女性が輝く社会を目指す安倍政権。しかし、女性の健康の実態は楽観できるものではない。国民の2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで亡くなるというこの国において、乳がんについては死亡率が横ばいとなっているものの、子宮頸がんは死亡率が増加傾向にあるという予測が出た。(注1)その原因の一つに、検診の受診率が低いことが上げられている。
そうした中、19日、「第1回地域と国をつなぐ 乳がんと子宮頸がんの検診促進全国大会」が東京・虎ノ門で開催され、国会議員15人と地方議員146人ら200人近い人が集まった。
厚生労働省健康局がん対策・健康増進課がん対策推進官 秋月玲子氏は、欧米では乳がん、子宮頸がん共に死亡率が下がっているのに、日本は上がっている実態を紹介。理由は明快で前述の低い検診率なのだが、調査によると、検診を受けない理由の第一位は「時間がない」だったというから何をかいわんやだ。
対策として秋月氏は、市町村が継続的に実施可能な個別受診勧奨を徹底することや、市町村が受診率などを公表すること、未受診者への再勧奨を行うことなどを上げた。自治体がやるべきことは見えている。
その後行われた最初の講演「乳がんの基礎とがん検診の在り方」で認定NPO法人乳房健康研究会理事長 福田護氏(注2)は、働き盛りに乳がんが多いことを指摘、働く女性の生活環境を改善しなくてはならない、と述べた。その上で、会場に出席している超党派議員に、乳がん検診受診と情報発信を強く求めた。12人に1人が乳がんになる日本人女性。年間罹患数9万人、死亡数は1.4万人という数字は衝撃的だ。多くの人が共有すべきだろう。
また、福田氏はある乳がん患者とかかわっていく中で医療従事者として自分も多くの学びを得た経験を紹介。「人として共に成長できる継続的対話医療の重要性」を説いた。その患者は編集者であり、亡くなるまで自分の仕事を全うし、福田氏は医師として彼女の仕事やボランティア活動をサポートし続けたという。
そうした経験から福田氏は、主治医と患者との関係を超えた"Narrative Based Medicine (ナラティブ・ベイスト・メディスン)"の必要性を説いた。つまり、「物語(ナラティブ)と対話に基づく医療」である。医療従事者が、患者の語る様々な「想い=物語」を聞き、その上で病気や治療方法について情報を共有し、患者の抱える精神的な悩みや社会的立場、仕事への思い、などあらゆる要素を把握して、双方が満足する治療方法を考えることを言う。
52歳で亡くなったこの患者さんの娘さんは、母のそうした姿を見て自ら医学の道に進んだという。彼女が福田氏に語った言葉が紹介された。「がん=死ではなくむしろ生であると知った」
最後に福田氏は、都道府県間で受診率に大きな差があることを指摘。マンモグラフィの死亡率減少効果が高いとのデータを紹介し、積極的な検診の受診を求めた。又、「コール・リコール(注4)」の重要性も強調したが、対象者が自治体によって異なることも問題だとした。
次の講演「子宮頸がんの基礎と検診の在り方」では、鈴木光明 自治医科大学名誉教授(注4)は、我が国で死亡率増加が加速しているのは子宮頸がんのみであること、20代後半から40代前半の若い層に罹患率が増えている実態を明らかにした。
鈴木氏は、現代は「予防の時代」であり、治療はもはや時代遅れだ、と強調した。その上で、子宮頸がん検診の受診率を上げるには、受診者負担額の引き下げが効果的との考えを示した。又クーポン券なども受診率を上げるのに効果がある、とした。又コール・リコールについては、1度、2度で終えず、3度目は(受益者の検診を受ける)権利放棄するかどうか意思確認の通知をするという例も紹介された。
その後行われた「地方のがん対策これまでとこれから」と題したパネルディスカッションには、本イベントをNPO・民間啓発団体の立場で主催する、乳がん・子宮頸がん検診促進議連応援団共同代表の認定NPO法人乳房健康研究会常務理事 高木富美子氏、一般社団法人シンクパール代表理事 難波美智代氏、認定NPO法人子宮頸がんを考える市民の会理事長 渡部享宏氏らをはじめ、同世話人の大阪大学大学院医学系研究科招聘教授 小林忠男氏が、福田氏、鈴木氏や議員らと登壇。地方自治体の特色にあった内容での受診勧奨と、地域活動の好事例を紹介するなど、未受診者をいかに無くすことが出来るかを考える事が重要であることなどが確認された。
また、乳がん・子宮頸がん検診促進議員連盟会長の野田聖子衆議院議員は「女性が活躍するためにも、愛するものをしっかり守るためにも、自分自身が元気でなくてはならない」と語り、女性特有のがん対策を早急に進める必要性があることを強調した。
参加した議員からは、「医療の現場や患者、市民団体との連携がいかに必要か再確認した。この勢いで地域でもますます強く推進していこうと感じた。(五十川玲子岐阜県各務原市議会議員)」「地方の職域での推進も今後の重要課題である(薬師寺みちよ参議院議員・議連事務局長)」又、「乳がん子宮がん検診については、女性特有のものであるという認識が多いためか、男性の関心が低いのが現状。だからこそ積極的に男性が加わっていく必要性を感じている。(床鍋義博東京都東大和市会議員)」など多くの意見が寄せられた。
先進国の中でも最低レベルである日本の検診率を上げるために、国と地域、そして医療現場や市民が全力で取り組む必要があることが確認されたことは意義深い。そのためには、国と地方の連携が不可欠だ。一方で、公に過度に頼る日本人の特質も考えねばならない問題だ。健康維持は自分自身の問題であり、がんを罹患してからでは遅い。からだのチェックを定期的に行い健康を保つ努力を怠れば、そのつけは自分に返ってくる。その当たり前の事実を再認識することが何より重要だと感じた。健康であることは自分のためだけではない。自分が大切にしている人にとってもまた重要なのだ。
注1. がん対策推進基本計画中間発表(2015年6月)
注2. 福田護氏(認定NPO法人乳房健康研究会理事長、聖マリアンナ医科大学付属研究所ブレスト&イメージング先進医療センター附属クリニック院長)
注3. コール・リコール(Call/Recall)...受診行動の定着化のために、対象者への繰り返し個別勧奨すること。
注4. 鈴木光明氏(公益社団法人日本産婦人科医会常務理事、新百合ヶ丘総合病院がんセンターセンター長、自治医科大学名誉教授)