早くも失速「希望の小池」代表辞任のタイミング--辻原修

今回の衆院選は猫の目のように攻守が目まぐるしく入れ替わった。

劇場型政治のバブルがはじけたということだろう。小池百合子東京都知事が結成した「希望の党」は失速した。

与党は過半数を大きく上回る可能性が高く、安倍政権も継続する方向だ。10月10日に公示された衆院選の大勢が見えてきた。

22日の投開票に向けて、新聞各紙が行った情勢調査では、朝日「自民堅調 希望伸びず」、毎日「自公300超うかがう」、読売「自民単独過半数の勢い」、日経「与党300議席に迫る勢い」――となっている。各社とも自民党単独で過半数(233)を上回り、自民、公明両党で300議席前後になる勢いとしている。

一方、希望は伸び悩み、小池氏のお膝元の東京ですら苦戦しているという。逆に希望に合流しなかった民進党リベラル系勢力が結党した「立憲民主党」は公示前勢力15議席の倍増も視野に入っているという。都議選を圧勝した小池劇場のバブルが崩壊したのは明らかだ。

「排除の論理」

今回の衆院選は猫の目のように攻守が目まぐるしく入れ替わった。

まず、安倍晋三首相が9月の臨時国会冒頭で「抜き打ち解散」に出るとわかり、準備の整っていなかった野党は慌てふためいた。ところが、9月25日、安倍首相が解散表明をする記者会見にぶつけて、小池氏が希望の結成と代表就任を表明すると、空気は変わり、小池氏が政局の主役に躍り出た。

そして9月28日の衆院解散と同時に、最大野党だった民進党の前原誠司代表は事実上の解党と希望への合流を表明した。小池氏が民進党をのみこむかたちで、一夜にして最大野党になった希望が都議選に続いてブームを起こせば、「政権交代も」という見方も出た。実際、小池氏は「政権選択選挙」と表明して過半数を超える候補擁立を目指す意向を示し、自らの出馬にも含みを持たせていた。

ところが、ここから事態は迷走する。

口火を切ったのは細野豪志元環境相だ。8月に民進党を離党して、小池側近の若狭勝衆院議員と新党準備の協議を重ねていた細野氏は、解散当日の9月28日夜のテレビ番組で、「三権の長を経験した方々は(希望の党への合流を)遠慮してもらいたい」と述べた。

三権の長とは衆参両院の議長、最高裁長官、内閣総理大臣。経験者で衆院選に立候補予定の民進党議員は、菅直人元首相、野田佳彦前首相の2人だけだ。小池氏が両氏の合流を認めなかったという。野田氏は「先に離党していった人の股をくぐる気はまったくない」と不快感を示した。小池氏の「排除の論理」に対する反発が広がり始めた。

翌29日朝、小池氏自身の発言が決定打となった。民進党からの合流について小池氏は、「様々な観点から絞り込みたい。全員受け入れるようなことはさらさらない」として、「排除いたします」と宣言したのだ。

小池氏は合流希望者に「政策協定書」へのサインを義務づけた。安全保障法制の容認など、政策的な踏み絵を迫るものだ。その上、協定書には「公認候補となるに当たり、党に資金提供をする」などとして、持参金付きで合流するように命じる項目もあり、反発にさらに火をつけた。

進次郎氏がとどめ

小池氏にとって最大の誤算は、自らの出馬ができなかったことだろう。小池氏周辺によると、小池氏は希望代表になるにあたり、「政治生命を賭けてやる」と周囲に語り、都知事の後任探しや衆院選後の知事選の日程も想定していた模様だ。ただ、「出た場合の批判と国政復帰の待望論とどちらの方が大きいのか計りかねて迷っている」(小池氏周辺)状態だったという。

逡巡する小池氏の胸中を見通したかのように、歯切れのいいセリフでとどめを刺したのが、自民党の小泉進次郎筆頭副幹事長だった。小泉氏は解散当日の9月28日、「小池さんは選挙に出てきてほしい」と記者団に語り、1日には東京・豊島園駅前の街頭演説で、「小池さんは選挙に出ても無責任、出なくても無責任のジレンマに陥った。どちらの無責任か取りましょうよ」とたたみかけた。自民党幹部は、「進次郎氏の発言は大きかった。あれで流れができた」と語る。

小池氏はよほど気に障ったのか、10月3日の記者会見で、「進次郎さんがキャンキャンはやし立てているが、お父さん(小泉純一郎元首相)と約束しているので出馬はありません」と言い返した。

しかし、味方につけたはずの小泉元首相からは、「(希望と小泉氏の対決で)私は進次郎に投票するに決まっているじゃないですか」と突き放されていた。小泉氏の正論に突き動かされ、小池氏の出馬に批判的な世論が強まった。各社の世論調査でも、都知事を辞任して出馬することへの批判が予想以上に強く、結局、出馬を断念せざるをえなかった。

10月1日、若狭氏はNHKの番組で、「今回でなく次の次の選挙で確実に政権交代できる議席に達するという思いであれば、今回の選挙で代表が選挙に出なくてもかまわない」と述べ、小池氏の不出馬を肯定した。

もっとも、小池氏の不出馬は「政権選択選挙」と唱えてきた自らの言動を否定することになる。憲法67条は「内閣総理大臣は国会議員の中から国会の議決で指名する」としており、小池氏は首相候補にならないからだ。希望の首相候補は不在となり、小池氏は首相候補について、「選挙後に決める」と言うしかなくなった。首相候補不在の政権選択選挙は成り立たず、希望の勢いが一気にしぼんだことを象徴するものだった。

「都知事に専念」か

一方、小池氏の「排除の論理」に反発し、希望に合流しなかった枝野幸男元官房長官は、党内リベラル系勢力で立憲民主党を結成し、民進党は(1)希望への合流(2)立憲民主党へ参加(3)無所属で出馬――に3分裂した。その結果、与党の「自民・公明」と、「希望・日本維新の会」、「立憲民主・共産党・社民党」の3極が争う構図が固まった。

民進分裂の内紛により、希望と立憲民主が対決する選挙区が多く、共産も希望に対抗馬を立てたことから、半数以上の小選挙区で3極対決となり、野党同士の争いで政権批判票が割れることになる。結果、与党が「漁夫の利」を得ることになったことが、冒頭の新聞各紙の情勢調査に反映されたようだ。

小池氏は都知事の公務で、投開票前日の21日から渡仏する。都議選に続いて、験担ぎの「断酒」をしていると宣言していたが、パリでフランスワインを痛飲することになるのだろうか。希望の党代表でありながら、投開票当日の22日はパリで迎えるため、すでに勝負に見切りをつけたようにも見える。となれば、選挙後、形勢不利となった希望からはさっさと手を引き、都知事に専念するという日も近いのかもしれない。

辻原修 ジャーナリスト

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(2017年10月16日
より転載)

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