「働くな、だけど福祉の対象外」という無理ゲー「生きられない」外国人の生存権を求めて

就労ができないのに、福祉の対象にもならない仮放免の人々。その上、健康保険にも加入できないので医療費は全額自己負担。これだけで無理ゲーで、「生きられない」条件が揃っているのに、そこをコロナ禍が襲ったのだ。
東京入国管理局を訪れる外国人
東京入国管理局を訪れる外国人
時事通信社

「日本で生まれて、日本で育って小学校へ入学し、多くの方々からのご支援をいただき、大学まで進学しています。他の日本人の子どもとなんら違いはないのです。入管はそれでも『国へ帰れ』と言います」

「私は就職活動がうまくいかなかった場合、大学を卒業してしまえば、いつ入管に強制送還されるか、いよいよわかりません。私は、ただみんなと同じように日本で働いて生活したいのです」

この言葉は、日本に住む20歳の女性、みゆきさん(仮名)のものである。ある集会で彼女が読み上げた音声が紹介されたのだ。

なぜ、彼女はこのような苦境を強いられているのか。それは彼女が「仮放免」だから。

仮放免とは、入管施設への収容が解かれた状態を指すのだが、彼女は外国からやってきたわけではなく、生まれたのは日本。しかし、親が非正規の形で入国したため、家族全員母国に戻るように言われているという。約10年間、家族全員の在留資格を求めて闘っているそうだ。ちなみに仮放免の状態だと、働くことは禁じられている。しかし、日本の福祉の対象外。また、県外に行くにもいちいち許可を取らなければならないなど、生活上に著しい制限がある。

みゆきさんは現在、大学3年生。就活準備の年だというのに、「ビザがないのでこのままでは就職できません」。就活自体はできるが、「ビザがないことで大きな壁にぶつかります」。就活支援センターの職員も、前例がないためいつも頭を悩ませている。就労を禁じられているので、バイト経験は皆無。

そんなみゆきさんに対して、入管の職員はこれまで「この夏休み中に強制送還するので荷物をまとめろ」「母親だけ国へ帰れば、子どもにはビザを出す」などと脅してきたという。そうして彼女は就活がうまくいかなければ、「強制送還」される恐れさえあるというのだ。日本で生まれ育ったというのに。

さて、この日開催されたのは、「在留資格のない外国人の生存権を求める院内集会と省庁交渉 生きられない! ―在留資格のない外国人の声と支援現場からの提言―」。11月2日、衆議院第2議員会館で開催された。

主催は「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)と「北関東医療相談会」「反貧困ネットワーク」の3団体。いずれもこのコロナ禍で外国人支援に奔走してきた団体だ。

なぜ今、在留資格のない外国人の問題についてこのような集会が開催されるのか。それは、コロナ禍で困窮を極める外国人が激増しているからだ。

仮放免の人が働けないことは先に書いたが、そんな仮放免の人は全国で約6000人。その中には、コロナ以前は在留資格があって働ける同国の人たちに支援してもらっていた人も多くいる。が、コロナ禍は、働ける人たちの仕事も奪った。

「今まで友人たちの助けで生活ができましたが、コロナの影響で仕事がなくなった友人が多くて困りました」(40代男性)

「仕事できない。母国からも経済悪くなってお金送ることもできません。だからこの2年コロナのせいで生活がもっと苦しくなった」(50代男性)

これらは、北関東医療相談会に寄せられた外国人の声である。

さて、ここで外国人や困窮者の支援を続ける「北関東医療相談会」が、仮放免の人々の生活実態を調査した結果を紹介しよう。

調査は2021年10月〜12月、全国の仮放免者450件に質問票を送付し、27カ国141世帯から回答を得たものである。

報告によると、回答者の70%が年収0円、66%が借金あり、コロナの影響による生活苦が85%など厳しい数字が並ぶ。生活状況については、「苦しい」が46%、「とても苦しい」が43%で9割が生活苦を訴える。1日の食事回数をみると、1回が16%、2回が60%。また家賃を滞納している人が40%、ガス光熱水費の滞納をしている人が35%にのぼることがわかった。一方、経済的理由によって医療機関を受診できなかった人も84%にのぼった。

それでは、このような外国人は日本で生活保護を受けることができるのかと言えば、答えはNO。

そもそも「日本国民」を対象としている生活保護を外国人は基本的に利用できず、一部が「準用措置」の対象となっている状態だ。いわば、生活保護を受ける権利はないが、お情けで受けさせることもある、ということらしい。そんな「準用」の対象となるのは、適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない「永住者」「定住者」等の在留資格を持つ人たち。

ちなみに総在留外国人の47.5%の135万7729人は、準用措置の対象外となっている。つまり、どんなに困窮しても半分近くの外国人はセーフティネットにひっかかれないということだ。

