大国間の思惑が入り混じる。 現地の日本人ボランティアが見た「天井のない監獄」ガザの現状。

「仕事がない、家がない」パレスチナで苦しむ、失うものがない人々。
MIDEAST ISRAEL PALESTINIANS CLASHES EAST GAZA STRIP
MIDEAST ISRAEL PALESTINIANS CLASHES EAST GAZA STRIP
EPA=時事

「天井のない監獄」「世界最大の監獄」などとも呼ばれるガザ。2年半前に現地を取材で訪れたジャーナリストの堀潤さんは、「『進撃の巨人』のように地域全体が高い壁に囲まれていた」と話した。

堀さんが司会を務めるネット番組「NewsX~8bitnews」の4月15日の特集テーマは「パレスチナ」。ゲストとして日本国際ボランティアセンター(JVC)の渡辺真帆さんが登場し、同センター・エルサレム事務所現地代表の山村順子さんもスカイプ経由で番組に参加した。

二人が語るパレスチナの現地の状況とはどのようなものなのか。

ガザはパレスチナ自治区と呼ばれる場所の一つだ。イスラエルという国の左右に飛び地のように離れていて、西の小さなエリアがガザ地区、東がヨルダン川西岸地区。この二つが合わせてパレスチナ自治区と呼ばれ、60年以上にわたって紛争・軍事占領状態が続いている。

JVCはガザと西岸地区の東エルサレムで、現地のNGOと一緒に事業を行っているが、ここでは日本でなかなか報道されない悲劇が日々起きている。

渡辺さんが、つい最近起きた痛ましい出来事について説明した。

日本国際ボランティアセンター(JVC)の渡辺真帆さん
日本国際ボランティアセンター(JVC)の渡辺真帆さん
NewsX

「JVCのパートナー団体であるパレスチナの医療NGOの救護ボランティアの青年が活動中にイスラエル軍に撃たれて亡くなりました。サージド・ミズヘルさん17歳、彼は西岸のベツレヘムという町の難民キャンプの出身なんですが、そこでイスラエル軍の襲撃があり、駆けつけて救護活動をしていました。オレンジ色で誰が見ても医療従事者とわかるベストを着ていたのですが、お腹を撃たれてしまった。病院に搬送されましたがそのまま亡くなってしまいました」

負傷者を救う医療従事者への攻撃は国際法違反であり、許されるものではない。これまでに西岸やガザで起こった武力侵攻や戦争でも、イスラエル当局による医療従事者への攻撃は繰り返され、国連機関による調査でもその問題が指摘されてきたという。

2018年6月にもJVCのパートナー団体の救護員が撃たれて亡くなった事件があり、再び犠牲者が出てしまった形だ。現地ではこうした事件はめずらしくないが、日本にまでこうしたニュースが届くことはなかなかないのが実態だ。

「僕が行った時は2014年のガザ戦争(イスラエル軍による空からのミサイル攻撃や地上戦でガザで1万3千人以上の死傷者が出た)の爪痕が色濃く残っていました。イスラエルの封鎖により物資が足りない中で復興を模索している、復興に向けて歩みを進めましょうという機運も感じ取れたんですけど、ここ1年半ぐらいの間は辛いニュースが飛び交うようになった」と堀さんは語る。

パレスチナ自治区の国境のコントロールはイスラエルが握っていて、ガザに入るときには、イスラエルの厳しいチェックがある。物を持ち込むのはイスラエルの許可が必要で、必然的にパレスチナに入る物資は制限される。

散発する武力衝突、その裏で進む土地の押収、分離壁と検問所による人々の生活の分断。仕事、教育、医療などへのアクセスも厳しく制限され、地域の自発的発展や軍事侵攻後の復興を妨げていると言われる。

「去年の動きで大きかったのはアメリカのトランプ大統領がアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転したことです。市民によるデモが毎週のように起きていて、それに対するイスラエル軍の過剰な反応があったように思います」(渡辺さん)

米大使館の移転は、イスラエルが歓迎する一方でパレスチナの激怒を買った。イスラエルによるエルサレム統治権は国際的には承認されておらず、1993年のオスロ合意でも、エルサレムの最終的な位置づけは和平交渉の後半段階で議論されるべきだと先送りされているからだ。欧州連合(EU)は米大使館移転に強く反対し、EU各国のイスラエル大使は移転の記念式典への参加を見送った。

様々な大国の思惑が交錯し、混迷を極めている印象だ。

スカイプ参加した山村さんが、現地の様子をこう伝える。

「実際には復興もなかなか進んでいないのが現状です。電気が通電しているのが5時間以下の期間が長く、生活が苦しい状態が続いていました。抗議デモも毎週続けられていますが、その背後では常にイスラエルと、ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの間で取引が行われていて、デモがコントロールされています。こうしたデモに参加するのは、極度の貧困状態で仕事もなく食べるものもなく、失うものはないという人たち。言ってしまえば自殺のような形で参加する人も少なくないんです。イスラム教では自殺することは禁止されていますが、抗議デモに参加すれば殉教者ということで宗教的にも問題にはなりません。親に内緒で参加する若者もいます」

そうした状況で、JVCは現地の女性や子どもたちを支える事業にも注力している。

「例えばこの女性は、ガザで生まれて16歳で結婚しました。子どもが4人いて、女手ひとつで育てています。旦那からDVを受け、放り出されたのですが、難民キャンプ出身で実家に帰ることもできず、行くところがなくなった。路頭に迷っていたところをパートナー団体が助け出しました。こういうケースがレアではなく、支援しきれないという状態まできている。男性たちが長い失業状態にあり、権力を取り戻すために家庭で暴力を振るうという構造があります。その対象が女性と子どもになってしまうのです」

パレスチナ問題というと何やら難しそうなイメージがあるかもしれないが、実際に現地の人が直面しているのは、仕事がない、家がないといった身近な貧困の問題だ。私たちが知るべきことはまずそこにあるのではないかと、彼らのレポートから思い知らされる。

【文:高橋有紀/編集:南麻理江】

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