日本政策学校7期生、現在もオーガナイザーとして携わって下さっている、吉田宗興さん。
学習塾「咲心舎」を開塾し、成熟社会で生き抜く力を育む独自の教育プログラム「ライフスキル教育」を展開されています。教育改革のための計画と行動、苦労話、今後のビジョンなど、徹底的にインタビューしました。
■咲心舎とはズバリ、どんな塾ですか。
~「学力」だけじゃない「社会で生き抜く力」を~
公立学校に通う小学5年生から中学3年生を対象に、高校受験を目的として5教科を指導する学習塾です。受験合格、点数アップはもちろんですが、「学力」と「社会で生き抜く力」の同時習得をコンセプトに掲げています。
他の学習塾との大きな違いは、「学力」だけではなく、独自の「ライフスキル教育」を通して、「社会で生き抜く力」を指導している点です。
■「ライフスキル教育」とは。その誕生の経緯を教えてください。
~8割のミドル層へのアプローチ~
ライフスキル教育とは、子供たちの成熟社会で生き抜く力を身につける教育のことです。
現在の日本で、いわゆる名のある大学へ行くような、上位2割の子供たちは、大人が心配しなくても将来稼げると思います。
彼らは、学校や企業でリーダー教育を受けるのが相応しいですね。その一方で、最もライフスキル教育が求められるのは、その他の8割である、「ミドル層の子供たち」であり、彼らを底上げしていく場を作ることが必要だと感じています。
もともと、私はベンチャー企業に勤務していたときから企業研修を通して、人材育成を行っていました。その中で、いくら新入社員を対象にしていると言っても、相手は大人です。人間の根本的な部分は「もう決まってるな。」と感じていました。
成熟社会で生き抜く力を持ち、幸福度の高い人間を育むためには、より若い、特に中学生のうちからトレーニングを行うべきだと確信しました。
ライフスキル教育によって、「大人になったときに自分のやりたい事をやっている」人材を若いうちから育てています。それは決して、起業するといったビッグなことだけでなく、サラリーマンとして働いていても、自分の仕事に楽しさとやりがい、人との繋がりを感じて幸福であれば、それはライフスキル教育の成果ですね。
■「ライフスキル教育」は具体的にどんな内容ですか。
社会で必要なスキルを、「自己肯定感」を中心に「考える力」「つながる力」「向き合う力」の4つで定義しています。
この4つの力があれば「やりたい事で食べていける」大人を育成できると考えています。
(1)「ビジョンセッション」で自分と向き合い、自分なりの目標を立てる
(2)「PDCAサイクル」等のスキルを通して常に自分の目標を管理する
(3)「集団効果」を町の清掃活動等を通して実感する
といった一連の取り組みの中で、子供たちは主体的に自分自身と向き合い、自分で自分を管理するようになり、自己肯定感を育んでいきます。
目標を自分で定めることが重要で、これは子供自身の実行意識を上げ、結果として点数のアップにもつながっています。
■咲心舎とbloom willという会社を同時に展開されたのはなぜでしょうか。
~挑戦したい!と同時に、食べていかなきゃいけない責任があったので~
最初は、咲心舎を開き、子供教育だけに挑戦しようと思っていました。でも現実的に考えて、家族を養っていく責任やリスクを思うと、いきなり飛び込むわけにはいきません。
そこで、それまでの人脈を生かして、企業研修を行うbloom willという会社を同時に立ち上げ、収入を得ていました。これは良い判断だったと思いますね。
なぜなら、咲心舎は開塾当時の生徒はたった2人。貯金も48万円になった時期もあり、現実は厳しかったですから。
■「ライフスキル教育」をどのように発信していきましたか。
開発当初は、「ライフスキル教育」といってもピンと来ない子供や保護者が多いと思います。だからこそ、宣伝広報には生徒の進学実績を使っていました。他の塾と同様に、「有名高校へ合格しました」、「○○点伸びました」と宣伝していきました。
まずは一人でも多くの生徒さんに塾に入ってもらわないと何も始まらないので、そこは「ライフスキル教育」を押し出したい気持ちを我慢しましたね。
実を言うと、まだ「ライフスキル教育」がカタチになっていなかったというのもあります。
コミュニケーション研修を実施して、その場では参加した生徒はみんな、感動して満足してくれたのですが、一週間後に「使ってる?」と聞くと、「全然使ってない!」と返ってきました。学んだ技術は使う場がないと意味をなさないと痛感しました。
「ライフスキル教育」を学んだ子どもたちに対して、彼らにとっての仕事である「勉強」をアウトプットの場として位置付けなきゃいけないと思いました。「ライフスキル教育」「学力」の共存が不可欠だと、開塾して半年経った時期に気づきました。
