PRESENTED BY THEATRE for ALL

「見える」と「見えない」の隙間から—全盲の美術鑑賞者・白鳥さんとアートを見ること

「ほんとにちゃんと見てないんだなってことがよく分かった」「一緒にいる人の背景が見えてくるのが面白い」—— 全盲の美術鑑賞者・白鳥建二さんの友人たちは、彼と一緒に鑑賞した体験を振り返ってこのように話す。
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©️ALPS PICTURES INC.

その場で起こることを楽しむ━━白鳥さんとの「会話」による作品鑑賞とは?

全盲でありながら、20年にわたり美術鑑賞を続ける白鳥建二さん。20代半ばごろから美術館に通い始め、現在では、茨城県の水戸芸術館現代美術ギャラリーで行われる「視覚に障害がある人との鑑賞ツアー『セッション!』」をはじめ、全国各地で鑑賞ツアーのナビゲーターを務めている。

白鳥さんとの鑑賞ツアーは、気づけばいつも予約でいっぱい。なぜ、それほどまでに人気なのか。そもそも、目の見えない白鳥さんは、一体どうやって美術を鑑賞しているのだろうか。

鍵となるのが「会話」だ。

「展覧会を鑑賞したい」

白鳥さんがそう思ったきっかけは、美術館デート。好きな人と一緒に美術館で過ごす。その楽しい時間が、白鳥さんに「目が見えなくても美術館を楽しめるんじゃないか」という予感を抱かせた。

「まずは一人で行ってみよう」そう考えた白鳥さん。最初は美術館に電話をかけて交渉し、スタッフにアテンドしてもらうという形をとっていたが、いつしか「会話」という方法に行きついた。友人たちと一緒に美術館へ行き、作品から連想したことや感じたこと、思ったことを自由に語る。「対話型鑑賞」と呼ばれる、美術作品を対話しながら鑑賞する手法は、今日あちこちの美術館で実践されているが、全盲の白鳥さんとの美術鑑賞では、ごく自然に「会話」が生まれ、周囲に交流が生まれる。その体験が、白鳥さん自身はもちろん、「見える」人にもたくさんの気づきや驚きをもたらしている。

白鳥さんとの鑑賞は会話が絶えない
白鳥さんとの鑑賞は会話が絶えない
©️ALPS PICTURES INC.

白鳥さんと美術鑑賞した人の多くは、まず「ひとつの作品をこんなにじっくり見たのは初めて!」と驚きを口にする。この驚きは、周りから見ていてもよくわかる。本当に、会話がいつまでも尽きないのだ。

作品をよく見て言葉にすることで、そのディテールが見えてくる。ちょっとしたひと言が、全体の見え方をがらりと変えることもある。さらに、会話の内容が刺激になって、新しい想像が膨らんだりもする。すぐに作品の世界に入り込めるとき、好きな作品でもうまく言葉にできないとき、集まった人によって場の雰囲気は大きく変わるというが、こうしたすべてが面白いと白鳥さんは言う。

何人かでひとつの作品を見て、その場で起こることを楽しむ。そうしていると、ひとりで見ているときより、ずっと自由になれる。それが、白鳥さん流の「会話」による美術鑑賞なのである。

白鳥さんをめぐるふたつのドキュメンタリー映画

そんな白鳥さんを追ったドキュメンタリー映画がある。さまざまな演劇や映画を字幕や手話、多言語翻訳つきで楽しめるオンライン劇場「THEATRE for ALL」が配信している中編ドキュメンタリー『白い鳥』だ。

映画をつくろうと思い立ったのは、ノンフィクション作家の川内有緒さん。現在、2022年 Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞を受賞するなど話題を呼んでいる「目の見えない白鳥さんとアートを見にいく」(集英社インターナショナル)の著者だ。

美術館に勤める友人を通じて白鳥さんと知り合い、一緒に美術館に行くようになった川内さんは、あるとき、この体験を本だけでなく映像にも残したいと思うようになった。そこで、新潟県越後妻有で行われる「大地の芸術祭」の作品《夢の家》(マリーナ・アブラモヴィッチ作)を見に行く旅に、友人の映画監督・三好大輔さんを誘い、初めての撮影を敢行。最初は5分くらいの短い映像作品をつくるくらいのつもりだったが、「THEATRE for ALL」が実施した情報保障つき新規映像の企画募集への応募を機に大きく発展し、川内さんと三好さんが共同監督となって『白い鳥』が生まれた。

白鳥さんは友人たちとこんなふうに鑑賞する
白鳥さんは友人たちとこんなふうに鑑賞する
©️ALPS PICTURES INC.

