「デザインがすべて!」である時と「デザインはどうでもいい!」時

デザインがすべてだとも言えるし、デザインなんかどうでもいいとも言える。ざっくりと言えば、ライバルたちから目立つためにはデザインが重要になるが、何か新しいことを始めるときはデザインなんてどうでもいい。
Paula Borowska

デザインがすべてだとも言えるし、デザインなんかどうでもいいとも言える。

ざっくりと言えば、ライバルたちから目立つためにはデザインが重要になるが、何か新しいことを始めるときはデザインなんてどうでもいい。

もっとくだけて言えば、「見栄えよりも中身」ということで、そんなことはみんなよくわかっているのに、ついついその当たり前なことを見失ってしまうことがある。

12年前、会社を辞めてBtoBサイトを立ち上げようとした時、大阪の都心部、北浜に事務所を借りて電話とネットをひいた。そして、当分の間、嫁にもセールスをしてもらわないといけないと思い、彼女のスーツを新調しに行った。

気が焦っており、すぐにできるところから始めたら、サイトの発注先も決まらぬ前からそんなことだけ着々と進み、北浜の住所を記した名刺ができた。

その時、ほんとうは、事務所を市内に借りる必要性はほとんどなかった。

富田林の自宅事務所で何の問題もないし、その方がローコストで能率的だった。

「富田林の自宅事務所」というのがかっこ悪く、事業の進展の妨げになると思っていた。

19年間、大きな会社に勤めていると、いくら起業の本を読んでも、本質が見えなくなっていたのだ。

その時の僕に必要だったのは北浜の事務所ではなく、対象としている顧客がほんとうに使いたくなるサイトのコンセプトを練り上げることだった。

それさえできれば、「富田林の自宅事務所」であっても、サイトのデザインがイマイチでも、ビジネスはちゃんと転がりだしただろう。

僕は2か月後に、挨拶を交わした隣の事業主の方の目を避けて、逃げるようにその事務所を引き払った。

次に小売店をやろうとして、店舗物件を探しまわった。

安いところは、狭いか汚いか小売に向いていない場所。いいと思える場所は、自分の収益プランの家賃の額を相当オーバーする。

長い時間百貨店にいて、すぐそばのライバルと戦いを続けてきたので、少しの差がどれほど売上の違いになるか、肌身で感じていた。

そんな目でみると、とてもではないが、自分の予算内の物件で商売が成り立つとは思えない。

最終的にそこにしようと決めたところは、駅のそばで、充分な広さのある、高い天井の物件だった。

高い天井がとくにお気に入りで、その高さを利用すれば、インパクトあるディスプレイができるはずと思っていた。

しかし、家賃は予算の倍。

悩みに悩んで、結局、大阪府のコンサルの方に相談した。「絶対に失敗するからやめなさい」とアドバイスされて我に返った。

良い「見栄え」の店をつくることがいつの間にか第一義になっており、そうでなければ売れるはずがないと考えていたのだ。

良い「見栄え」以前に、ターゲットとするお客様が買いたくなる「中身」、つまり「商品とコンセプト」がなければ、店は成立しない。

逆にそれがしっかりしていれば、店のデザインがもうひとつでも、立地が不便でも、店は繁盛する。

小売店も、「見栄えよりも中身」なのである。

ある程度確立したビジネスで中身に大差がなければ、顧客はデザインだけを見比べて、良いデザインのサービスを選ぶ。

だけど、なにか新しいものをつくる時は、そのサービスや製品の本質、それを使うことによる顧客のメリットは何かという点が、デザインよりも重要になる。

僕のようなあからさまな失敗をする人は、そんなにはいないだろう。

だけど、もしあなたが、新しい何かをつくろうとしていたり、起業して新しいサービスをつくろうとしていて充分な資金をデザインにまで回せないと悩んでいたら、もう一度、提供しようとしているモノの中身、本質にそれは大きな影響を与えるのか、そうではないと思えるのか、考えてみると良いと思う。

結局は、「見栄えよりも中身」なのである。

*Justinさんの記事 When design doesn't matter(デザインが重要でない時)に触発されて、自分の体験や考えを書きました。

(2014年7月25日「ICHIROYAのブログ」より転載)

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