「双極性障害」とはどんな病気? 原因は? リトグリ芹奈さんをはじめ20代著名人の公表続く

「Little Glee Monster」の芹奈さんをはじめ、若者に人気の著名人が相次いで「双極性障害」であることを公表。一体、どんな病気なのか? 日本における双極性障害研究の第一人者である順天堂大学医学部、加藤忠史主任教授に話を聞きました。
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2021年に入ってから、ボーカルグループ「Little Glee Monster」の芹奈さん、59万6000人の登録者数(2021年10月現在)を誇るYoutuber、五彩緋夏(ごさい・ひな)さんなど、若者を中心に人気を集める著名人が相次いで「双極性障害」であることを公表しています。   

「躁」と「うつ」の状態が繰り返されることから、もともとは「躁うつ病」と呼ばれていた双極性障害。日本では100人に約6人が生涯のうちに経験するとされるうつ病と同じ「気分障害」に分類される病気です。近年、うつ病がどのような病気であるかは広く知られるようになりましたが、双極性障害についてはまだまだ理解が進んでおらず、誤った認識を持っている人も少なくありません。

「原因は?」「発症後も仕事を続けることができる? 」「家族やパートナーはどう対処すればいい?」…

日本における双極性障害研究の第一人者であり、順天堂大学医学部精神医学講座で主任教授を務める加藤忠史さんに聞きました。

原因や発症傾向はとくになく、遺伝病ではない

━━最近では、20代前後の若い世代が双極性障害を公表するケースが目立ちます。原因や、どのような人が発症しやすいといった傾向はあるのでしょうか。

双極性障害はこれといった原因があって発症する病気ではありません。初発のときはなんらかのストレスが引き金となっていることもありますが、その後は特にきっかけがなくても症状が現れます。

発症年齢の平均は20代前半ですが、老若男女問わずどんな人も発症し得るので、年代もあまり関係ないですね。

また、親や兄妹に双極性障害の方がいると発症リスクが高まるとされていますが、双極性障害の親を持っている子どもであっても、9割前後の人は発症しないことがわかっています。遺伝病の場合は、通常、半分の確率で遺伝しますので、遺伝病ではありません。 

━━はっきりした原因がなく、どのような人も発症し得るとなると、どのくらいの割合で発症するのかが気になります。

日本における双極性障害の生涯有病率(一生のうちに一度は病気にかかる人の割合)は、近年の調査では0.6%とされています。また、双極性障害は依存症や不安症、パーソナリティ障害といった別の病気や、ADHDなどの発達障害と併発することもあります。

 双極性障害とADHDの診断を受け、治療を続けている「Little Glee Monster」の芹奈さん。公表後初めてのInstagramの投稿には「今もまだ普通の生活は全然できてない それでもいい、生きてるだけで十分ダヨ」のメッセージが添えられた 

躁状態の自覚難しく「うつ病」と診断されることも

━━双極性障害は、うつ病などと比較するとまだあまり知られていない病気なのではと思います。主な症状にはどのようなものがあるのでしょうか。

「うつ状態」と「躁状態」、またはより軽度のハイな状態である「軽躁状態」が現れます。うつ状態ではうつ病のように気分がふさぎ込みますが、躁状態や軽躁状態では気分が高揚して人が変わったように活動的になり、攻撃的になったり、お金を使いすぎたりして、本人の社会生活に大きな影響を及ぼします。

双極性障害の特徴は、最低7日間の躁状態があるか、最低4日間の軽躁状態と最低2週間のうつ状態があることです。一日の中で何度も気分が入れ替わる場合は、別の原因を疑った方がいいでしょう。

双極性障害は診断が難しい病気と言われています。これは、躁状態や軽躁状態を「爽快だ」「初めて本当の自分になれた」と感じ、自分自身が病気だと自覚できない方が多いためです。

自ら病院を受診する場合はうつ状態であることが多いのですが、自身はかつて躁状態であったことを自覚できていないことが多く、症状はうつ病と区別がつかないので、うつ病と誤診されることが多いですね。正しく診断するには、家族など身近な人から本人の様子を聞き取ることも大切です。

━━本人が躁状態のことを語らないために、うつ病と診断されがちなんですね。では「躁状態」と「軽躁状態」には、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。

躁状態とは、突然人が変わったようになり、「選挙に出る」「会社をつくる」などと、それまでのその人からは考えられないようなことを言い出すような激しい気分の高揚が続く状態を指します。

人によっては幻覚や妄想を伴い、社会生活に大きな支障をきたすため、入院が必要になることもある状態ですね。軽躁状態は躁状態と比較すると軽いものの、気分が高揚し、やはり人が変わったように活動的になります。

双極性障害の中でも、激しい躁状態がある場合は「双極Ⅰ型障害」、軽躁状態とうつ状態がある場合は「双極Ⅱ型障害」として区別されています。Ⅱ型はⅠ型と比較するとハイな状態は軽いものの、病態がコントロールしやすいとは限りません。Ⅰ型であれば薬物療法が比較的よく効きますが、Ⅱ型は薬のみで安定させるのが容易ではない場合もあります。そのため必ずしも「Ⅱ型はⅠ型よりも軽い病気」とは言えません。 

自分や家族が双極性になったら、どうすればいいか

━━双極性障害の主な治療法は、どのようなものなのでしょう。

薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせて治療します。

双極性障害は、その人に合った薬を飲めば多くの場合症状を抑えられる病気ですが、何十年にもわたって服薬するのを負担に思う方もいます。そのため、ご本人への心理社会的な治療を通して「治療しよう」という心構えをつくり、気分の波をうまくコントロールすることの重要性を理解してもらう必要があるんです。