そしてもちろん、仮放免の人々も対象外。就労ができないのに、福祉の対象にもならない。その上、健康保険にも加入できないので医療費は全額自己負担(国民健康保険に加入できない外国人は仮放免者だけでなく、約10万3000人もいる)。もうこれだけで無理ゲーで、「生きられない」条件が揃っているのに、そこをコロナ禍が襲ったというわけである。

その結果、支援団体にはSOSが殺到することとなった。

この日の集会で民間支援の現状について報告してくれた移住連の髙谷幸さんによると、移住連、北関東医療相談会、反貧困ネットワークの3団体で20年4月から22年9月までに外国人のべ一万人以上への支援でかかったお金は1億7324万円。支援金の使徒の内訳は、「生活費(食費含む)」が68%、「シェルター・家賃」が18%、「医療費」が14%。

民間団体が、2年半で2億円近くを出しているのである。

このことについては、コロナ禍初期から政府交渉で「外国人への公的支援を」と多くの支援者が主張し続けてきた。が、今に至るまでゼロ回答。そうしてこの日、法務省出入国在留管理庁、厚生労働省社会・援護局保護課との省庁交渉がなされたのである。

「在留資格のない外国人の生存権保障のための政府に対する要請」で求められたのは、在留資格の付与と、生存権を公的に保障すること。

具体的には生活保護の対象とし、また国境封鎖などで帰国できない短期滞在者・難民申請者・仮放免者に就労を許可すること、また医療へのアクセスの保障、日本で生まれた外国人の子どもへの在留資格付与などだ。

さて、ここまで書いても「国に帰ればいい」という意見を持つ人もいるだろう。

そこで、この日の集会でスピーチしてくれた2人の声を紹介したい。

1人はネパール人のリンブ・ラム・キシャンさん(62歳)。

32歳までカトマンズのホテルで働いていたという彼は、ある運動に関わり、政府、警察と共産党の対立が激化する中、自らも捕まって暴力を受けたことがきっかけでネパールを離れる。1994年に来日して働いてきたものの、これまで2度も入管に収容され、現在は仮放免。帰国したくても「今、帰国すると生命が危ない」と家族に言われている状態。しかし、仮放免の立場では働くこともできず、健康保険にも入れない。心臓病との診断を受けているものの治療できず、北関東医療相談会の支援で最近やっと手術を受けられたという。当初150万円と言われた手術代も、支援者らの助けで28万円に。このことはよかったものの、仮放免の立場では、「牢屋にいるのと同じ」と訴えた。

もう1人、チリ人のクラウディオ・ペニャさんは73年のピノチェトのクーデターの際に父が関与したことによって家族全員が報復の対象となり、ヨーロッパに渡る。その後、日本人に声をかけられ96年から日本のレストランで働き始めたという。が、11年の東日本大震災でオーナーが放射能汚染を恐れて外国に逃げ、それによって在留許可の延長ができずにオーバーステイに。やはり2回の入管への収容を経て、仮放免となった。

彼も医療が受けられないことの問題について語ってくれた。長い間耳鳴りに苦しんできたが、お金がなくて手術はできない。今年4月、やはり北関東医療相談会の支援により手術ができ、やっと耳鳴りがなくなったという。

さて、このように一言で「仮放免」と言っても、本当に様々な事情がある。彼らに「国へ帰れ」と言うことは、「勝手に殺されてしまえ」と言うのと同義だ。

胸が痛むのは、冒頭で紹介したみゆきさんのように、そんな彼ら彼女らの子どもが日本で生まれた場合、様々な困難を抱えてしまうことだ。

昨年取材したクルド人のジランさん(仮名)も同じような状況に置かれていた。

日本生まれではなく、9歳でトルコから来日。トルコでのクルド人迫害から逃れるためだった。取材時19歳の彼女は看護師の専門学校の2年生だったが、日本で看護師として働けるかは未定の状態。少し前にそれまで認められていた在留資格が突如認められなくなり、退去強制令状が出たからだ。家族はこれを不服として裁判中だった。

在留資格がないことによって、専門学校の入学にも苦労した。また、日本人であれば利用できる奨学金も利用できない。それでも懸命に学んでいた彼女だったが、裁判で帰国という判決が出れば、今努力しているすべては水の泡となる。そんな不条理すぎる立場に置かれた彼女は言った。

「だからせめて、子どものことをもっとちゃんと考えてほしい。このままじゃ、私だけじゃなく、親が難民申請中の子どもの人生がめちゃくちゃになってしまう」

彼女の声に、この国の人々はどう答えるのか。

コロナ禍で広がる外国人の苦境。11月になり、寒くなるにつれて私も所属する「新型コロナ災害緊急アクション」に寄せられるSOSメールも増えている。日本国籍の若い世代からのものが多い。

コロナ禍を機に、この国の様々な制度がもっと使いやすくなり、多くの人を包み込むものになることを願って声を上げていく。

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