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2021年12月20日 08時31分 JST | 更新 2021年12月22日 11時02分 JST

【総括】COP26から見えた日本の「宿題」とは? 2022年の気候変動対策を考える

日本にとって「カーボンニュートラル元年」になった2021年。気候変動対策の現在地と2022年に取り組むべき宿題について、専門家に聞いた。

パリ協定の目標を達成するための「決定的な10年」を左右するとして注目された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)。会期は1日延長され、11月13日にグラスゴー気候合意が採択され、閉幕しました。

インドが「2070年までにカーボンニュートラル」を表明、ベトナムやインドネシアなどを含む40カ国が石炭火力発電廃止と新たな石炭火力発電所の建設停止に賛同するなど(日本は不参加)、多くの新しい動きが見られました。

気候危機が人間の活動によるものであり、対策は「待ったなし」だということが、ようやく日本社会にも浸透してきた中でのCOP26。国際社会の中で、日本は一体どこに立っているのか?今後の「宿題」は何なのか?

専門家とCOP26のハイライトを振り返りました。

グラスゴー気候合意の主なハイライトは以下の通り。

・これまで努力目標だったパリ協定の「1.5度目標」が事実上「世界共通の目標」に。そのために現在の各国の削減目標は不十分として、「2022年末までに“強化”して“再提出”」することが明記された

・「排出削減対策を講じていない石炭火力発電の段階的な削減と、化石燃料に対する非効率な補助金の段階的な廃止」が明記された

・炭素排出権の国家間取引に関する大枠のルールが合意された(パリ協定第6条)

・途上国に対する気候変動への資金増額へ向けての議論開始(特に適応に向けて)

事実上、世界の目標は「1.5℃」に

今回のグラスゴー気候合意では、「1.5℃の気候変動の影響は、2℃の場合よりもはるかに低いことを認識し、1.5℃以内に抑える努力を追求することを決意する」と非常に強い表現が盛り込まれました。

2018年に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃特別報告書では、1.5℃と2℃の上昇では、その悪影響に大きな違いがあることが指摘されており、国際NGO「WWFジャパン」の気候エネルギー・海洋⽔産室⻑の⼭岸尚之さんは「世界の目標が事実上1.5℃になったことは画期的だ」といいます。

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COP26の閉会式のスピーチ後、拍手を受けるアロク・シャーマ議長

また、各国に2022年末のCOP27までに、2030年の温室効果ガス削減目標を「見直し」「強化」して再提出を求めることも明記されました。

日本は現在「2030年までに温室効果ガス46%削減、さらに50%の高みを目指す」ことを目標に掲げ、第6次エネルギー基本計画と地球温暖化対策計画を策定していますが、これらにも見直しと強化が求められています。

12月7日に環境NGOらが2030年削減目標引き上げと関連政策の見直しを求める共同声明を出すなど、すでに日本国内からも声が上がっています。山岸さんは、「日本はこのままのエネルギー政策でいくのか、未だ不十分な目標に対する国内政策はどうなるのか、注視したい」と語ります。

「その第一歩として、カーボンプライシング(炭素税や排出権取引)が今後どう扱われるか注目です。今年の税制改正大綱では、早くもその議論は流れてしまい、他方、日本独自のクレジット取引市場を創設することでお茶を濁そうという雰囲気が濃厚です。『本当に削減につながる制度を早期に導入できるか』、注目です」

石炭火力の段階的な削減「非常に異例」

今回のCOP26において最も注目されていたポイントの一つが「石炭火力発電の段階的廃止」です。

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イギリス・グラスゴーで行われた、気候正義のためのデモに集まった活動家たち

 最終的にグラスゴー気候合意には「排出削減対策を講じていない石炭火力発電の段階的な削減と、化石燃料に対する非効率な補助金の段階的な廃止」という文言が盛り込まれました。

最初の議長案では「石炭及び、化石燃料補助金の段階的廃止の加速」という表現でしたが、そこから幾度かの修正を経て、直前で石炭火力発電の「段階的な“廃止“」から「段階的な“削減“」に妥協することで合意に至りました。

この妥協にCOP26の議長を勤めたシャーマ氏が涙を浮かべる場面もありましたが、山岸さんは「まさかこの文言が最後まで残るとは思いませんでした」と驚きを語ります。

「特定の燃料を名指しにして、各国の内政に関わることを言及することは非常に異例です。パリ協定の目標を達成するために石炭火力発電の削減が必要不可欠だと、世界的な共通認識を示したことは大きい」

 

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COP26の閉会式でスピーチをするアロック・シャーマ議長。妥協の末に合意したことについて、声を詰まらせる場面もあった

 石炭火力について、世界から厳しい視線が送られている日本。岸田首相のスピーチで不名誉な化石賞が送られたのも、「日本が石炭火力をアジアで延命していきたいという意図が透けて見えたからだ」と山岸さんは話します。

