日本政策学校では2016年2月10日、作家・前東京都知事の猪瀬直樹氏による政策議論講義「首都東京の未来-2020年オリンピックを見据えて」を開催いたしました。
以下はそのサマリとなります。
『情報はみんなで活用するもの』
先の大戦の前に、戦争の結果を予測するシミュレーションを行われ、敗戦は確実であったにもかかわらず、政府は開戦を決断し、悲惨な結果を招いてしまった。この失敗は、情報の共有がなされなかったことによる。
2020年のオリンピックを招致する最後のプレゼンテーションで、高円宮妃久子様の東日本大震災復興支援の謝辞、気仙沼市出身の佐藤真海選手のスピーチが、委員の心を動かした。また、東日本大震災で、偶然の情報が連鎖して、多くの命を救った。
今後も命を守り、世界が平和に結ばれるために、情報の共有に努めるべきである。
◇著書「昭和16年夏の敗戦」で伝えたかったこと
私の著書「昭和16年夏の敗戦」を紹介する。昭和16年、対米戦の前に、官民さまざまな分野から優秀な若者が、政府に招集されて、戦争の結果を予測するシミュレーションを行った。その結果は、いま戦争をすれば、3~4年で必ず負けるというものだった。
これは、データによって正確に予想されたものであった。それにもかかわらず、政府は開戦に踏み切った。避けられたはずの敗戦の結果を、現実に招いてしまった日本の失敗を、忘れてはならない。
◇2020年のオリンピック招致の過程
2020年に、東京でオリンピックが開催されることになった。
2013年3月に、国際オリンピック委員会の調査団が来日し、5月末より、オリンピック招致のプレゼンテーションが始まった。その最終のプレゼンテーションの冒頭で、高円宮妃久子様が東日本大震災の復興支援についての謝辞を述べた。
次いてトップバッターとしてスピーチしたのは、パラリンピックの陸上選手佐藤真海さんだった。
彼女は病気のため義足になったのを、スポーツに救われたこと、そして故郷である気仙沼が被災し、多くのアスリートに元気づけられたことを語り、オリンピック委員の心を強く動かした。
私はオリンピックの招致に当たり、情報を共有して意思決定し、正しい結論に到達することに努めた。
昭和16年の開戦で、わが国は徹底した情報の縦割りのなか、自分の情報を一切提供しなかったことが、悲惨な結果となった。この過ちを、再び犯してはならないと思った。
◇東日本大震災で情報が命を救った奇跡
情報の重要性を痛感したもうひとつのケースを、紹介する。
東日本大震災で、気仙沼市の児童福祉施設の園長と子供たちが、近くの公民館に避難していたが、津波が押し寄せてきて、公民館の屋上に孤立、さらに火災が発生して身の危険にさらされた。園長はロンドンにいる長男にメールをし、それを受け取った長男は、ネット上に投稿した。
東京で偶然にその記事を読んだひとが、東京都の副知事に転送し、結果として東京消防庁のヘリが、全員を救出することができた。そこでは、偶然の連鎖が必然につながって、多くの命を救った。
情報を提供することで、ひとりひとりが役割を演じ、大きな山を動かすことができた一例である。
◇主張したいこと=情報の共有
戦争が再び起こらないため、かけがえのない命を守るため、世界がひとつになるために、情報を共有して、政策をつくるべきである。
◇質疑応答より
・日本人のナショナリズムについて
↓
ナショナリズムとは、戦後、否定的にとらえられてきたが、健全な精神のありかたであると思う。
・縦割りの情報を、どのように機能させるべきか。
↓
情報を提供し、共有する「決断」をすることである。
【猪瀬直樹氏のプロフィール】
猪瀬直樹(いのせ なおき)
作家・前東京都知事
1946年 長野県生まれ
1987年 『ミカドの肖像』で第18回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞
1996年 『日本国の研究』で文藝春秋読者賞受賞
2002年6月 小泉首相より、道路関係四公団民営化推進委員会委員に任命される。
その戦いを描いた『道路の権力』(文春文庫)に続き、『道路の決着』(文春文庫)が刊行される。
2006年10月 東京工業大学特任教授
2007年6月 東京都副知事に任命される
2012年12月 東京都知事に就任
2013年12月 辞任し、現在に至る。