皆さんが熱烈に応援するスポーツチームがプレーオフに出場、あるいはメジャーな大会に参加したとします。それがどんなにエキサイティングなことか、ちょっと想像してみてください。
でももしあなたの女友達が、一緒にスタジアムに行って観戦することを禁じられているとしたら…?
これがイランの女性たちの悲しい現実です。バレーボールやサッカーなどの人気のスポーツをスタジアムで観戦するという、そんなシンプルなことを実現するために、イランの女性はこの10年闘っているのです。イラン政府は女性や少女が男子バレーボールの試合を観戦することを禁じ、スタジアムに入ろうとした女性たちを逮捕までしています。もちろんこれは、イランにおける重大な女性の権利侵害のほんの一部にすぎません。結婚・離婚・親権といった個人の地位に関係する男女差別的な法律や、女性の権利の活動家たちの不当拘禁にいたるまで、問題は山積みなのですから。
1980年代以来、イランは男子サッカーの試合を女性が観戦することを禁じてきました。FIFAはこのような差別を阻止するための行動をとっていません。なんらの制裁がないのですから、2012年、サッカーに加えてバレーボールなどに観戦禁止が拡大されたことも、驚きに値しません。
世界的にバレーボールを統括している国際バレーボール連盟(FIVB)は、 国際大会開催場所の決定権を持ち、試合を監督する国際競技団体です。
国際バレーボール連盟は昨年11月、イラン政府がこの男女差別的な観戦禁止措置を廃止するまで、トーナメント大会の主催を許可しないと述べました。にもかかわらず、イランは今年の夏、FIVB世界リーグ戦や男子選手権アジア大会などの男子バレーの国際試合を首都テヘランで主催しています。入場券を買えるのは男性のみ。1万2,000人収容のアザディ(自由)スタジアムに入場しようとする女性がいれば逮捕とばかり、警察官が周辺を見張っていました。こんなにあからさまな差別は、国際バレーボール連盟憲章の基本原則その4ならびにオリンピック憲章にも反するものです。イランは規則に違反しながら、女人禁制試合をひと夏主催してのけました。こんな状態で、国際バレーボール連盟は、規則を違反したイランになんらかの罰を与えたと言えるでしょうか?
実際、なんらの罰はなかったのです。それどころか、2016年2月の男子ビーチバレー国際ツアー大会開幕試合を主催することがイランに認められました。
ヒューマン・ライツ・ウォッチがこの問題についてFIVBに質問を行ったところ、その回答は全く説得力に欠けるものでした。「競技統括団体として、FIVBは各国の文化または社会的パラダイム(規範)に対する決定権を持たない」というのです。このイラン超保守派への迎合は、同団体が謳う男女平等と全く相容れません。女性と少女のためのスポーツおよび公共スペースへのアクセスは、「社会的規範」ではなく、基本的な人権です。
残念なことに、FIVBのこうした態度の結果、イラン女性の権利のための闘いはより難しくなってしまいました。同時に超保守派は、国際スポーツ連盟の原則でさえも、圧力次第でどうにかなるものなのだと学んでしまったというわけです。
そういうわけで、ヒューマン・ライツ・ウォッチは#Watch4Womenというキャンペーンを立ち上げました。FIVBとイラン政府に対し、女性がアザディスタジアムなどのスポーツ施設でバレーボール観戦できるよう、圧力をかけるためです。
男女平等の闘いはイラン全土に広がっています。このキャンペーンもその一歩にすぎません。しかしスタジアムに女性の姿がみられるようになることが、イランにおける女性の権利、そして女性と少女のための主要な公共スペースの解放に向け、じわじわとゴールに進んでいくきっかけとなるはずです。
Women in Iran are prevented from attending men's sports in stadiums (still from animation). © 2015 Human Rights Watch
(2015年11月4日「Human Rights Watch」より転載)