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2014年12月26日 15時33分 JST | 更新 2014年12月26日 15時33分 JST

富の偏在について思うこと

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photo by Nicki Mannix

 このTEDの動画をご覧になっただろうか。

 Beware, fellow plutocrats, the pitchforks are coming(大富豪の仲間たちよ、注意せよ、熊手をもった民衆がおそってくる)

 今年の8月講演されたもので、20分強の長いものだが、日本語字幕もついているので、ぜひご覧いただきたい。

 彼の主張をまとめるとこういう風になる。

 経済の格差がどんどんとすすみ、このままごく少数の大金持ちにますます富が集中すると、フランス革命のようなことがおきる。

 そうでなくても、起業家や資本家は、労働者に充分な賃金をまわして中産階級を育て、自らの顧客をつくりださなければ、富をさらに生み出すことはできなくなる。

 資本家と労働者の関係、富むものだけがますます富み、持たざるものはますます貧しくなる、現在の野放図な資本主義は、修正されなければならない。

 語っているのは、自らも実業家として成功をおさめ、大富豪のひとりとなったニックさんという方だ。*1

 具体的には、最低賃金をあげることを主張されている。

 2013年6月にブルームバーグに「最低賃金15ドルという資本家の理論」というタイトルの記事を書いたのち、シアトル市が最低賃金を全米基準の7.25ドルから15ドルに実際に引き上げた。その後、シアトル市は中小企業の雇用が増えるなど、市の経済は活況にあるという。

 最低賃金を引き上げることで、福祉に頼らない自律的な「消費者」を育てることができる。購買力のある顧客を生み出すことで、資本家、実業家にも大きなメリットが生まれる。

 

 そういった主張が、大金持ちで実業家のニックさんのような方から出てくることに、新鮮なものを感じた。

 しかし、賃金を増やせば、仕事は海外の途上国に行ってしまうのではないか、という反論がある。

 たしかに、僕もそんな心配を抱かないでもない。

 動画を見る範囲では、はっきりとその根拠は読み取れない。製造業ではなくサービスなどのドメスティック(国内)産業では、その主張は正しいのだろう。

 彼は自分の考え方を「新資本主義」と呼んでおり、そのエッセンスを彼はこのように述べている

 起業家にしろ顧客にしろより多くの人を巻き込むことによって

 よりよく機能することを認めよう

 ぜがひでも政府の規模を縮小しよう

 ただし労働者が充分な賃金を得るようにすることで

 生活保護が必要でないようにしよう

 中産階級にたっぷりと投資することによって

 わたしたちの経済が

 より公正でより包括的になるようにしよう

 より公正とは真に競争力があるということで

 真に競争力があるということは

 人類がかかえる問題に対して

 解決策をつくりだす能力が高く

 それが成長と繁栄を推進する力となるのです

 さて、彼の主張を聞いて、ふたつのことをあらためて、僕は認識した。

 ひとつ。

 人類の歴史は、悲惨や誤りに満ちているけれど、長い目で見れば、最大多数の幸福を実現してきた、確固たる進歩の歴史であったこと。 

 その観点から考えても、たしかに、彼の言うように、格差がますます広がり、一般大衆がますます困窮していく傾向は、遅かれ早かれ、いつか必ず是正されるだろう。

 もうひとつ。

 民主主義にも過ちはたくさんあったけれど、少数の専制より、できるだけ多くの人間が工夫したり考えたりするほうが、世界の問題を解決する総量は大きくなるに違いないということだ。

 世の中には、格差やむなし、という言説も多い。

 ある程度の格差が、人々のモチベーションになるということもまた、正しいことだろう。

 ただし、現在、世界が直面している富の集中の度合いは常軌を逸しており、人類の進歩の歴史や人間の創意工夫を最大限に活かすということに明らかに反している。

 その根っこを忘れずにいたい、彼の動画を見て、痛感した。

 

*1: ニックさんは、自分が実業家として成功した理由を、「出生、境遇、タイミングのおどろくべき幸運の結果」であり、自分はずば抜けて頭がいいわけでもな、ほかの誰よりも努力したわけではないと述べている。ただし、自分は、「リスクに耐える能力」と「未来を洞察する能力」が高かったとも。成功した起業家の自己分析として、すごく腑に落ちた。

(2014年12月26日「ICHIROYAのブログ」より転載)