「靖国問題」はもうおしまいにしよう!

本来歴史認識は各国で共有されており、議論の余地は左程ないのが通常である。従って、本来であれば歴史の結果のみを専門家が議論すれば事足りるはずである。しかしながら、中韓両政府は歴史的事実を大きく歪曲し、今回の様な悪質なプロパガンダを今までずっと続けて来たし、今後も止め様とはしないだろう。

産経新聞の伝えるところでは、中韓国連大使が安保理会合で日本批判 中国は「靖国」、韓国は「日本」17回連呼し「慰安婦」も、との事である。いうまでもない話であるが、国連安全保障理事会の公開討論会は恒久平和のために共有される歴史認識に基づく和解をどう達成するかという趣旨で開催されたものであり、今回の中国、韓国の暴挙は極めて悪質且つ下品で破廉恥極まりないものである。きっと世界の大顰蹙をかったに違いない。

【ニューヨーク=黒沢潤】中国の劉結一国連大使は29日、第一次世界大戦勃発100年に合わせて開かれた国連安全保障理事会の会合で、安倍晋三首相の靖国神社参拝を非難した。慰安婦問題にも言及した韓国の呉俊国連大使は演説中、「日本」の国名を17回挙げて、「帝国主義時代に起こったことの見方をねじ曲げている」などと批判した。

 中韓両国は昨年末以降、国連の委員会会合や世界各地で日本非難のキャンペーンを展開しているが、国連の事実上の最高意思決定機関である安保理で批判したのは初めて。

本来歴史認識は各国で共有されており、議論の余地は左程ないのが通常である。従って、本来であれば歴史の結果のみを専門家が議論すれば事足りるはずである。しかしながら、中韓両政府は歴史的事実を大きく歪曲し、今回の様な悪質なプロパガンダを今までずっと続けて来たし、今後も止め様とはしないだろう。これに対し、日本の国論は二分されている。それを中韓に見透かされ、付け込まれているというのが私の見立てである。今後も日本に火の粉が降りかかって来る事を考えれば、経緯と状況を論点整理すべきであろう。

■「靖国問題」とは畢竟中韓両政府による政治利用の結果

私は1955年生まれである。従って、戦後の混乱期を除きずっと日本の戦後の歴史と共に歩んで来た訳である。私の記憶では少なくとも1970年代には「靖国問題」は存在しなかった。それを裏付ける様に鈴木善幸元首相は9回、中曽根元首相は首相在任中に10回に渡り靖国を参拝しているが何の問題も生じてはいない。

しかしながら、中曽根元首相は1985年8月15日以後に参拝をしていない。従って、1985年が「靖国問題」の分水嶺という事になる。分かりやすくいえば、この年を境に中韓両政府の靖国神社の政治利用が始まったという事である。その後中国では1989年に天安門事件が起こり、若者の民主化運動に向かうエネルギーを反日運動が無理やり転換し、中国共産党一党独裁政権の安泰を図った。鄧小平の衣鉢を継いだ江沢民が国民に対し徹底的に反日教育を行った背景はここにある。そして、靖国は中国に取って使いやすいカードの一枚という立ち位置であろう

■ 日本叩きをやめる事が出来ない中国

「政治の民主化」は天安門事件以降中国共産党に課せられた重い宿題である。これに対し中国共産党は国を豊かにする事、国民の収入を増やす事を約束し、延命を図ってここまで引き延ばして来た訳である。確かに国は豊かになったかも知れない。しかしながら、富は一部の共産党幹部と、それに連なる既得権者によって独占され、大多数の国民は貧困に放置された。その結果、多くの国民は共産党に愛想を尽かしている。延命のため、中国共産党は「靖国」の様な機会を捉え形振り構わず日本叩きを繰り返し、国民の憎悪の矛先を日本に振り向ける事になる。

