「自己責任論」は日本特有の問題なのか? ハーバード大・サンデル教授と話し合った

「これまでどこか日本特有の問題だと思っていた自己責任論が、能力主義の観点から整理された」。対談相手として登場した小説家の平野啓一郎さんは語った。
マイケル・サンデル教授
マイケル・サンデル教授
ハフポスト日本版

『ハーバード白熱教室』や日本でも100万部を突破した著書『これからの「正義」の話をしよう』などで知られるハーバード大学のマイケル・サンデル教授が10月13日、ハフポスト日本版主催の対談番組に登場。

小説家の平野啓一郎さんと、社会にはびこる自己責任論とその解決策について話し合った。(収録は9月27日に実施)

キーワードとなったのは、サンデル教授の最新刊『実力も運のうち 能力主義は正義か?』(早川書房)の主題にもなっている「能力主義(メリトクラシー)」だ。

個人の能力や成果がものをいう実力本位の「能力主義」。これが行き過ぎてしまっていることが、分断の拡大につながっているとサンデル教授はいう。

「本来、チャンスが平等ならば、能力や成果次第で未来を切り拓いていけるという能力主義の原則は崇高であるはず」と前置きした上で、「能力主義には自己責任論に直接的に結びついてしまうという残酷な一面がある」と繰り返し警鐘を鳴らした。

能力主義が自己責任論に結びつくメカニズム

サンデル教授は、能力主義は「勝ち組」と呼ばれる人々に「自分の成功は自分の努力で勝ち取ったもの」「だからこの成功によって得た利益を自分は得るに値する存在だ」と思わせてしまう、と指摘する。この考え方が困難を抱える人たちに向けられると「あなたが辛い状況にいるのは、努力が足りないからだ」という眼差しになりえる。

「(能力主義の原理が)不安定な仕事や厳しい経済状況の中で取り残されてしまった人々に適用されると、無慈悲なものになる。なぜならそれは彼らにとって『あなたの失敗はあなたのせい』『あなた自身の責任』ということになるからです」

「その結果、能力主義は勝者に、ある種の傲慢さ、謙虚さの欠如、そして自分の力ですべてを達成したという考えを生み出すともに、取り残された人々の間に屈辱感を生んでしまうのです」(サンデル教授)

こうした状況はアメリカのみならず、ヨーロッパや日本でも共通してみられると言い、成功者が謙虚さを持つことの大事さを訴えた。

直近の著作『本心』や『マチネの終わりに』などをはじめ、自己責任論や格差、労働問題などを投影した作品を生み出してきた対談相手の平野さんは「新自由主義の影響などが世界的にあることは知りながらも、これまでどこか日本特有の問題だと思っていた自己責任論が、能力主義の観点から整理された」と語った。

その上で、サンデル教授が著書で指摘したアメリカ社会の現状とは異なる日本独特の状況や課題を次のように分析した。

「日本はいまだにジェンダーギャップも非常に大きく、世襲議員も多いという現状があります。行き過ぎた能力主義や自己責任論が、”勝ち組”と”負け組”の分断を加速させ、社会的に恵まれない人を深く傷つけている一方で、もっと優秀な人にリーダーになってほしいと能力主義を熱烈に求めているという矛盾した状況があります」(平野さん)

約55分の対談を終えた平野さんは、「日本の皆さん、特に政治家に、サンデルさんの著書を読んで能力主義や自己責任論について考えてほしい」と呼びかけた。

対談で登場した2人の著書
対談で登場した2人の著書
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