集団的自衛権行使容認を閣議決定

政府は今日の閣議決定を受け、今後、集団的自衛権の行使を前提に、既にアメリカと合意済みの年末を目途に日米安全保障条約に基づいての「日米防衛ガイドライン」の改定や自衛隊法など関連法制の改正や整備を進めて行く事になる。

「安全保障法制の整備について」、正式には「「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」が先程閣議決定した。経済白書は1956年に「最早戦後は終わった」と、将来の日本の高度成長を高らかに宣言した。それに遅れる事60年弱、安全保障に関しても漸く「最早戦後は終わった」という事であろう。岡崎久彦氏の如く40年もの長きに渡り「集団的自衛権行使容認」を粘り強く主張されて来られた方々、或いは、今回首相の座にあってリーダーシップを発揮し、閣議決定を実現された安倍首相に対し感謝申し上げたい。

政府は今日の閣議決定を受け、今後、集団的自衛権の行使を前提に、既にアメリカと合意済みの年末を目途に日米安全保障条約に基づいての「日米防衛ガイドライン」の改定や自衛隊法など関連法制の改正や整備を進めて行く事になる。昨年12月の特定秘密保護法案の成立、それに続く日本版NSCの設立、そして今回の「安全保障法制の整備について」が閣議決定迄漕ぎ着けた訳である。日本の安全保障の骨格は固まったと理解して良いだろう。丁度良い機会なので、何故今回の閣議決定が必要であったのか?及びその波及効果について論考を試みたい。

■ 高まる中国の軍事的脅威

このBBCNewsの記事は飽く迄一例に過ぎない。このところ、ほぼ毎日の様に中国共産党幹部や人民解放軍幹部の不正による解任が報じられている。党や軍の浄化、綱紀粛正を目的とするものであれば勿論何の問題もない。しかしながら、仄聞するところでは、どうも習近平総書記への権力集中を意図して行われている様である。これでは、習近平総書記はアジアのヒットラーに成りかねない

一方、自衛隊の防衛力が充分であれば自衛隊単独で中国軍に対抗する事が可能であり、集団的自衛権はないよりはあった方が良い程度の軽い位置付けなのかも知れない。しかしながら、防衛白書が詳細解説する最新データが我々に語りかけるのは目も眩むような日中間の兵力格差である。これが意味するのは、日本の国防にはアメリカの支援が不可欠という冷徹な事実である。

日本が集団的自衛権行使を容認しないならば、アメリカも本気で日本を支援しない。日本としては中国の軍門に下るか? 或いは、今回の閣議決定の如く集団的自衛権行使を容認した上で、日米同盟の深化により中国に対抗するか? の二者択一である。昨日、今日と、多数の日本国民が集団的自衛権行使容認に反対して国会の回りや首相官邸近くでデモを行ったとの事である。デモ参加者は日本が中国の属国になる事を望んでいるのだろうか? 漢民族によるチベット人やウイグル族の虐待、虐殺の実態を知っているのだろうか? 余りの平和ボケには言葉も出ない。

■ 国際貢献への新たな対応

集団的自衛権行使容認の陰に隠れている感があるが、国際貢献への新たな対応は今後の自衛隊の有効な活用に向けて道を切り開いたと思う。

国連平和維持活動(PKO)に関しては、離れた場所で襲撃された文民要員らを自衛隊が救援するための武器使用を認め、「駆け付け警護」を可能にした。

多国籍軍への後方支援では、他国の武力行使と一体化しないことを維持しつつ、「非戦闘地域」の概念を廃止して活動範囲を拡大した。

日本が今世紀も引き続き繁栄を望むのであれば、世界の平和と安定に貢献しなければならない。具体的には、国連が主導するPKOに参加するという展開になる。仮に、自衛隊が現地に派遣された後、現地治安状況の悪化を理由に駐留を継続する他国の軍隊を尻目にスタコラ逃げ出せば嘲笑を買ってしまう。更には、虐殺されようとする丸腰の難民を前に指を咥え傍観する様な自衛隊であれば、そもそもPKOに参加すべきではないという話になる。

実際に難民を救済するために自衛隊が交戦すれば戦闘に際して必然となる「犠牲」も覚悟せねばならない。そこで狼狽える様では、そんな基本的な覚悟もなく自衛隊を現地のPKOに参加させたのか? といった政治責任が厳しく問われる事になる。こういう話をすると、今迄であれば「国内法は順守せねばならない」といった、バカの一つ覚えの如き反論を受ける展開となった訳である。私も法は順守すべきと思っている。

しかしながら、「停戦が守られている」条件が喪失したとの理由で世界がPKO増員に応じている中で、仮に自衛隊のみが我が身大事で帰国したら全世界が日本を軽蔑するのは当然である。国内法の制約があるとの理由で基地内に避難してきた難民が暴徒に虐殺されるのを傍観するのも同様である。自衛隊員は銃を取って難民救済に全力を尽くすべきである。当然、自衛隊が自衛隊員自身と難民の命を守るための充分な装備が許容されるべきは当然である。

■ 何故自衛隊はPKOに参加するのか?

