エンタメビジネス
2021年11月04日 10時02分 JST | 更新 2021年12月15日 18時45分 JST

競争心を煽っても幸せにはなれない。SKY-HIが見据える、ファンダムと共に作るエンタメの未来

オーディション「THE FIRST」から生まれたBE:FIRSTが大きな盛り上がりになっている一方で直面している問題も。SKY-HIは、次の挑戦はボーイズグループの「売り方」を変えることだと話す。

photo : naoyuki hayashi
アーティスト兼マネジメント&レーベルの会社BMSGの経営者として注目を集めるSKY-HI

今年の夏の話題をさらったオーディション「THE FIRST」と、そこから輩出されたボーイズグループのBE:FIRST。そのBE:FIRSTが11月3日に晴れてメジャーデビューを果たした一方、「THE FIRST」の仕掛人にしてBE:FIRSTのプロデューサー、そして彼らの所属するマネジメント会社「BMSG」の社長でもあるSKY-HIのニューアルバム『八面六臂』が10月27日にリリースされた。

オリジナルアルバムとして実に約3年ぶりとなる今作には、THE ORAL CIGARETTESの山中拓也やちゃんみなといった彼の盟友だけでなく、「THE FIRST」の参加メンバーもフィーチャリングアーティストとして堂々たる姿を見せている。「THE FIRSTはオーディションであると同時に育成プログラムでもある」とはSKY-HIの弁だが、まさにその成果を自身の作品でも証明した形となった。

アーティストとして、そして新たなエンターテインメントビジネスを牽引する存在として文字通り八面六臂の活躍を見せるSKY-HI。一方で、プレデビュー期のBE:FIRSTを通して接した日本のマーケットのあり方に対して、改めて問題意識を感じている部分もあるという。現時点での手応えから次代の音楽シーンのあり方についてまで、多面的な角度から語ってもらった。

 

「既存の芸能のあり方」との距離感に悩みも

「プレデビュー期、『Shining One』の発表を中心としたここまでの流れについては反省する部分が少ないと言ってもいいくらいよくできたなと自分でも思っています。『若いアーティストを育てる』という観点でも、課題の言語化からスキルを伸ばすための方法を考えるところまで彼らと一緒に取り組むことができました。自分自身マネジメントは初めての経験で迷惑をかけたこともあったとは思うのですが、彼らもきっとやってよかったと感じてくれていると思っています」

 

「彼ら」=BE:FIRSTの躍進について、SKY-HIはそう手応えを語る。オーディションの最終審査曲でプレデビュー曲でもある「Shining One」のMVはYouTubeで2000万回再生を突破し、各種チャートでも好成績を残している。また、SNS上に目を向けると「BESTY」と呼ばれるファンダムが着実に存在感を発揮している。まさに死角なしに見える状況だが…

「多くの方々から興味を持っていただけるようになって、また違う難しさにも直面しています。端的に言ってしまうと、『どこまで潔癖であるべきか』という話なんですけど。正直、今も悩んでいます。

BMSGは既存の芸能のあり方に対してリスペクトを持ちながらもオルタナティブな存在でありたいという考え方が根本にあり、『THE FIRST』はそのスタンスのまま独自性を保ってやることができました。一方で、これから広く世間に打って出ていくにあたり『既存の芸能のあり方』の中での仕事が始まっていて、その距離感に悩むことも多いです。

photo : naoyuki hayashi

また、ビジネスである以上仕方のない部分もあるのですが、売上や再生回数を伸ばすなどの『数字を上げる』ための施策があまりにも当たり前に行われている。ファンの射幸心や競争心を煽っても最終的にはあまり幸せになれないのではないかと自分は考えているんですが、ファンの方々がそういった取り組みについてどこまで楽しく許容してくれるのか正確には理解できていない部分も大きいです。

ファンの方々がそれぞれの形で応援してくださるのはありがたいのですが、それによって経済面や精神面で摩耗してしまうようなことがあるとやっぱり不健康だと思うんです。全員が自分の意思でやっていることなのでもちろん否定はできないですが、音楽を聴いたり応援したりして得られる幸せが即時的なものなのか、人生において学びや気づきをくれる持続的なものなのか。後者の方が美しいし、そういうものを提供したいというのが自分の考え方です