■ A級戦犯合祀という欺瞞

こういう主張をすると必ず出て来るワンパターンな反応が「A級戦犯合祀」や「サンフランシスコ平和条約」を白紙に戻すのか?といった反論である。明らかにこの考えは間違っている。戦犯合祀後、日本の鈴木善幸元首相は9回、続く中曽根首相は上述した中断までに10回参拝しているが、国内は当然として、国際的にも現在の中韓の如く異議申し立てした国は一国として存在しない。日本人の弱点はこういう歴史的事実を直ぐに忘れてしまい、後で取って付けた様な「A級戦犯合祀」といった粗雑な論理を素直に信じてしまう事である。

■ 著しくバランスを欠く国内マスコミ

国内マスコミはまるでストーカーの様に何時までも安倍首相の靖国参拝を批判し続ける。一方、南沙諸島で領土的野心を隠そうともしない中国の暴挙については、中国に気兼ねしてか口を閉ざしたままである。最近も中国大陸からは約1100キロの距離にあり、マレーシアから約80キロのジェームズ礁で中国海軍南海艦隊の上陸作戦用の艦艇などが主権宣誓活動という暴挙に出た。私の知る限り、この事実を伝えたのは産経新聞のみである。 

■ 理解されていない中国リスク

「靖国問題」が蒸し返される事に大部分の日本国民はうんざりしている。しかしながら、何故蒸し返されるかというと、過去の史実の積み重ねと中国リスクをきちんと理解していないからであり、国民の知的怠惰に起因するといっても良いだろう。過去の史実の積み重ねについては簡単であるが上述したので、今回は中国リスクを解説する文献二件を参照してみたい。

先ずは、Eurasia Group Top Risks2014を参照する。中国は世界が直面するリスクの第三位としてリストアップされているだけではなく、国内問題に起因する国民の不満や怒りを逸らすため、上述した江沢民時代に徹底的に刷り込まれた国民の反日感情を利用すると明言している。

The party, meanwhile, will try to divert public anger toward foreign targets. The Xi government's first big foreign policy move was to announce an Air Defense Identification Zone in the East China Sea. That's useful for domestic purposes, given that anti-Japanese sentiment runs broader and deeper in China than does any similar sentiment. It also reflects changing security efforts in the region. Should trouble emerge domestically, the Xi government will be much more willing to play up this antagonism--by far the most important source of geopolitical tension in the world today.

今一つは、アメリカ、国家情報長官が29日に上院情報特別委員会に提出した世界の脅威に対する評価報告書である。中国についての記述は21~22ページのみなので、この程度であれば読むのに苦労はないだろう。流石に上述したEurasia Group Top Risks2014の様に日本が固有名詞で登場する事は一部例外を除きない。しかしながら、主権問題やよみがえる歴史に起因する怒りが摩擦をエスカレートさせ、結果、東シナ海や南シナ海での偶発的な事件(occasional incidents)勃発の可能性を示唆している。

Growing regional competition in territorial disputes and competing nationalist fervor increase the risk of escalation and constrain regional cooperation. Sovereignty concerns and resurgent historical resentments will generate friction and occasional incidents between claimants in the East and South China Seas and slow or stall bilateral or multilateral efforts to resolve the disputes.

■ 歴史の捏造を決して止めない韓国

韓国が日本を誹謗中傷する時に使用するのは、「従軍慰安婦」問題と「靖国」の二枚のカードである。そして、この二枚のカードは歴史を捏造しない事には使い物にならない。先ず、「従軍慰安婦」であるがこの問題の肝は日本軍による「強制連行」の事実があったかどうか?の事実確認がきちんと行われなければならない事である。結論をいえば、今日に至るまで客観的正当性を伴った日本軍による「強制連行」を裏付ける事実は確認されていない。この事を分かりやすくいえば、「従軍慰安婦」は韓国による捏造という結論となる。