流石に、「日本は国際貢献などする必要がない。そんなものは一円にもならず他の国に丸投げすれば良い」と主張する日本人は稀であろう。そうであれば、問題は国際貢献の中身という話になる。日本は戦後の長い間自衛隊の海外派兵を忌避し、もっぱら「政府開発援助」に偏重して国際貢献の実績を重ねて来た。私自身、1986年に中東、イエメンに赴任し円借款事業(セメントプラント)、一般無償援助(上水道プロジェクト)、債務救済援助(産婦人科病院プロジェクト)を担当した。従って、「政府開発援助」に対しては思い入れも強いし、その意義も理解している積りである。

とはいえ、「政府開発援助」のみの一本足打法には当然限界がある。南スーダンでのPKOに参加せず、例え中東でどれ程の上水道プロジェクトを実施したとしても国際社会からの評価を得る事は不可能である。矢張り、紛争地域でのPKOに参加し、地域の平和と安定に貢献した上での「政府開発援助」の実施という話になると思う。主は矢張り自衛隊のPKO参加で、従が「政府開発援助」という理解である。従って、今後の日本の国際貢献とは、地域実情に即した、「PKO活動」と「政府開発援助」の最適組み合わせという結論となる。

■ 自衛隊員の若い血が流されるという荒唐無稽

安全保障に関していえば、日本のマスコミに顕著なのは偏向報道をした上での露骨な世論誘導である。「自衛隊員の若い血が流される」というフレーズはイメージし易く、一般国民の共感を得易いので、今後マスコミが安直に多用すると思う。火事場に向かう消防隊員に対し、火傷の危険があるとか、煙を吸うリスクがあるとか注意している様な話である。そもそも、そういったリスクを理解した上で職業選択しているはずである。そして、またそういったリスクを織り込んだ形で給与が支給されているはずである。

私が経験した限りでは、中近東やアフリカの国々は何れも滅茶苦茶なところばかりである。そいう危険極まりない国々で商社マン、JICA専門家、海外青年協力隊の若者は相手国支援のため頑張って来たし、現在も頑張っている。私は駐在期間の3年半の間に3度死ぬかも知れない様な経験をしている。私の危機を体を張って何度か救ってくれた代理店の人間は、私に起因するか否かは不明だが、私が帰国して丁度1年目に爆弾テロであっけなく死んでしまった。中東やアフリカでは何が起こっても不思議ではないし、アルジェリアの日本人殺害事件は何処で起こっても不思議ではない。従って、この地域にはなるべくなら民間人の赴任は減らし、高度な軍事訓練を受けた自衛隊員を活用すべきと考えている。

■ 時の首相が日本の運命を握る事になる

多分マスコミは理解していないので報道していなのであろう。今回の閣議決定の結果、首相の責務は一段と重くなる。何故なら、軍事行動に踏み切るか?否か?は現場の指揮官が判断する事ではなく、首相の専権事項であるからだ。既に、長野智子氏による、このインタビュー記事が分り易く説明している。

長野 集団的自衛権というのは、日本が自分たちが攻撃されていないのに、全然関係ないところで、巻き込まれていって、例えば戦争や地域紛争で、日本の自衛官が血を流すことになるんじゃないか。そうした不安があります。

岡崎 結局ね、鉄砲を打つかどうかというのは、場合によっては国家の命運にかかわる、これはね、結局、総理大臣が決める。

総理がその場で将来の日本の国益を考えて、心血を注いで決めるんです。それ以外にないんです世界的に。で、決める時にですね、くだらない議論で、手足を拘束されないようにする、つまり、権利はあるけれども、行使ができないからちょっと行使できないとかね、そんな事で国の利益を誤ったら大変ですからね、だからそういうつまらない議論を全部払拭して、理論的にきれいにしたうえで、全部総理の決断を仰ぐと。

要するにね、集団的自衛権というのは権利であってね、義務じゃないですからね。なんかあったら戦争しなくちゃいけないというのではないから、するかどうかはね、総理が決める、それ以外にないです。

長野 可能性として、その選ばれた総理が、もし決断をしたら、日本人の自衛官が血を流す可能性があると......。

岡崎 そうです、その通りです。

自衛隊は戦争する軍隊になりますよ。国が危機にさらされたらやりますよ。国が危機にさらされて自衛隊が戦争しなかったらどうするんですか。

鉄砲を一発撃つ事によって、その後の国家の運命は決定される。サラエボでの一発の銃弾がその後夥しい犠牲者を出すに至った第一次世界大戦の始まりである事は歴史がもの語っている。首相は国民の安全、国家の将来を熟慮して決断せねばならない。従って、首相に求められる資質としては、「安全保障に精通し、国際関係に明るく、困難な状況でも正しい決断が出来る」という結論となる。

従って、議員内閣制の日本においてはこういった資質を有しないリーダーに率いられた党に投票し、かかるリーダーが首相になれば日本は破綻してしまうという事である。事実、民主党政権下の3年間は結構危なかったはずと推測する。今回の閣議決定は今後の有権者の投票行動にも多大な影響を与える事になる。

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