この映画は、白鳥さんと友人たちの美術鑑賞の様子や、いくつものインタビュー、白鳥さんの日常生活の場面などを通じて、「見える」世界と「見えない」世界を交差させる。時折り混ざる手描きのアニメーションが、会話「だけ」で作品を見るとどうなるかを伝えてくれるのも、この作品の大きな特徴のひとつ。アサリか、セイウチか、いや、それとも山?——作品を語る言葉が絵になって飛び交い、「見える」人の前でも、作品の姿は常に揺れ動き、時にひっくり返ってしまうことがわかる。そして会話を通じて作品のイメージが縦横無尽に広がっていく美術鑑賞の臨場感が伝わってくる。

アニメでも紹介される作品を前に
アニメでも紹介される作品を前に
©️ALPS PICTURES INC.

『白い鳥』は大きな話題を呼び、各地の美術館や映画祭でも次々と上映会が開催された。劇場公開されていないにもかかわらず、2021年の「キネマ旬報」誌の文化映画部門で30位に選出されている。白鳥さんの周りに生まれる自由で豊かな体験が、たくさんの人の心をつかんだ結果だろう。

さらに、この映画は今年大きな発展を遂げた。『白い鳥』の完成後まもなく長編の制作の構想が持ち上がり、大幅な追加撮影と再編集を経て、長編ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』が完成したのだ。

「はじまりの美術館」での様子
「はじまりの美術館」での様子
©️ALPS PICTURES INC.

長編の見どころは、白鳥さんの活動の新たな展開にも触れられているところ。福島県猪苗代にある「はじまりの美術館」から、白鳥さんが日々撮影している写真を展示したいという依頼が届いたのである。白鳥さんと仲間たちは、写真をただ展示するのではなく、ある新しい試みを提案する。長編では、この展覧会への参加に向けた挑戦の過程や実際の様子が描き出されている。

面白いのは、白鳥さんのふとした思いつきによって、白鳥さんと周囲の人たちが、いつのまにか一緒に新しい挑戦をしていくことだ。「目が見えなくても美術館に行く」という選択も、展覧会に参加する試みも、みんなで未知の状況に向き合っている。映画を見ていると、その未知の状況を一緒に楽しんでいる自分がいた。

「THEATRE for ALL」の白鳥さん ━━「2つのQ」から考える

すべての人が分け隔てなく文化芸術を鑑賞できる劇場を目指す「THEATRE for ALL」は、映像作品に手話通訳や音声ガイド、多言語の字幕を加えることによってバリアフリー化を図るだけでなく、「世の中にあるさまざまなバリアひとつひとつに向き合い、取り除いていくことの大切さ」について考える機会をつくることも、重要なミッションのひとつにしている。

白鳥さんのドキュメンタリーもまた、「見える」ことと「見えない」ことの間にあるバリアの存在について、問いを投げかけてくる。

「THEATRE for ALL」では、『白い鳥』を公開するとともに、この作品をさらに楽しむための導入となるインタビュー動画を無料公開している。それがオリジナルの動画シリーズ「2つのQ」だ。このシリーズは「ある作品を感じたり、解釈したりするためのウォーミングアップ」と位置づけられ、公開されている映像作品について、アーティストや監督、主演俳優などのインタビューを15分程度の短い動画にまとめている。「2つのQ」というタイトルは、この動画が、作品を見る人に「Question(クエスチョン):作品を感じ、考えること」を投げかけ、「Quest(クエスト):考えたことを行動に移すこと」を促すところからつけられている。

