「若者の投票先に“代弁者”がいない現状を、そろそろ変えないといけない」能條桃子さんが統一地方選を経て打ち出す「次の一手」

能條さんは若者と政治をもっと近づけるために、「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」で団体訴訟を行うための準備を行っている。

どうすれば、わたしの声は政治に届くのだろう。

政治とわたしの距離は、少しでも近くなっただろうか?

今春行われた統一地方選挙で、政治のジェンダーギャップ解消に向け、いくつかの前進があった。

東京都武蔵野市など9自治体の議会で、女性議員の比率が50%を超えた。

東京都北、豊島、江東区で新たに3人の女性区長が誕生。足立、杉並、品川区と合わせて東京23区で史上最多となる6人の女性が区長の座についた。

政治のジェンダーギャップの解消を目指す「FIFTYS PROJECT」の代表を務める能條桃子さんは、今回の選挙を受けて「大きな変化を感じた選挙でしたが、2023年の今、必要なことはまだまだある」と話す。

「約70年以上男性区長ばかりだった時代から、2022年に岸本聡子さんが杉並区長になってドミノ倒しのように変化が起きています」

「一方で『分厚い壁』も見えてきました」

能條桃子さん
能條桃子さん
Jun Tsuboike(ハフポスト日本版)

「移住者、女性、子持ち」には特に厳しい政治への道

今回の統一地方選で「FIFTYS PROJECT」が支援した29人の立候補者のうち、当選したのは24人。前半戦(4月9日投票)は2人が都道府県議選に挑み、当選はゼロ。政令指定都市の市議選では2人中1人が当選した。

能條さんは、「都道府県や政令指定都市など大きい規模の選挙では、やはり政党の支援や大きな組織の票なしで勝つことはとても難しいんだなと痛感しました」と振り返る。

一方、後半戦(4月23日)の市区町村議選では、25人中23人が当選した。

当選率は高かったものの、落選した人をみると、「立候補した自治体に女性議員が1人しかいないような保守的な地域だった」と、能條さんは分析する。

「ある候補者に話を聞くと、『その地域で移住者として選挙に出たのは、自分が初めて』だったそうです。地方で、移住者で、女性で子持ちの人は特に厳しいという現実が見えてきました」

統一地方選で支援者のサポートをする能条さん
統一地方選で支援者のサポートをする能条さん
提供写真

統一地方選実施前の朝日新聞の調査では、女性議員がゼロまたは1人しかいない自治体は4割もあった。こういった地域で女性議員を増やすこともまた、大きな課題の一つだという。

「政治家という仕事は、4年ごとに選挙があって不安定ですし、選挙活動をするために一度仕事を辞めざるを得ないケースも多い。特に女性はハラスメント対策もしなければならないなど、立候補までの壁はまだまだ分厚い。都市型の選挙ではもっと女性政治家を増やせる希望が見えたので、変えられるところからどんどん変えていきたいです」

今回の統一地方選で見えてきた壁を乗り越え、次の統一地方選に繋いでいきたい。そんな思いを胸に、「FIFTYS PROJECT」はクラウドファウンディングを実施中だ。目標金額は1000万円、5月30日まで支援を募っている。

投票先に「代弁者がいない」現状、そろそろ変えないと

能條さんが「若者と政治ともっと近づけたい」と活動を始めたきっかけは、2019年にデンマークに行った時のこと。同世代の20代前半の人たちが国会議員だったことに衝撃を受けた。

「日本もこんな風に同世代の政治家がいれば、もっと変わるのに」

その思いは今も変わらないと話す。

「NO YOUTH NO JAPANで政治のことを分かりやすく伝えたり、FIFTYS PROJECTで若い世代の女性候補者を支援したりしてきましたが、若者と政治の距離の大きなボトルネックは、やっぱり投票先に同世代の、自分たちの代弁者になってくれる人がいないことだと思います」

成人年齢も、投票できる権利「選挙権」も、既に18歳に引き下げられた。しかし、選挙に立候補する権利「被選挙権」は、公職選挙法が制定された73年前から変わっていない。

被選挙権年齢の引き下げの議論は今に始まったことではない。例えば2016年の自民党の公約に被選挙権年齢の引き下げがあったように、これまでにも議論が浮かび上がっては消えていった。

能條さんをはじめ若い世代の仲間たちもこれまで、アドボカシー活動を続けてきた。超党派の若者政策推進議員連盟で各政党の代表が集まる中で被選挙権の引き下げを要求したり、衆院選や参院選時に候補者らの意向を問うアンケートを実施したり、様々な角度からアプローチをしたが、政治家の反応はいつも同じだったという。

「国会議員たちに会いに行っても、『大反対じゃないけれど、世論が盛り上がってないから』と言われてしまうんです」

若い世代にとって切実な権利獲得のための訴えは、後回しにされてしまっている。

立候補年齢の引き下げを求めて、公共訴訟へ

そんな活動を続ける中で2022年の秋、能條さんが弁護士たちとイベントをした時、「世論を作っていくためには、『公共訴訟』が方法の一つなんじゃないか」という話が出てきたという。

2023年2月頃には「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」として本格的に動き出した。能條さんは裁判に向けて、3月23日に神奈川県知事選挙の立候補届出を提出。年齢を理由に不受理となった。

神奈川県知事選挙の立候補届出を提出した能條さん
神奈川県知事選挙の立候補届出を提出した能條さん
提供写真

「『なぜ不受理になると分かっているのに届け出たのか』という声が多いのですが、日本の裁判は、具体的に権利が侵害された事柄がないと裁判が起こせない仕組み(付随的違憲審査制)だからで、公共訴訟の手続きの一環です。私を含め8人の原告と、5人の弁護団で公共訴訟に挑む予定です」

被選挙権の年齢引き下げについては、2023年4月に思いもよらぬ形で話題になった。岸田文雄首相の応援演説中に爆発物を投げ込み威力業務妨害容疑で逮捕された木村隆二容疑者(24)が、2022年7月の参院選で年齢を理由に出馬できなかったのは憲法違反だとして国に損害賠償を求め提訴していたことが明らかになったからだった。

同プロジェクトは、容疑者との関係は一切ないとした上で、「どのような主張であれ、実現のために暴力的な手段が用いられることには断固として反対します」と声明を出した。

「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」の声明
「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」の声明
「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」のサイトより

能條さんは、「テロがあったからといって公共訴訟を止めてしまったら、テロに屈してしまうことにもなる。容疑者とは全く関係なく進めてきたプロジェクトですし、淡々と進めていきたい」と話す。

「若い人たちほどデジタルネイティブですし、若者政策を考える上でも、若者の専門家はやっぱり当事者の若者たちです。これからの未来を生きていく長期的な視点を持つ若者は、サステナブルな未来のために絶対に必要になると思います」

若くて経験もない人に政治家が務まるのか、という声もあるかもしれない。そんな声に対して「私たちが求めているのは、あくまで選挙に出る権利です」と能條さん。

「選挙に出て、結果的に選ばれないのは、その候補者に対する有権者の判断というだけ。成人年齢も18歳になった今、選挙に出る権利を与えない合理的な理由にはならないのではないでしょうか」

同プロジェクトは、立候補年齢の引き下げを目的に、国を相手取った公共訴訟を6月に起こす予定だ。

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