そこから、勉強領域に結びつけて、きちんと結果が出るライフスキルプログラムにしていこうと着手し始めました。
■家族をもつ身で、チャレンジするにはご苦労もあったと思います。
~ライフスキル教育を実用化する過程が苦しかったです。~
咲心舎と会社を同時に起こし、どちらの仕事もしながら、カタチなきライフスキル教育をプログラム化していく時期が大変でした。
やってみたい事と稼がなきゃいけないという責任の板挟みで、早朝から夜中まで働く生活が続きました。好きでやっているので気持ちは元気でも体には疲れがたまり、だんだんと新しいものを生み出せなくなっていくんですよね。
そこで、仲間を増やして、新たなカリキュラムや育成プログラムを開発するための時間を確保できるように改善していきました。
■吉田さんの現在の目標は何でしょうか。
~公立小中学校3万校にライフスキル教育を導入することです。~
最初は咲心舎を全国展開することが目標でした。しかし、開塾から半年経った頃に、ライフスキル教育を勉強領域に直結させようと決意したので、だったら公立学校側で受け入れてもらうべきだと発想を転換しました。
学力を伸ばすことは学校教育の使命の一つでもあるので、これはマッチする。「自分は企業を拡大する必要なんてない」「学校に売り込んでいこう」と決めました。
公立小中3万校に導入できたら、底上げしたい8割のミドル層に効果的にアプローチできるだろうと期待しています。
■会社、咲心舎、新たな柱としてのNPO
開塾から3年経ってようやく、学校教育へ導入しようと方向性が固まったので、そのアプローチを行うためにNPO法人Life Skill For Students を設立しました。
これまでの動きを振り返ると、まずはライフスキル教育を広めるために咲心舎を開くと同時に、社会の動向を察知するために社会人教育の会社を運営し、いよいよライフスキル教育を学校現場で導入していくためのNPO法人を設立したという流れです。
咲心舎だけでは絶対に計画倒れしていたと思います。私の中にある究極の目的は、将来、自分がやりたい事で食べながら幸福度を感じる大人を育てることです。
それを達成するために、「企業研修の会社」では社会状況や社会人の実態を把握し、「咲心舎」では積極的にライフスキル教育を行っています。その反応や実績を「NPO」を通じて、学校現場に取り込んでいく。
自分の中にあるビジョンを実現させるために、これら3つの柱を築きました。
そして現在、どこか公立の中学校の一校でモデルケールを作るために提案活動を行っています。
2017年の4月から始めて3年間、まずは実践してみるつもりです。
■ものすごい行動力だと思うのですが、原動力は何ですか。
~すべてはビジョン、あとは手段にすぎません。~
私の中にあるビジョンは、子供たちに成熟社会で生き抜く力を持って大人になってもらうことです。これが私の原動力です。
実現のためにライフスキル教育を生み出しました。咲心舎の数を増やしていくよりも、大多数の子供たちが接している学校教育の場に導入することが一番の近道だと思います。ライフスキル教育も咲心舎もそのための手段にすぎません。
よって、例えば今は「親に対する教育」を重視する意見もあり、その方向にシフトすることで子供たちのライフスキルが上がるのであれば、それはそれで有りですし、私は発想を新たに転換するつもりです。
■教育界で世の中を良くしたいという後輩へアドバイスはありますか。
まずは、アクションを起こすことです。ただ、無理はしちゃだめです!
無理は長続きしないですから。
とにかく一個始めてみる、大小関係なくやってみることだと思います。
そこから出会いがあり、何かが始まっていくはずです。
(聞き手:日本政策学校事務局 須藤やや)
★プロフィール★
吉田宗興(よしだ むねおき)
日本政策学校7期生、オーガナイザー。
外資系コンサルティング企業を経て、草創期のベンチャー企業にて人材育成事業に注力。トップセールス賞など数多くの社内賞を受賞し順調なキャリア形成の中、「社会人の力の既定感」や、リーマン・ショックで「成熟社会の訪れ」を感じ、早期に社会で生き抜く力を育む必要性を痛感。子供教育の企業では300家庭以上を廻り子供教育の実情を把握。2013年教育事業を設立し、小中学生向けに「学力と社会で生き抜く力」の習得を目指した学習塾咲心舎を展開している。NPO法人設立後、公立小中30,000校に「ライフスキルプログラム」を導入することが目標。
■咲心舎ホームページ
■株式会社ブルームウィルホームページ
■NPO法人Life Skill For Students