言葉に「小さくならずに堂々としていていい」と勇気づけられる思いがした。

多胎家庭支援の一環で訪問型育児サポートサービスも行っている市倉さんへのインタビューは後半、悩み相談のようになってしまった。 

Shiho Watanabe
2人乗りベビーカーは後ろ向きに止め、2カ所をベルトで固定するのがルール

■都営バスに試乗させてもらった  

都営バスが始めた2人乗りベビーカーの乗車ルールとはどんなものか。

都交通局渋谷自動車営業所の新宿支所で体験させてもらった。

【ルール解説】

  1. 乗務員に合図して、後部ドアから前向きで乗る。
  2. 乗務員に座席をたたんでもらい、そこへ後ろ向きに停車させ、ロックをかける。
  3. ベビーカーの2カ所を手すりについている青色のベルトで固定し、運賃を払う。
  4. 降車は後ろ向きで行う。

前向きに乗り込んだ車内で後ろ向きに止めるためには、通路で180度回転させなければならず、混雑した車内や少し大型のベビーカーでは難しいと感じた。

都営バスには、中央付近が座席のないフリースペースになっている車体も導入されている。その方が座席をたたむ手間が省けると思ったが、高齢者が増えている昨今は、転倒事故を防ぐためにも座席が多くある車体によりニーズがあるというのも理解できる。

 2人乗りベビーカーの側が、混雑時を避けて、時間にゆとりをもって利用することも重要だと感じた。

都交通局では乗務員の研修のために2人乗りベビーカーを営業所ごとに配備したり、他の利用者の理解を促そうと車内で啓発動画を流したりしている。

英国の路線バスは

ロンドンの事情も記しておきたい。

ロンドンは地下鉄のバリアフリー化が日本ほど進んでいない代わりに、路線バスが発達していた。

赤色とダブルデッカー(2階建て)が特徴のロンドンの路線バスは、たいていドア付近に車いす用の大きなフリースペースがあり、先客がいない限り、そこにベビーカーをたたまずに止めておくことができる。おかげで雨の日のスーパーや、少し離れた公園に散歩に行くのに毎日のように乗った。

ロンドン交通局によると「車いすの人が優先」という原則があるものの、通路の幅にゆとりがあり、混雑する時間帯は後続のバスが数分おきに来るせいか、肩身の狭い思いをしたことはない。むしろ、乗り合わせたお年寄りに「私も子どもが双子なの」などとよく話しかけられ、外出するたびに気持ちが軽くなったものだ。

Tolga_TEZCAN via Getty Images
ロンドンのシンボルでもある2階建ての赤い路線バス

■多胎家庭に優しい社会は きっといろんな人に優しい

都営バスのようなルールの改定が今後、全国の路線バスにも広まってほしい。 

前述の市倉さんのもとには、「子どもたちに見せられなかった風景を見せられる」「受けさせたかった治療をバスに乗って受けに行ける」などと歓迎の声が寄せられているという。

これまでバスに乗れるかどうかは乗務員の「気概」頼みだったところ、公式ルールが「ベビーカーは原則たたまなくていいんですよ」と変わるだけで、他の利用者の視線がぐっとやわらぐ作用があると思う。

その先に期待するのは、社会全体でベビーカーや車いす利用者への理解が広がることだ。

日本で双子や三つ子が生まれる確率は、およそ100人に1人

多胎育児をする人はマイノリティーだ。大多数の利用者からすれば、マイノリティーの要望は「わがまま」と聞こえるかもしれない。でも、多数派側と思っている人も、ある日、足をけがして車いす生活になるかもしれないし、車いすの家族を介護する日がくるかもしれない。子や孫に双子が生まれることだってあるだろう。そういうとき、自分がどんな社会に住みたいか、想像してほしいのだ。

Shiho Watanabe
ロンドンではバスに乗ってケンジントン宮殿にもお出かけした

わが家の双子は3歳をすぎて、長時間歩けるようになり、あれほど毎日お世話になったベビーカーの出番はなくなった。

双子の成長に伴って日常で感じる「不便」はどんどん減っていくのだろう。でも保育園に入るために奔走した「保活」問題などと同様に、自分に関係のある時期を過ぎて「のどもと過ぎれば忘れた」と無関心になっては、きっと問題の解決は先送りされてしまう。

社会には多胎家庭だけでなく、障がいがある人や、高齢者などさまざまな不自由を抱えている人が共に生きている。双子のいる家庭がストレスなく自由に出かけられる社会は、きっと多くの人にとっても優しく生きやすい社会だと信じている。