欧州に押し寄せる難民・移民の様子が、欧州各国でトップ記事として報道される日々が続いている。
ハンガリー、オーストリアを経由してドイツ・ミュンヘン市に到着した難民たちは5日 、市民らの拍手で歓迎を受けた。水やお菓子を渡した市民もいた。現場中継をしていたBBCのリポーターが「こんな光景は見たことありません」と驚きの声をあげる。
メルケル独首相は昨年の約4倍に相当する最大80万人の難民が今年流入する可能性があると表明している。
イツは難民を受け入れる体制ができていると主張しているが、反移民・極右派による難民収容施設への攻撃が今年だけでもすでに200件発生している。
約70%のスウェーデン市民が難民・移民に前向きの見方
英インディペンデント紙(5日付)に掲載された「ユーロスタット」の調査によると、ドイツ国内で難民流入に対する意見は大きく分かれている。
旧西ドイツの市民の36%が流入がもたらす影響に危惧を抱いているが、旧東ドイツの市民の間ではこれが46%に上昇する。
欧州連合(EU)の加盟国の中で、EUの外の地域からの人の流入に対し市民の大部分(71-77%)が肯定的な見方をしているのはスウェーデンだけであった。
肯定的な意見を持つ人の比率が最も低いのがイタリア、チェコ、スロバキア、エストニア、ラトビア(それぞれ15-21%の間)。
ハンガリー、ブルガリア、ギリシャでは、肯定的な見方をする市民は全体の22-28%だった。反外国人感情が強いこうした国で、何故政府が難民受け入れの割り当てを拒んだかが分かる。
スロバキアのロベルト・フィツオ首相は最近、このような発言をした。スロバキアは「キリスト教国なので、イスラム教徒の難民は受け入れたくない」。今回欧州にやってくる難民・移民の中で、シリアからやってくるイスラム教徒が多いことを踏まえての発言だ。人種・宗教・性別で人を差別した発言と見られても仕方ない。
一方、EUの中では人口密度が高い英国、アイルランド、フランス、スペイン、ベルギーでは非EU加盟国からの難民・移民の流入に対して前向きの見方をする人の割合は49-29%だった。
東欧と西欧との考え方の違い?
旧東欧諸国と西欧諸国との移民に対する考え方の違いを指摘する人もいる。5日放送された、BBCラジオの「海外特派員から」という番組の中で、特派員の1人が旧東欧の国の市民の見方を紹介している。「東欧圏にいたときは、移民が実質的に発生しなかった。西欧圏を訪れて、移民がたくさんいることを知った」。この市民は移民が多い国の現状を否定的に受け止めていた。
西欧諸国では、文化の多様性、社会の価値観の多様性は良いこと、奨励されるべきことと考えられてきた。難民は人道的面から助けるべき人々であり、移民は経済を活性化するために、かつ多様性を深めるためにも、悪いことではなかったーーただし、元からいる国民の生活を脅かさないよう、一定の歯止めをかけながら、である。
EUに加盟すれば、EU域内での人の出入りは自由になるが、特定の国に人が急激に集まることはないはずだった。
しかし、ここに来て、急増する難民・移民たちの群れはいまだかつてないほどのプレッシャーを欧州各国に与えている。「一定の歯止め」をかけたり、十分に事前に準備したりする暇はない。即断即決が必要とされる。難民・移民たちの様子を伝えるメディアが、そして取材に応じる難民・移民たちが待ったなしの即決を各国政府に迫る。
4日、ハンガリー、オーストリア、ドイツの首脳らは、例外的にドイツに難民らを受け入れる緊急避難措置を決めた。その後5日にかけて、ハンガリーに足止めされていた難民らがウイーンやドイツの都市に到着し始めた。
押し寄せる難民・移民を止める策が見つからないまま、EUはより公平に難民らを受け入れざるを得ない状況に置かれている。
一部の報道では、欧州委員会のジャン・クロード・ユンカー委員長は割り当て受け入れ制度に参加しない加盟国には罰金を課すことも考えているという。
(2015年9月7日「小林恭子の英国メディア・ウオッチ」より転載)