政治は、選挙をもっと面白くする責任をもっているのではないでしょうか。怠慢なのか、能力不足なのか、やる気がないのかはわかりませんが、自民党の公約を見ても、自画自賛とまるで官僚の作文のように、ずらりと項目がならぶだけで「本気度」が見えてきません。やっつけ仕事ほど項目が増えるのはビジネス社会の企画書と同じです。
麻生財務相が、直近3回の選挙で「一番風が吹いていない選挙だ」とし、「凧はあがらん」、つまり投票率が低くなることを示唆する発言をされていましたが、いくら真意は自民党の内部の緩みをただす発言だとしても、政治家、しかも副総理の立場でなにをのんきなと感じてしまいます。
アベノミクスのボタンの掛け違いでGDPが2期連続でマイナスとなり、ふつうに言うなら「景気後退(リセッション)」の局面を迎えてきているのも、維新の党が批判するように「既得権益に斬り込み、実体経済を成長させる第三の矢が、かけ声だけ」に終わっているからでしょう。これまでアベノミクスに好意的だった海外メディアもかなり論調が変化してきています。
第三の矢の高いハードルを超えるためには、企業経営と同じように「選択と集中」が求められてきます。安倍総理の声高なトーンとは裏腹に、その意気込みが感じられません。
焦点は明確だと思います。今必要なのは、短期的な景気浮揚策ではなく、中長期的な課題をどう乗り越えるのかです。
ひとつは格差の拡大にどのように対処するかです。もうひとつは、また新しい産業、新しい地域経済が生まれ育ってくることへの足かせとなっているさまざまな規制や既得権益をいかに取り除くのか、また新しい産業が生まれ育つ社会的な仕組みや文化をどう根付かせるのかだと思います。残るのは、少子化にどのように対処し、貧困に苦しむ子供をどう支えるかです。
格差が広がると、人びとの希望、社会の活力、また安定を削ぎます。そこに差別も生まれてきます。丸腰の黒人少年が白人警官に射殺された事件で、地元大陪審が銃を撃った警察官を不起訴としたことから、ミズリー州から広がった暴動も格差の拡大と根強い差別が産んだ悲劇です。
日本はGDPの6割を占める、豊かな内需に支えられていることが強みとなっているのでましてやです。
しかし、金融経済が拡大し、グローバル経済が進行してきた今日は、格差を拡大する強い圧力がつねに働き続けます。自民党の公約のなかに、雇用を増やしたと書かれていますが、中味は非正規労働者が増えただけで、格差がさらに広がってしまいました。
確かに、お題目としては、民主党が掲げているように、「厚く、豊かな中間層を復活させる」ことが、豊かな内需を抱えた日本にとっては重要なのでしょうが、ではどのような手を打てるのかです。民主党にも相変わらずの主張しかありません。
このパズルが難しいのは、企業の活力や競争力を維持・向上させるためには、雇用を柔軟化させたいというニーズがあり、また成長力を失った産業から成長する産業へと日本の産業構造の転換を進めるためには雇用の流動化が求められます。
いずれにしても雇用の柔軟化が必要なのですが、雇用に関する規制を緩和し柔軟化すれば、働く側は、雇用が不安定となり、いつ失業するかわからない、将来設計もままならないというリスクを背負ってしまいます。
このバスルが解けないままに、あちらを立てれば、こちらが立たずの状態が放置され、結果として、非人道的なリストラが行われたり、解雇しやすい非正規社員を雇用して調整することになってしまいます。ある意味で日本の硬直した雇用規制が非正規社員を増やし、格差を広げているのです。
そんな現実を直視せず、結果として生まれた非正規社員の待遇改善をはかったり、非正規社員の雇用条件を変えるというだけでは根本的な解決にはなりません。雇用を柔軟化、流動化し、なおかつ働く人たちが、新しいフィールドに安心してチャレンジできる仕組みづくりがもとめられいるのでしょう。その知恵を出すのが政治の役割のはずです。
企業活動や地方経済への規制緩和については、覚悟の問題でしょうが、あっと驚くような具体策、せめてどのような規制緩和を行うのかの具体策と、それによってどのように社会が変わってくるのかぐらいは提示してもらいたいものですが、耳障りのよいお題目しか見当たらないのは、読解力が不足しているからでしょうか。
安倍総理が声高におっしゃるように、今を逃して、日本再生のチャンスはもうないのかもしれません。しかし、あまり予断を持って判断してはいけないことでしょうが、これまでの実績を見れば安倍総理に踏み込んだ政策が期待できるのかは正直言って疑問に感じます。
過去の成功にしがみつき、変化にチャレンジするリスクを取らなかったことが、長らく日本経済を停滞させてしまった大きな原因でしたが、今は政治が自ら積極的にリスクをとるタイミングではないでしょうか。与野党で激しく論戦し、いい知恵比べ、またリスクをとる覚悟比べを期待してやみません。