国連女性機関が『月曜日のたわわ』全面広告に抗議。「外の世界からの目を意識して」と日本事務所長

ニューヨークのUN Women(国連女性機関)本部が、今回の全面広告を「容認できない」と抗議する書面を日経新聞に送付していたことが分かった
国連本部ビル
国連本部ビル
DANIEL SLIM via AFP

漫画『月曜日のたわわ』の宣伝のため、性的に描いた女子高生のイラストを日本経済新聞が朝刊の全面広告に掲載した問題で、UN Women(国連女性機関)の本部(米・ニューヨーク)が日経新聞に抗議していたことが4月15日、ハフポスト日本版の取材で分かった。

UN Women は11日付けで日経新聞の経営幹部に対し、今回の全面広告を「容認できない」と抗議する書面を送付。対外的な公式の説明や、広告の掲載の可否を決めるプロセスの見直しなどを求めた。

ハフポスト日本版はUN Women 日本事務所の石川雅恵所長にインタビューし、問題点や改善策などを尋ねた。

ステレオタイプ脱却に向けた「3つのP」守れず

国連女性機関が抗議したのは、日経新聞が4月4日に掲載した全面広告。講談社の「週刊ヤングマガジン」で2020年11月から連載中の漫画『月曜日のたわわ』(比村奇石氏)の単行本最新刊を告知するものだ。

胸を非現実的なほど強調したミニスカート姿の女子高生のキャラが「今週も、素敵な一週間になりますように」と読者に語りかける広告に、ネット上では論争が広がっていた。

4月4日の日本経済新聞朝刊に掲載された全面広告
4月4日の日本経済新聞朝刊に掲載された全面広告
ハフポスト日本版

こうした中でUN Women が抗議に乗り出したのは、理由がある。

日経新聞はUN Women 日本事務所を中心として広告によってジェンダー平等を推進する「アンステレオタイプアライアンス」と呼ばれる取り組みに加盟している。この取り組みでは、次のような理念を掲げている。

アンステレオタイプアライアンスは、UN Women が主導する、メディアと広告によってジェンダー平等を推進し有害なステレオタイプ(固定観念)を撤廃するための世界的な取り組みです。

企業の広告活動がポジティブな変革を起こす力となり、社会から有害なステレオタイプを撤廃することを目的とし、持続可能な開発目標(SDGs)、特にジェンダー平等と女性・女児のエンパワーメント(SDGs 5)の達成を目指します。

「女・男はこうあるべき」などに見られるステレオタイプは、企業や人を縛ったり、型にはめることで、イノベーションや自由な発想を遠ざけます。消費者もステレオタイプを描くブランドや商品からは、離れていきます。また、ステレオタイプは、ジェンダー平等を達成するための大きな障壁にもなっております。

この取り組みの中でも、同社は主導的な立場にある。UN Women 日本事務所と連携し、ジェンダー平等に貢献する広告を表彰する「日経ウーマンエンパワーメント広告賞」を主催するなど、広告のジェンダー平等化の旗振り役を担ってきた。同賞では、広告からステレオタイプを取り除くため、「3つのP」という審査項目を設けている。

Presence 多様な人々が含まれているか

Perspective 男性と女性の視点を平等に取り上げているか

Personality 人格や主体性がある存在として描かれているか

UN Women 日本事務所の石川雅恵所長は、今回の全面広告が、「アンステレオタイプアライアンス」の加盟規約などに反すると指摘する。

「今回の広告は、男性にとっての『女子高生にこうしてほしい』という見方しか反映しておらず、女子高生には『性的な魅力で男性を応援する』という人格しか与えられていません。私たちが重視してきた『3つのP』の原則は守られていないのです」

「明らかに未成年の女性を男性の性的な対象として描いた漫画の広告を掲載することで、女性にこうした役割を押し付けるステレオタイプの助長につながる危険があります」

『月曜日のたわわ』の全面広告は「容認できない」

UN Women 本部は4月11日、日経新聞側に宛てた文書の中で、同社がUN Women とこれまでに交わした覚書などへの違反を指摘し、『月曜日のたわわ』の全面広告を「容認できない」として抗議した。 

同社に求める今後の対応として、社外への公式の説明の必要性を指摘したという。国連女性機関は同社がハフポスト日本版に寄せた「今回の広告を巡って様々なご意見があることは把握しております。個別の広告掲載の判断についてはお答えしておりません」とのコメントについて「失望しており、(同社は)自らの立場について考え直してほしい」と書面に記した。

日経新聞とUN Women 日本事務所などが掲げていた「3つのP」に反する広告を掲載したことも問題視し、同社の新聞広告の掲載基準の見直しを求めた。

抗議文の送付前に同社とのオンライン会議を開いた石川所長は、同社から「社内で色々な人の目を通して検討したが、広告を問題だと認識しなかった」と説明を受けたという。

国連女性機関は日経新聞側からの回答に期限は設けなかったが、なるべく早く対応するよう促したという。4月14日までの時点では、まだ国連女性機関に対して同社からの回答は示されていないそうだ。

