「ネット投票がなぜ実現できないか」についての私の記事に、おときた駿都議がフォロー記事を書いてくださいました。
この「最大のハードル」を乗り超える方法を一緒に考えてみましょう。
選挙で相次ぐ低投票率打開の切り札として、スマホ・携帯・PCからも投票ができる「ネット投票」は当然議論になります。
それを妨げる「最大のハードル」について、以前記事を書きました。
ネット投票へのハードル、一番難しいのはこれ。 | 中妻じょうた
日本国憲法第15条4項には「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない」と書かれています。
「投票の秘密の保持」は憲法レベルの絶対的必要条件なわけですが、ネット投票ではこれを維持することが難しいのではないか、という話でした。
この記事に対して、おときた駿都議がフォロー記事を書いてくださいました。
「ネット投票」が実現しない、たった一つにして最大の理由&その解決策とは? | おときた駿
基本的な問題意識を共有した上で、仲間とブレストをやって具体的なアイディアを出していただきました。
おもしろいアイディアだと思います。
難しい課題ではありますが、やはり具体的な提案をして乗り越えていきたいものですね。
私もちょいと"昔取った杵柄"を引っ張り出し、「リスク・アセスメント的手法」を用いてこの問題を考えてみましょう。
■どんなリスクにどう対応するかを考える「リスク・アセスメント」
リスク・アセスメントとは、ある組織(企業、団体、国家、etc.)がどのようなリスクにどの程度さらされているかを分析し、それに対してどのように対応すべきかを検討するための手法です。
リスク・アセスメントの基本的な概念図は、このようなものになります。
簡単に言いますと、
「リスクの発生確率 × リスク発生時の損害の大きさ」によって、そのリスクにどのような対応をするかを考えよう、というものです。
リスクの発生確率が高ければ高いほど「要対応」なリスクになります。
同様に、そのリスクが発生したときの損害が大きければ大きいほど「要対応」なリスクになります。
リスクへの対応方法は、大きく4つに分けられます。
(1) リスク回避
そのリスクを完全に回避するため、リスク発生要因を根こそぎ絶ちます。
「コンピュータウィルスへの感染を防ぐため、ネットから完全に遮断する」といった対策がこれに当たります。
(2) リスク低減
技術的・制度的な手法を駆使して、リスクの発生確率と発生時損害度を低減します。
通常イメージするところの各種セキュリティ対策は、ほとんどこれに当たります。
(3) リスク移転
自分の組織だけでは対応できない大きなリスクについて、他の存在に転嫁する対策です。
保険に入ることなどが当たります。
(4) リスク受容
発生頻度が低く発生時損害度が小さいリスクに対して、多額のコストをかけることが見合わない場合、リスクが存在することを知りつつそのままにしておく、というのもひとつの対策です。
■最大のハードルをどう評価するか
このリスク・アセスメント手法を使って、ネット投票最大のハードル「投票の秘密が守られないことによる公正な選挙の阻害」をどう評価するか、考えてみましょう。
このリスクに対する対策は現在「リスク回避」が取られているとみなせます。
そのリスクに対応するため、そもそもネット投票をやらないことにしている、とみなせるわけです。(実際にはそれだけが理由ではないでしょうが)
しかし、いくらウィルスが怖いからといって、ネットにつながないPCなんて今どきあり得るかという話で、人々の利便性を高めるため、リスクの中に踏み込んでいくわけです。
ところで、リスク・アセスメントを行うためには、この「最大のハードル」のリスク発生確率とリスク発生時損害度を明らかにしなくてはなりません。
これはなかなか難しいところですが、リスクを放置しておけば、どんどん発生確率と発生時損害度が上昇する、と考えるべきだと思います。
時間が経てば経つほどこの「最大のハードル」をどう悪用できるかの理解が進み、より広範に投票が組織化されてしまうことが懸念されます。
最悪の状態として「戦争が起こったほうが都合がいい組織」に選挙が牛耳られ、国策を大きく誤る可能性がある...とまで考えた場合、この「最大のハードル」は潜在的に、最大の発生頻度と最大の発生時損害度を持っている、と考えておくべきかもしれません。
憲法レベルで規定されているリスクは、伊達ではないのですね。
■それでもネット投票をやるなら、リスク低減策はどうなるか
それでもネット投票をやる方向に踏み切るならば、どのようなリスク低減策(通常の意味での「対策」)が取れるでしょうか。
技術的対策がもしあるなら、コストが見合う範囲でやるべきでしょう。
おときたさんも2つのアイディアを出していただきました。
ただ、「リスク低減策」とは何も技術的対策ばかりではありません。
「制度的対策」を使うことができます。
簡単な話、他人の投票をのぞき見した人は、厳罰に処せばいいのです。
組織的にのぞき見をやって投票結果を歪めるといった大掛かりなことをやれば、多くの人がその事実を知ることは避けられません。
「タレコミ」を受けつけて、よからぬことをやらかす輩は逮捕すればいいのです。
これも100%の対策ではありませんが、処罰の度合いによっては十分に有効な対策になり得ると私は考えます。
いろいろ書いた割には「なんだそんな話かよ」みたいなオチで恐縮ですが^^、こうした「リスク・アセスメント手法」は様々なリスクに対して使える考え方なので、覚えておいていただいて損はないと思います。
例えば、防衛政策を考えるときなどにも使えます。
現在の日本の防衛政策は、日米安保条約によって「リスク移転」されている状態になっていますが、もし日米安保条約を破棄するとするならば、どのようなリスクに対してどう対応しなければならないか...?といった思考実験ができます。
ぜひご活用を^^
(2015年1月19日「中妻じょうたブログ」より転載)