わが国には、戦時下の体制で今も残っているものがあり、その最たるものが『天下り』である。この天下りに対する取り組みが、第1次安倍内閣において行われたが、『消えた年金問題』の浮上などにより、失敗に終わった。その後、福田内閣の下、各省庁による天下りを全面禁止すべく、国家公務員制度改革基本法が提出され、内閣人事局が創設された。
官僚ではなく政治主導の体制で、いまなお根強く残っている統制型のシステムを打破していくべきである。
残存する戦時体制のひとつである『天下り』
わが国には、今なお、戦時下の体制が色濃く残っているものがある。
たとえば、昭和16年に労働者の住宅を確保するため設立された『住宅営団』という特殊法人は、戦後、『住宅公団』となった。また、昭和16年に組織された『統制会』は、戦後、『経団連』に、昭和17年に創設された『食管制度』は、戦後、『農協』となった。
このような残存する戦時体制の最たるものが、『天下り』、すなわち、各役所が人事をもって人材をはめこんでいくやり方である。
天下り規制改革の経過
この天下りを全面的に規制すべく、第1次安倍内閣は、2006年12月の経済財政諮問会議で取り上げたが、反対多数で終わった。その後、行政改革担当大臣になった私は、安倍総理の意向を受けて、天下り規制に取り組んだ。
すなわち、年功序列などの身分制秩序を破壊し、再就職は可能であるが、現職も再就職も実力主義を採用しようとした。
ところがその直後、『消えた年金』問題が浮上し、2007年7月の参議院選挙において、与党は惨敗を喫した。
その後、福田内閣の下、国家公務員制度改革基本法が提出され、実力主義の導入、各省庁による天下りあっせんの全面的禁止、そして内閣人事庁を創設して、国家公務員の人事を一括管理させようとした。『内閣人事庁』は野党の反対により、『内閣人事局』となったが、これは相当の効果があったと考える。
政治主導の体制により岩盤規制の打破をめざす
わが国には従来の、既成型、統制型のシステムが根強く残っている。この岩盤規制を打破するには、官僚ではなく、政治家がコントロールしていく政治主導の体制が望まれる。
第2~3次安倍内閣は、間接アプローチにより、戦略的にやっている。十分でないにしても、農協改革、電力の自由化、さらに財政金融一体改革により、これまでのマクロ経済政策の失敗を是正しようとしている。人口減少に歯止めをかけることも、目標に掲げた。前向きに、時間という政治資源を味方にして、当たり前のマクロ政策を実現していけば、経済成長も不可能ではないと私は考える。
質疑応答より
政治主導ということであるが、官僚の方々は専門性が高いので、政治家は経営者になるべきかとも思われるが。
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私は、大臣室に現職の官僚による改革派チームをつくって、常駐させていたことがある。
官僚をうまく使うには、ブレインが必要である。
URはなぜ、民営化できなかったのか。
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都市開発は公共事業があるので、民営だけでは無理だと言われた。
かなめは官房長官なので、官房長官の抵抗にあったら不可能である。
今の安倍内閣に対する評価は。
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増税が大失敗で、デフレギャップが拡大した。
不良債権処理と、金融緩和はセットですべきであると、私は思うのだが。
渡辺喜美氏のプロフィール
渡辺喜美(わたなべ よしみ)
元国務大臣
昭和27年 栃木県那須郡西那須野町生まれ
栃木県立大田原高校、早稲田大学政経学部、中央大学法学部卒業。
故渡辺美智雄秘書
通産相・外相秘書官を歴任
平成8年 初当選
当選2回の時、派閥を脱藩し、以来、無派閥を貫く。
平成18年 行政改革・規制改革担当大臣となる
平成19年 金融・行政改革担当大臣となる
平成21年 自民党を離党し、みんなの党を立ち上げる。
平成26年 みんなの党解党、現在に至る。
講義データ (2016年4月29日に開催された、政策議論講義「行政改革―効率化・スリム化に必要なこと」より)