「外の世界」に耳を傾けて

UN Women 本部が日経新聞に抗議の文書を提出した後日、ハフポスト日本版はUN Women 日本事務所の石川所長にインタビューした。

石川所長は、同社がUN Women と交わした覚書などに反したことを問題視。あくまでも、こうした規約違反への異議申し立てであり、「国連機関が一般の全ての民間企業の言動を監視し、制限するわけではありません」とした上で、今回の広告掲載をめぐる課題などを紐解いた。

UN Women 日本事務所の石川雅恵所長
UN Women 日本事務所の石川雅恵所長
UN Women 日本事務所

ーー日経新聞が掲載した『月曜日のたわわ』の全面広告の何が問題だったのでしょうか。

学校制服を来た未成年の女性を過度に性的に描いた漫画の広告は「女子高生はこうあるべき」というステレオタイプの強化につながるとともに、あたかも男性が未成年の女性を性的に搾取することを奨励するかのような危険もはらみます。UN Women は、このような広告を掲載することに反対です。同社がUN Women と交わしてきた覚書などにも反しています。

女性や少女に対する固定観念は、ジェンダー平等を阻む大きな要因になっています。広告は社会規範の形成に大きな影響を与えるため、ジェンダー平等化を目指して多様な人の姿を反映しステレオタイプから脱却するべきだとするUN Women を中心とする取り組み(アンステレオタイプアライアンス)があります。同社も加盟していますが、今回の広告は加盟規約に違反しています。

UN Women は、広告でアピールした漫画そのものをつくった出版社や作者の姿勢を問いただしているのではありません。あくまでも、UN Women とともに広告からステレオタイプを取り除く取り組みの旗振り役を担う立場にあったにも関わらず、今回の広告を載せる判断を下した日経新聞の責任を問うています。

今回の広告の是非がとても大きな話題になっているのは、それだけ同社の影響力が大きいことの現れです。メディアの社会的責任を、今一度考えてほしいと思っています。

ーー広告を掲載した日経新聞には、どのような対応を求めますか。

まずは私たちを含む社外の人々に対して、公式の説明をしてもらいたいです。同社がハフポスト日本版に寄せたコメントには失望しました。同社からの対外的な説明を抜きにして、今後も広告の力によってジェンダー平等化を推進する取り組みを同社とともに展開することには納得できません。

今回の広告では、ステレオタイプのない広告を制作する上で大切な「3つのP」の原則は守られませんでした。同社では「3つのP」を改めて広告の評価基準に据え、掲載までのプロセスを見直すように求めたいです。

同社は私たちに「社内で色々な人の意見を聞いた上で、この広告を問題だと認識しなかった」と説明しました。同社に限らず、一組織で同じカラーに染まっていれば、男女問わず反対意見を出すのは難しいでしょう。利害関係のない外部の第三者を、広告の掲載をめぐる意思決定の場に含むようにしてもらいたいです。

ーー海外では広告に問題があった場合、どのように対処していますか。

ジェンダーにかかわる広告ではありませんが、参考になる例があります。2020年に世界的な生活用品メーカーが南アフリカで出したシャンプーの広告で、黒人の髪の毛の特性を貶める表現が用いられて「人種差別だ」と批判が殺到しました。この後、企業側はすぐに公式の謝罪声明を発表し、社外の有識者も含む委員会を新設するなどの対応をとりました。この例については、日経新聞にも参考として伝えてあります。

今回は日本の一企業で起きた問題ですが、間違いは誰にでも起こりうるものです。大切なことは、身の回りの「当たり前」に疑問を持ち、諦めないで声を上げていくこと。そして、(間違えた側は)「外の世界の人たちの声」に耳を傾けること。日経新聞に対しても「方向性を間違えたと認識するのであれば、軌道修正に向けて一緒に頑張ろう」というメッセージを送りました。

ーー日経新聞の全面広告をめぐって日本で巻き起こった論争を、どのように捉えていますか。

ネット上では色々な意見が表明されましたが、私は「日本社会が変わろうとする兆しが見える」と感じました。女性だけでなく男性の中にも、今回の広告に対して批判や疑問を呈す人がいたためです。彼らは広告を見て、身近な女性とともに声を上げたのです。男性が女性とともに立ち上がる社会は、UN Women の目指す社会の姿であり、前向きに捉えています。

日本では、生活空間に今回のような広告が存在することを「当たり前」と捉えている人もいるでしょう。「外の世界からの目」を意識することが、その「当たり前」に気づくきっかけになります。

国際スタンダードは、性別を始めとする様々なステレオタイプを助長する広告を改善する方向に向いています。性的な対象として未成年の女性のステレオタイプを固定化するような広告はもってのほか。日本国内の議論に閉じるのではなく、海外でどう見られているかに気づくきっかけになるのであれば、今回の広告についての議論は絶望するべきものではないと思います。

UN Women 日本事務所 石川雅恵所長

関西学院大学社会学部を卒業後、オレゴン大学国際学部学士、神戸大学大学院国際協力研究科法学修士取得。日本政府国連代表部専門調査員、UNFPA(国連人口基金)資金調達官、国連事務局人間の安全保障ユニット資金調達官などを経て2017年10月より現職。

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