症状を抑えるには、本人が病気を受け入れることがとても大切です。「薬を飲み続けなければならないなら、完治したとは言えない」という人もいますが、薬を飲むことで再発せず、問題なく社会生活を送れているのであれば、治ったも同然と言えるのではないでしょうか。

高血圧だって「薬を飲んでいるうちはダメだ」と捉えるなら不治の病ですが、高血圧が不治の病だと悩む人ってあまりいませんよね。双極性障害も同じように考えていいと思います。

双極性障害は、本人の人生に “社会的な後遺症”を残す病気です。躁状態が収まっても、一度やってしまったこと、例えばお金を何百万円も使った、周りの人に暴言を吐いて絶縁した、衝動的に会社を辞めたことなどが元に戻るわけではありません。

躁状態を放置すると、人生がどんどん苦しくなってしまいます。また、反動でその後のうつも大きくなるため、本人も非常に苦しい思いをします。

治療をする・しないは最終的には本人の自由ですが、例えば家族や好きな人がいる、やりたいことがあるなど守るべきものがある状態であれば、波を放置してそれらすべてを失うよりも、適切な治療を受けてコントロールした方がいいですよね。

━━家族などの身近な人が双極性障害になった場合は、どのようにサポートすればいいでしょうか。

まずは医療機関を受診してもらい、治療に繋げることが何より大切ですね。双極性障害と診断されたら、そこから長期的な予防療法を受けることになります。

双極性障害の治療においては、本人が「自分は病気であり、治療が必要だ」という自覚を持って、主体的に症状をコントロールしようとする姿勢が欠かせません。そのうえで、本人と家族と医師が一緒に治療を進めていくんです。

躁状態の兆候を初期段階でキャッチすることなどは、身近な人ができるサポートの代表的なものですね。本人がフラットな状態の時に話し合い、躁状態になったらどんな兆候が出るかをリストアップしておくといいでしょう。

例えば「本をまとめて10冊以上買う」「一人称が『僕』から『俺』に変わる」など。「こうしたサインが現れたら病院に行こう」と、あらかじめ約束しておけば、急な症状の悪化にも対応できるのではないでしょうか。

━━お話を聞いていると「双極性障害を発症すると、それ以前のような生活を送るのは難しいのでは」と感じてしまいます。治療を受けさえすれば、通常の社会生活を送ることはできるのでしょうか。

適切な治療で症状をコントロールできてさえいれば、人生において何かを諦めなくてはならないということはほとんどありません。就職、進学、結婚、妊娠・出産など、基本的には問題なくできます。ただし、シフト勤務や徹夜が必要な仕事は再発のリスクが高まるので、できれば避けたいところですね。

双極性障害のメジャーな治療薬である炭酸リチウムは妊娠中には服用できない薬ですが、その他の抗精神病薬に切り替えて乗り切っている人は大勢います。ですので、双極性障害だからといって妊娠・出産を諦める必要もありません。

完璧を目指さず「8割できればいい」と思う癖をつける

━━コロナ禍やSNSの台頭によって、私たちは日常的に過度のストレスにさらされています。こうしたことも、双極性障害の悪化のきっかけになることはあるのでしょうか。

確かに、コロナ禍で人間関係が希薄になったり、在宅勤務で家庭に仕事を持ち込んだりすることでストレスは増えがちです。また、コロナ禍ではあまり聞きませんが、大震災などの災害をきっかけとして躁状態になってしまう人も少なくありません。そういった意味では、社会の大きな変化が症状の悪化につながることはあり得ます。

SNSについては、人によっては「うつ状態で外に出られないけれど、なんとかSNSは使える」といったように、SNSが生命線になることもあります。

ただし、躁状態の時の投稿がインターネット上に残ってトラブルになったり、炎上を目にしたりすることでストレスを抱える人もいます。双極性障害の方にはインターネット依存に陥る人も少なくないので注意は必要ですが、SNSがすべて悪いと決めつけず、うまく付き合うことが大切ですね。

不安なことの多いコロナ禍においても、日中は活動し、夜は眠るという生活リズムを確立すること。「0か100か」というすべてか無か思考や、「100パーセントこうでなければならない」という「べき」思考に囚われていると、それだけで生きづらくなります。完璧を目指さず「8割できればいい」と思う癖をつけると楽になれるのではないでしょうか。

双極性障害は世間にまだまだ知られていない病気ですが、こうした病気があること、対処法が存在することを知るだけで、本人も家族もずいぶん楽になると思います。「自分や家族が今どのような状態にあるのかわからない」という状況が一番苦しいので。

これからも、一人でも多くの人に双極性障害という病気があることを知っていただきたいですね。

順天堂大学医学部精神医学講座の加藤忠史主任教授
順天堂大学医学部精神医学講座の加藤忠史主任教授

加藤忠史(かとう・ただふみ)

順天堂大学医学部精神医学講座主任教授。東京大学医学部卒業。専門分野は精神医学、神経科学。診療・教育・研究に従事している。また、『双極性障害 第二版』(ちくま新書)、『これだけは知っておきたい双極性障害』(翔泳社)、『名医はどこにいる?』(日本評論社)など、著書・監修書も多数。 

 (取材・文:小晴 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)