「あなたなら、どんな会話を通して、美術鑑賞をしますか?」

白鳥さんの「2つのQ」で投げかけられている問いだ。川内さんと白鳥さんのお二人へのインタビューから、これまでの鑑賞のなかで印象的だったエピソードなども知ることができる。映画には出てこない話題も飛び出し、「会話」を通じた鑑賞がもたらす驚きや発見、面白さの一端を、この動画からだけでも知ることが可能だ。

秋の那須の風景を背景に、白鳥さん(左)と川内さん
秋の那須の風景を背景に、白鳥さん(左)と川内さん
撮影:南 阿沙美

長編ドキュメンタリーを先行配信 ━━「まるっとみんなで映画祭 2022」

さらに、新たに完成した『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』についても、劇場公開に先立って、「THEATRE for ALL」で先行配信されることが決定。オンライン上で開催中の「まるっとみんなで映画祭 2022」の目玉のひとつとして、11月22日(火)~28日(月)にかけて限定公開される。

11月5日(土)~7日(月)にかけて栃木県那須で行われた「まるっとみんなで映画祭 2022 in Nasu」では、『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』特別上映会、現代アーティスト奈良美智さんの私設美術館「N‘s Yard」での白鳥さんとのアート散歩が行われた。

見える人も見えない人も、それぞれに固有の世界や背景をもっている。

「会話」を通した美術鑑賞は、それぞれの人たちがもつ固有の世界が交わる場所だ。

白鳥さんという存在を起点に広がっている、「見える」ことと「見えない」ことの隙間の世界を、「THEATRE for ALL」で、まずは体験してみてもらいたい。

(ライター:西田祥子)

■ 『⽬の⾒えない⽩⿃さん、アートを⾒にいく』
出演:白鳥建二 佐藤麻衣子 川内有緒 白鳥優子 森山純子 ホシノマサハル 岡部兼芳 大政愛 小林竜也 ほか
協力:茨城県近代美術館/大地の芸術祭 NPO法人 越後妻有里山協働機構/水戸芸術館現代美術センター 東京都現代美術館 トーキョーアーツアンドスペース/はじまりの美術館 ほか
アニメーション:森下征治 森下豊子 (Mrs. Morison)
音楽:佐藤公哉 権頭真由(3日満月)
サウンドデザイン:滝野ますみ(neonsound Inc.)
題字:矢萩多聞
文字デザイン:高野美緒子 山田眞沙美
制作補:新谷佐知子(MOVE Art Management) 三好祐子(ALPS PICTURES INC.)
バリアフリー協賛:THEATRE for ALL(precog)
文化庁「ARTS for the future!」補助対象事業

監督:三好大輔 川内有緒
制作:2022年
制作国:⽇本
上映時間:107分

製作・配給:ALPS PICTURES INC.

▼本作品の配給・上映に関するお問い合わせはこちら
ALPS PICTURES INC.
info@alps-pictures.jp

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インフォメーション

■ まるっとみんなで映画祭 2022

「障害のある人も、ない人も、大人も子どもも、遠くに住んでいる人も、みんなで集う場をつくる、インクルーシブな映画祭」として、オンラインとオフラインの両方で展開する映画祭。異なる境遇の誰しもが映画を楽しめる機会を作り、映画を通じて多様な人たちが混ざり合う場をつくることを目指し、さまざまな種類のバリアフリー対応を行った約20点の映像作品を通して、他者に対する想像力を豊かにし、異なる当事者同士の対話を生み出すきっかけを作ります。
【URL】公式サイトはこちら

■ THEATRE for ALL
日本で初めて演劇・ダンス・映画・メディア芸術を対象に、バリアフリー字幕、音声ガイド、手話通訳、多言語対応などを施した、株式会社precogが手がけるオンライン劇場です。現在、映像作品約30作品、ラーニングプログラム約30本を配信。様々なアクセシビリティに対するリサーチと実践の活動や、鑑賞者の鑑賞体験をより豊かにするラーニングプログラムの開発にも力を入れています。【URL】公式サイトはこちら