10億円超のヒット作で女性監督は0人。映画界のジェンダーギャップ、改善見られず。企業にも変化求める

興行収入を問わない全作品数においても、女性監督の割合はわずか12%。調査団体は「積極的に手を加えなければ、映画界のジェンダー格差が改善されることはない」と指摘する。
2019〜2021年の劇場公開作品における、監督のジェンダー比率
2019〜2021年の劇場公開作品における、監督のジェンダー比率
一般社団法人 Japanese Film Project

2021年に公開され、興行収入10億円を超えた日本の実写映画において、女性監督の割合は0%。つまり、1人もいなかった。

興行収入を問わない全作品数においても、女性監督の割合はわずか12%だ。過去3年間を見ても、2019年は9%、2020年は11%と横ばいで推移しており、ジェンダーギャップの改善の傾向はみられない。

この映画界のジェンダーギャップに関する調査を行ったのは、一般社団法人「Japanese Film Project」(JFP)。7月5日に開いた記者会見に参加したメンバーは、「積極的に手を加えなければ、映画界のジェンダー格差が改善されることはないという懸念」が調査から読み取れると指摘。「海外ではインクルージョンに対する取り組みが不十分だと企業として弱体化していく」とした上で、映画作りの根幹を成す企業に対しても改革を求めた。

女性監督が任されるチャンスが極めて少ない

JFPは、日本映画業界の ジェンダーギャップ・労働環境・若手人材不足を検証し、課題解決するために調査および提言を行っている。会見には、代表理事の歌川達人さんと、理事の近藤香南子さんが登壇した。

2021年に公開され、興行収入10億円を超えた日本の実写映画は全16作品。監督はすべてが男性だった。この調査結果について、田中東子教授(東京大学大学院情報学環)は「予算の大きい、メインストリームの配給会社と提携していると考えられる映画の製作を、女性監督が任されるというチャンス自体が極めて少ない、ということだろう」と分析する。

さらに、JFPでは、業界を牽引する日本映画製作者連盟(映連)に加盟する、大手映画製作配給会社=東宝、東映、松竹、KADOKAWAの4社の作品においても、ジェンダーギャップの調査を行った。

4社の2022年の作品ラインナップ42作品において、女性監督はたったの4名。2019年からの4年間においては、女性監督は20人に1人の割合しかいない。

東宝、東映、松竹、KADOKAWAの4年間の作品ラインナップ、女性監督は20人に1人の割合しかいない
東宝、東映、松竹、KADOKAWAの4年間の作品ラインナップ、女性監督は20人に1人の割合しかいない
一般社団法人 Japanese Film Project

さらに、同4社の役員および執行役員の女性比率は、▽東宝は19人のうち女性1人(社外取締役)、▽東映は29人のうち女性1人(監査役)、▽松竹は37人のうち女性4人(うち社外取締役2人)、▽KADOKAWAは17人のうち0人であり、4社全体では6%であることがわかった。この4社から組織される映連の役員は11名全員が男性だ。

歌川さんは、「(映画界のジェンダーギャップをめぐる)問題意識は社会に浸透しているが、変化がみられない」と指摘。「作品ラインナップは会社の方針、意向によって変えられるものだが、この数字からは向き合っている様子が見られない」との見解を示した。

 

協会があっても、女性や若手の入会は少ない

制作現場で働く、監督以外のポジションではどうだろうか。

JFPの調査では、撮影、照明、編集などの各部門においても、過去3年間で女性比率にほぼ変化がないことがわかった。

さらに、もともと比較的女性が多い美術・装飾・衣装・メイクの部門のスタッフは、映画年鑑などの統計資料にクレジットされることが少なく、仕事の履歴が残らないケースがあるという実態も明らかになった。これらの部門で働く人は、賃金の面でも低い価格帯で仕事を請け負わざるを得ないという問題もある。映画制作を支える大事なポジションにもかかわらず、「これらの部門に対するリスペクトが欠けているのでは」と歌川さんは懸念を示す。

映職連に加入する女性スタッフ率は、全体で14.58%。若手に多い助手の受け皿となる団体も少ない
映職連に加入する女性スタッフ率は、全体で14.58%。若手に多い助手の受け皿となる団体も少ない
一般社団法人 Japanese Film Project

映画業界では、監督、撮影監督、照明、編集など各パートごとに集まり、協同組合を結成しており、その連合体が日本映像職能連合(映職連)だ。各協会は労働組合ではなく、会費制で運営され、参加は任意。

全協会の女性比率は14.58%で、若手に多い助手が入会している団体も少ない。さらに、制作現場の要となる助監督や制作部は、監督協会・プロデューサー協会に下部組織がないため、頼りにできる団体もなく、衣装やメイク部門をサポートする団体もない。

この実態から、近藤さんは「女性や若手を中心に、一部の人の声が掬いあげられないシステムになっている」と指摘する。

「ヒットしても現場スタッフには還元されない」新たな制度の必要性

こういった労働環境やジェンダーギャップ、あるいはハラスメントや性加害などの映画界の課題解決は、制作現場における低予算の問題ともつながっているとJFPは考える。映画制作の実態を把握するため現場スタッフに対して行ったアンケートでは、適切な就労時間や休日、休憩をとるためには、「制作現場の予算が増えなければ、難しい」という声も多く聞かれたという。

近藤さんは「作品がヒットしても現場スタッフには還元されない」と実態を明かす。現場スタッフの賃金は制作時に決まり、その後劇場公開等に伴う興行収入によって加算されることはないという。

日本には、観客が映画を見るために支払ったチケット代が、制作者に還元される仕組みはないため、今後はそういったシステムの模索が必要だと思います。

大手映画会社含め、興行収入がどのように分配されているかはブラックボックスになっており、そこに問題点が潜んでいるのではないでしょうか

6月には、是枝裕和さんや西川美和さんなどの映画監督7人が、映画業界の共助制度の構築や、スタッフの重労働問題や低賃金、ハラスメントなどの問題の解決を目指し、「action4cinema」を立ち上げた。同団体では、フランスの映画産業を潤沢な資金力で支える「CNC」(国立映画映像センター)の日本版の設立を目指している。

CNCは映画制作の資金援助を行っており、映画館で観客が支払うチケット料金のうち10.72%はCNCの財源になるなど、業界内で利潤が循環する仕組みが成立している。JFPも統括機関として日本版CNCの設立に賛同し、歌川さんは「今回の調査によって課題が可視化された。その先の課題解決は、日本版CNCの設立を目指す活動とも結びついている」と話した。

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