日本では現在、火力発電所の施設をそのまま使いながら、水素やアンモニアを燃料にすることで温室効果ガス排出をゼロにする「ゼロエミッション火力発電」の研究開発が活発に行われています。

「技術自体を否定するわけではありませんが、石炭火力発電の延命策としてとして使おうとしているのは問題です」と山岸さんは指摘します。 

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演説する岸田文雄首相

 アンモニアを燃焼すると有害な窒素酸化物が出るため、発生を抑える技術の開発や普及が求められるほか、原料となる水素やアンモニアを化石燃料から製造する際の温室効果ガスの排出など、課題も多くあり、注視が必要です。

炭素クレジットに関するルールの採択には日本政府の活躍も

実は、今回のCOP26でパリ協定のルールブックはようやく完成しました。2015年に採択されて以降、議論が紛糾していた「最後のピース」である「市場メカニズム」(パリ協定第6条)の基本的なルールがようやく採択されたのです。

市場メカニズムとは、他国へ環境保全の資金提供や脱炭素技術の支援などをして「削減できた分の温室効果ガス(=炭素クレジット)」を、「自国が削減した分」としてカウントできる仕組みのこと。

パリ協定第6条の議論に参加していた、公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)の高橋健太郎さんは、ハイライトは以下の4つだと言います。

第6条2項(獲得したクレジットを各国の温室効果ガス削減目標(NDC)の目標達成などに活用できる仕組み)
①NDCに炭素クレジットが使えることが決定(相当調整【二重計上防止】をすることが決定)

②途上国の適応策へ“自主的”に貢献する

第6条4項(国連主導のプロジェクトによるクレジット)
③クレジットの「相当調整(二重計上防止)」など、新たなクレジット制度の大枠のルールが決定

④クリーン開発メカニズムのクレジットについて、「2013年以降に登録したプロジェクトで2020年以前の削減量にのみ」という条件のもと、移管できることが決定

これにより、日本と対象国の二国間で進めてきた温室効果ガスの削減プロジェクト(二国間クレジット制度)のクレジットを、相当調整した上でNDCの目標達成に計上できるようになります。

政府や企業の削減目標達成へのオプションの一つになりそうですが、高橋さんが強調するのは、炭素クレジットの「質が大事」という点です。クレジットを獲得するための植林活動などが、森林の生物多様性や先住民の人権などに配慮されたものなのか。「環境十全性やセーフガードに関するルール作りや配慮が重要です」(高橋さん)

④の過去のクレジットは『ゾンビクレジット』と呼ばれ、6条の抜け穴だと批判されています。高橋さんは「条件付きにすることで妥協した結果ですが、二重計上防止などが盛り込まれた大枠のルールが決定したことは大きな成果です」と話します。

「非常に難しい議論の中、ブレイクスルーに向けて積極的に提案したとして、日本政府関係者へ、非公式ではありますが国連気候変動枠組条約事務局から『アーティクルシックスヒーロー』のメダルが送られる場面もありました」

2022年以降の宿題は?「適応」と「生物多様性」

グラスゴー気候合意では、途上国に対する気候変動への適応(気候変動に既に出ている被害、また将来起きることが予測される被害を防止・軽減する)のための資金を増額することが決まりました。

「途上国への支援金として年間1000億ドルが目標でしたが、達成されなかったことに途上国は『深い遺憾の意』を伝えています。これを受け、2025 年以降の新たな資金目標の議論が始まる予定です」

2022年のCOP27はエジプト・シャルムエルシェイクで開催される予定です。気候変動の影響が既に出ているアフリカ大陸での開催ということもあり、これまで以上に気候変動の「適応策」、さらに適応を超えて実際に被害が出てしまった場合の対応を意味する「損失と被害」に注目が集まるだろう、と山岸さんは指摘します。

「損失と被害については、気候変動の被害を『補償』することに繋がります。先進国にとっては踏み込みたくないテーマですが、既に被害が出ている国や地域があるのが現実です。向き合う必要があります」

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COP26開催中のイギリスで、生物多様性を支持し保護するために集まるデモの参加者たち

また、生物多様性にも注目が集まり始めています。グラスゴー気候合意でも生物多様性を守り、かつ自然や生態系を保護・保全・回復させることが、パリ協定の目標達成にとっても重要であることが言及されました。気候危機と「生物多様性の損失」の二重の危機の回避が必要であるとの認識が広がっています。

「グローバルリスク評価で生物多様性が急上昇しているなど、ビジネスへの影響がわかってきたことが大きいと思います。今後は企業活動が生物多様性全体に与える影響を国際的な枠組みで把握することが求められるのではないでしょうか」

【訂正】2021/12/22 11:00
記事内で、COP27の開催地について、「エジプト・カイロ」と表記しておりましたが、正しくは「エジプト・シャルムエルシェイク」でした。