ガソリン車が消える日が来る。そんなこと誰が想像しただろうか?筆者は、1990年代から燃料電池車(Fuel Cell Vehicle : FCV)の開発を取材してきたが、その商業化は遅々として進まず、いつの間にか20年以上たって2015年になった。しかし、14日トヨタは2050年までにガソリン車をゼロにする、と発表した。記者会見に臨んだトヨタの内山田会長はこれを「天変地異」と表現したというが、まさにその通りだろう。
が、よく考えてみれば2050年というのは今から35年後であり、FCVの研究開発が本格化してから半世紀後のわけだから決して早いとも言えない。既にトヨタは世界で販売する車すべてを、FCVと、ハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)、プラグインハイブリッド車(PHV : Plug-in Hybrid Vehicle)、電気自動車(EV : Electric Vehicle)にする計画だ。他のメーカーも同じ戦略を取るだろう。しかし、トヨタ程の体力がある会社はそう多くはない。他社からOEMを受けるか、技術供与を受けるか、M&Aか、選択を迫られるだろう。
CO2削減のためにはエコカー比率を高めねばならないが、各自動車メーカーは巨額の開発費のリスクを負い、ライバルとの競争はまさに時間との勝負になる。そうした中、日本には一日の長がある。既にHVは国内で380万台、PHVは3万台が保有されている。トヨタのプリウスの販売が好調なためだ。しかし、EVは、開発では先行したのに、実際に販売しているのは日産のリーフぐらいで、保有台数も5万5千台にとどまっている。最大手のトヨタがEVよりHVの開発を先行したからだ。
EVはFCVが本格普及するまでのつなぎとして重要な戦略技術であるにもかかわらず、政府は思い切ったEV優遇措置を取っていない。普及の足かせは、航続距離の短さ(フル充電で250~280㎞)と充電設備の少なさだが、特に後者は規制緩和と投資優遇税制などで後押しすべきだった。HVで先行しているトヨタへの気兼ねがあったわけでもないだろうが、充電設備を急速に増やすような政策は取られなかった。コインパーキングや駐車場を併設するコンビニ、商業施設などに充電設備を普及させるための後押しがあっても良いのではないか。実際、PHVにとっても充電設備は必要なのだから。
また住宅のインナーガレージに蓄電池としてEVを置けば災害時などに家庭用電源として利用できる点もあまり重視されていない。(FCVも無論家庭用電源になりうる)太陽光発電など再エネによる電力で充電すれば更にエコである。街全体の住宅が再エネで発電し、EVやPHVに接続されていれば、リアルタイムで電力需要・供給が制御できる。いわゆるスマートシティである。技術的には可能であるが、複数の都市で実証実験レベルであり、全国的に普及しているとはとても言えない。
こうしてみてくると、CO2削減と災害時における利便性を考えると、当面日本政府はEVとPHVの普及促進を図ることが得策だと思われる。クリーンディーゼルが評判を落としている今、一考の余地があるのではないか。