「お前、勇気あるな。俺は蹴れん」。長友佑都選手が南野拓実選手に贈った言葉に滲む“W杯でPKを蹴ること”の重み

決勝トーナメントで勝敗やチームの命運を握っているPK。「W杯で勝ち進む」という決意とプレッシャーの狭間で選手たちはシュートを放ち、キーパーはゴールを守っている【ワールドカップ2022】
クロアチアとのPK戦の直後、南野拓実選手に寄り添う長友佑都選手
クロアチアとのPK戦の直後、南野拓実選手に寄り添う長友佑都選手
Getty

カタールで開かれているサッカーW杯。決勝トーナメントの戦いは「ベスト4」が決まり、アルゼンチン、クロアチア、フランス、モロッコが頂点を目指す。

フランスの2連覇か、メッシがアルゼンチンを優勝へ導くか、前回大会準優勝のクロアチアのリベンジか、アフリカ勢初の悲願か...。熱視線が注がれる。

決勝トーナメント(ラウンド16)からは「PK」がチームの命運を分けた試合が多い。日本をはじめ、スペイン、ブラジル、オランダがPK戦で涙をのんだ。イングランドも試合中にPKのチャンスで決めきれなかったことが響き、準々決勝でフランスに敗れた。

「W杯でPKを蹴る」ということの重み。日本代表の長友佑都選手がクロアチア戦後に南野拓実選手に贈った言葉に、それが集約されていた。

「お前、勇気あるな。俺は蹴れん」

日本代表の戦いの舞台裏を映した日本サッカー協会の公式YouTube「Team Cam」。そのvol.13ではクロアチア戦の舞台裏に密着していた。動画の終盤は、試合後のロッカールームでの選手たちの声の掛け合いがおさめられていた。

長友選手はロッカールームに入るやいなや、後輩の選手たちに次々と声をかけていく。クロアチアとのPK戦で日本の1本目のキッカーを務めた南野拓実選手の元に駆け寄ると、こう言葉をかけた。

日本代表の10番を背負いワールドカップを戦った南野拓実選手
日本代表の10番を背負いワールドカップを戦った南野拓実選手
Anadolu Agency via Anadolu Agency via Getty Images

「ありがとう、拓実。お前、勇気あるな」

言葉をかけた直後、長友選手は南野選手を静かに抱きしめていた。その後、自分の席に座った長友選手は続ける。

「次の未来へ繋げれば問題ない。顔を上げて帰れ。(南野選手へ)勇気あるなマジで。俺は蹴れん...マジでありがとう」

1本目の南野選手のシュートはキーパーに阻まれた。続く、2本目の三笘薫選手、4本目の吉田麻也選手が立て続けに失敗し、日本は敗れた。

だが、長友選手は1本目のキッカーを務めた南野選手の勇気を称賛し感謝を伝えた。「俺は蹴れん」というベテランの一言から、「W杯でPKを蹴る」ということの重みがひしひしと伝わってきた。

【長友選手が南野選手に言葉をかけるのは17:40ごろから】

スペイン、ブラジルも...PK戦で涙を飲んだ強豪国

120分の戦いを終えた後、満身創痍の選手たちを待ち受けるPK戦。

もちろん、各国のチームにそれぞれ延長戦やPK戦を見据えた戦略・戦術があるだろうが、PKを蹴るキッカーは「勝ち進むために自分が決めなくてはいけない」という責任と「外せない」というプレッシャーの狭間でシュートを放っている。

スペイン代表ではセルヒオ・ブスケツ選手が外し、ブラジル代表ではマルキーニョス選手が外した。経験が豊富で世界的に名を知られるベテラン選手でも失敗することがある。だが、それがPK戦であり、W杯であり、サッカーだ。

そして、キッカーと同じように、GKもゴールを守る責任とプレッシャーを感じていることも忘れてはならない。

アルゼンチンのメッシ選手は準々決勝のPK戦でオランダを下した直後、他のチームメイトがゴールを決めた選手を祝福する中、真っ先にキーパーに駆け寄っていた。非常に印象に残るシーンだった。

PKを蹴る選手も、ゴールマウスを守るGKも、覚悟と責任を持ってPK戦に臨んでいる。

味方のキーパーに駆け寄るメッシ選手
味方のキーパーに駆け寄るメッシ選手
NurPhoto via NurPhoto via Getty Images

かつて1990年代にイタリア代表としてW杯に3度出場し、「イタリアの至宝」と呼ばれたロベルト・バッジョは、PKについてこう語っている。

「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持つ者だけだ」

注目記事