これまでの芸能のあり方は長い歴史の積み重ねで、否定するつもりは全くないんです。それに、数字が重要なのは日本に限らず世界のどこだって同じ。ただ、そういうあり方への問題意識は抱えているし、それは考え続けなければならないと思っています」

photo : naoyuki hayashi

BTSとARMYの関係から学んだこと

その問題意識の背景には、BTSをはじめとした韓国アイドルのファンダムのあり方も関係している。

「2020年にBTSがBlack Lives Matterの支援団体に1億円を寄付して、さらにそれを見たARMYが同じく1億円を寄付しました。ああいう『ファンダムとアーティストが相互作用を生みながら社会にその影響力を還元する』形って本当にすごいと思うんですよね。数字にこだわるのであれば、そういう社会に何かしら貢献できる方向性を目指したいです。

自分は今アーティストとマネジメントを同時にやっていますが、パン・シヒョク(BTSが所属するHYBEの創業者)やパク・ジニョン(JYPエンターテインメントの創業者)も元々はプレーヤーで、彼らのような存在が早い段階で育成やマネジメントに関わったことは韓国の芸能の発展に大きく寄与したんじゃないかなと思っています。それ以外にも、韓国の芸能事務所やアイドルのあり方から学べることはたくさんあります

 

「正真正銘嘘なしのポジティブです」

新興マネジメント会社の社長としてシビアな悩みと向き合っている一方で、アーティストとしてのSKY-HIはまた新たなフェーズに突入しつつある。新作のタイトルに冠された八面六臂という言葉の意味は「多方面でめざましい活躍をすること」。前作のタイトル『JAPRISON』が「JAPAN+PRISON(監獄)」という成り立ちだったことを考えると大きくトーンが変わった。

「『八面六臂』って自分で言っちゃうっていうね(笑)。『JAPRISON』の時は本当に閉塞感があって、その中で無理して気持ちをポジティブに転じさせようとしていたと改めて振り返っても思います。今回のアルバムにあるのはそういう作り上げたポジティブじゃなくて、正真正銘嘘なしのポジティブです

photo : naoyuki hayashi

これまでのSKY-HIはアルバム作りにあたって「作品のコンセプト」を大事にしてきた。あらかじめ設計図を作って、そこに沿って適切な楽曲を配置していく。それによってアルバムの世界観をコントロールする手法をとってきたが、そういった作り方についても『八面六臂』においては変化が見られた。

「アルバムのコンセプトを保つためには理詰めで作ることが必要だとずっと思っていたんですが、今回はスケジュールの都合もあって、とりあえずスタジオに入って一緒に音楽を作りたい人たちと音楽を作るというプリミティブなところから始めました。作り始めた時はアルバムとしてまとまるイメージがあまり湧いていなかったんですが、曲数が増えていく中でだんだん日記みたいなものが出来上がっていきました。去年から今にかけては会社を立ち上げてオーディションも主宰してと自分の人生の中でも動きが激しい一年だったのですが、その期間の雰囲気を閉じ込めることのできたアルバムになったと思います。

今回の制作にあたってはとにかく不純物を持ち込みたくなくて、『ラッパーとしてこういう曲が必要』『音楽のトレンドに合わせてこんな曲がほしい』みたいな発想は全部排除しました。その時いいと思うものを作ることを徹底してやり切った結果として、自分の分身のようなアルバムを作ることができて嬉しいです

photo : naoyuki hayashi

THE FIRST」参加者との曲作り

「動きが激しい一年」にはSKY-HIが「THE FIRST」とともに過ごした期間ももちろん含まれるわけだが、今作にはREIKO、RUI、TAIKI、Aile The Shotaといったオーディションを盛り上げた面々も参加している。自分の目で見つけてきた才能たちに早速大舞台を提供し、彼らはそのチャンスに応えたわけだが、このプランはオーディション当時から考えられていたことだったのだろうか。

「そんなことはなくて、締め切り直前に決まった感じです(笑)。一緒に音楽を作りたい人たちと音楽を作るというモードにおいて、自然と彼らの名前が出てきました。もともとみんなの才能のことはよく理解していたので、他に参加してくれている名のあるアーティストたちと並ぶという点でも不安はありませんでした