今一つは靖国である。韓国はどうしても日本による戦争被害者として世界に認知され、賠償を蒸し返したい様である。その思惑からしつこく安倍首相の靖国参拝を批判している。しかしながら、韓国は日本に併合されており日本領土の一部であった。従って、日本が韓国を攻撃する事など理屈からいってもあり得ないし、現実にもなかった。これを証明するのは朴現大統領の父親である朴正煕元大統領である。朴正煕元大統領は日本の陸軍士官学校を卒業の後、日本に忠誠を誓う誓約書に血判を押し、終戦を満州軍の士官として迎えている。日本と戦ったのではなく、満州軍士官として日本のために戦ったのである。

■ 問題を複雑にしているオバマ大統領のリベラル外交

これも日本のマスコミは余り伝えないがオバマ大統領のリベラル外交の評判は良くない。極めて悪いといった方がより適切かも知れない。歴史的な友好国であるイスラエルとは元々馬が合わなかった。エジプトとは軍事クーデター以降関係がぎくしゃくしてぎこちない。シリア問題対応に右顧左眄した事で、どうもサウジはすっかりアメリカに対し匙を投げてしまった様である。

サウジはこれから先アメリカに頼らず自ら防衛するという事で、防衛力を増強している。武器はアメリカからは一切購入せず、フランス限定との噂である。更には、同じスンニ派のシリア、アサド政権を支援しているが支援金で購入する武器はフランス製に限るとの事である。伝統的な友好国トルコともどうも隙間風が吹いている様子である。

こういうオバマ大統領のリベラル外交の延長戦上にあると思われる、安倍首相の靖国参拝に対する「失望」表明は明らかに外交上の失敗である。同盟国日本の主権事項に踏み込み、デリケートな宗教問題である靖国問題にアメリカ政府として干渉した事で日米関係を毀損したのみならず、悪化した日中、日韓の関係に火に油を注ぐ結果となってしまった。流石にアメリカ政府もこれは拙いと悟ったのか、12月30日に行われた米国務省のハーフ副報道官の記者会見で、ハーフ副報道官は、下記の様に釈明している。

安倍首相の靖国参拝直後に米大使館が「失望する」と声明を出したことに関して、それは靖国参拝そのものに対してではなく、日本と近隣諸国との関係悪化に対する懸念であると述べた。彼女はさらに、「日本は同盟国であり、緊密な連携相手だ。それは変わらないだろう」と語り、日米関係に変化はないとの考えを示した。

日本は物分りの良い国であるから、この事でアメリカを追及する事はない。しかしながら、アメリカの政府の「失望」発言は中韓両政府に取っては伝家の宝刀であり、アメリカからお墨付きを貰ったとして日本叩きを続けるに違いない。安倍首相は、今後、地元が反対する沖縄での普天間飛行場移設問題、公明党が反対する集団的自衛権行使認可容認や、これに立脚する日米防衛協力指針の見直しなど、日米安全保障に拘わる喫緊課題を前に進めて行かねばならない。そんな安倍首相の背中をアメリカ政府が引っ張った訳である。

最近公表されたオバマ大統領の一般教書演説を読んでみた。迷走するオバマリベラル外交を象徴するかの如く、何のため? 誰のため? どちらの方向に向かい? 何をするのか? さっぱり見えてこない。全てか霧の中である。これではTPPも話は纏まらないのでは? と危惧する。看板政策のオバマケアが視界不良で、TPPもどうでも良くなってしまったのであろうか?

昨日ニューヨークから帰国した商社マンと会食したが、秋に予定されている中間選挙を控え人気離散のオバマ大統領と距離を取る民主党議員が増えているらしい。更に、中間選挙の下馬評も前回同様共和党優位という事の様である。仮に、中間選挙で共和党が大勝すればオバマ大統領は確実にレイムダックとなり、日本が頼りとするアメリカ外交は漂流するかも知れない。

日本国民はこういった状況を理解した上で、中韓両政府に付け込まれ、結果国益を損なう事が必至な「靖国問題」の国内議論にはピリオドを打つべきである。

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