 

各人がそれぞれの個性を発揮する中、特に印象的な活躍を見せているのがREIKO。アルバムのラストトラック「One More Day」に参加し、サビにおいてインパクトのあるボーカルを聴かせてくれている。彼が歌う<怖くても独りじゃないから>というフレーズで締めくくられるこのアルバムは、<怖くても進め>(アルバム1曲目「To The First」より)という決意とともに動き出したSKY-HIが志を共にする仲間たちを見つけていく物語でもある。

「あの終わり方は狙ったわけではなく本当に偶然なんです。だから自分自身もマスタリングの時に感動して号泣しちゃったんですけど…。今はアーティストとして仲間とともに音楽を作っていくことに対してストレスが全然ないんですよね。『THE FIRST』の中で、参加者に対して『音楽との距離感』について口酸っぱく言っていたおかげか、自分自身も音楽と近い距離を保てるようになりました。今になって音楽に対してここまで純粋な気持ちになれるとは思っていなかったし、『THE FIRST』で技術面での指摘を言語化してきたことで自分自身のスキルもまた上がっている実感があります。アーティストとしては『八面六臂』から改めてキャリアがスタートするくらいの気持ちです

photo : naoyuki hayashi

「オーディションのどの場面を切り取られても自分そのもの」

AAAのメンバーでありながらソロのラッパーとしても活動してきたSKY-HIのキャリアは、「アイドルらしくない」「ラッパーらしくない」といった周囲が勝手に形作る虚像との闘いの歴史でもあった。ただ、『八面六臂』でアルバムの作り方が変わったように、そんな意識の持ち方にも変化がみられる。

『THE FIRST』で自分の素の姿がテレビで放送されたことで、『周りが思うSKY-HI像』みたいなものが本当に気にならなくなりました。あのオーディションのどの場面を切り取られても自分そのものだなと今は思うし…まあ、もしかしたら、社長業で抱えているものが大きすぎてそれどころじゃないというのが正確かもしれないですね(笑)。

ただ、悩みやストレスがあることも必ずしも悪いことだとは捉えていません。アーティストとしてストレスが全くない分、社長業で抱えているものがこの先楽曲づくりにも生きてくるかもしれないし、社長として背負っている責任は覚悟にも繋がるから、ステージでもより強い気持ちでパフォーマンスできる。アーティストと社長を両方やることで、色んな部分に好影響があると感じています

photo : naoyuki hayashi

次の挑戦は、ボーイズグループの「売り方」を変えること

アーティストして、社長として、様々な側面から日本の音楽シーンと対峙しているSKY-HI。『八面六臂』というキャリアの再スタートとでも言うべきアルバムを生み出し、BE:FIRSTがメジャーデビューという重大な局面に差し掛かる中で、彼はどんな未来を見据えているのだろうか。

「自分の音楽に関しては、ビジネスの入る余地が一切なくなってきています。シンプルにいい音楽、作りたい音楽を作ろうという気持ちしかないし、もちろん広く聴いてもらえるに越したことはないんですが、チャート上位を目指すなどのモチベーションは今はそんなにないんです。結果として上位ならめちゃくちゃ嬉しい、という感じ。

特に今はBMSGがあって、BE:FIRSTがいてという状況において自分はリーダーとして先頭に立たないといけないから、常に背筋が伸びるというか、下手なことはできないという感覚が強いですね。

一方で社長としては、BE:FIRSTと一緒に日本の音楽シーンにパラダイムシフトを起こしたいです。チャートのあり方やメディアのあり方、ビジネスのやり方において目指すべきビジョンが見えている部分もあるので、これからも問題提起を続けていくつもりだし、言うだけじゃなく何かしら結果として残したい。ボーイズグループのあり方を変えたいと思って始めた『THE FIRST』が一歩目だとすると、その『売り方』を変えるためのチャレンジが二歩目です。3年以内には形にしたいですね。これは夢ではなくて、現実的な目標です

 

(取材・文=レジー@regista13 編集=若田悠希@yukiwkt 撮影=林直幸)