風営法改正によってライブハウスが風俗営業になるというのは本当か?(2)

改正後風営法で、ライブハウス営業は、どのように整理されるのかということを簡単に検討してみたいと思います。

前回のエントリーから、かなり時間が空いてしまい失礼いたしました。前回のエントリーでは改正前風営法(ここでは平成28年6月23日の施行以前の風営法のことを「改正前風営法」、施行後の現行風営法のことを「改正後風営法」と呼ぶことにします)において、ライブハウスが、いわゆる3号営業にあたる可能性があったというお話をしました。

今回は、改正後風営法で、ライブハウス営業は、どのように整理されるのかということを簡単に検討してみたいと思います。

客にダンスをさせる営業に係る規制の見直しイメージ

まずは、以下のチャート表をご覧ください。こちらは警察庁が風営法改正にあたって作成している「客にダンスをさせる営業に係る規制の見直しイメージ」になります。

左側が改正前の分類で、右側が改正後の分類になります。

改正前には、いわゆるナイトクラブは、3号営業(ダンス+飲食)に分類されていました。ライブハウスに関しては、「ダンス」の定義についてどう解釈するかによって、3号営業に分類されてしまう可能性があったということは前回のエントリーで触れたとおりです。

では、改正後の分類について見た場合、ライブハウスはどこに位置付けられるのでしょうか。

改正後の分類について、整理してみましょう。チャート表の右側に掲げられている業態について見ていきたいと思います。

  • (1)新1号営業(改正後風営法2条1項1号)
  • (2)新2号営業(改正後風営法2条1項2号)
  • (3)特定遊興飲食店営業(改正後風営法2条11項)
  • (4)飲食店営業(改正後風営法2条13項4号)

(1)新1号営業(改正後風営法2条1項1号)

新1号営業は、改正前風営法の1号営業と2号営業が合わさった形態で、「接待+飲食or遊興」を行う営業です。

「接待」というのは、「歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと」で「営業者、従業者等との会話やサービス等慰安や歓楽を期待して来店する客に対して、その気持ちに応えるため営業者側の積極的な行為として相手を特定して」「興趣を添える会話やサービス等を行うこと」とされています。

イメージとして一番わかりやすいのは、キャバクラのように従業員がお客さんの横に座って談笑したりお酌をしたりするような場合でしょうか。

ライブハウスで、いわゆる「接待」が行われることはおよそ考えにくく、ライブハウス営業は、新1号営業にはあたらないと整理して良いと思います。

(2)新2号営業(改正後風営法2条1項2号)

新2号営業は、改正前風営法の5号営業がスライドしたものになります。今回の風営法改正により3号営業(ダンス+飲食)と4号営業(ダンスのみ)がなくなったため(改正後風営法では、「ダンス」を切り口とする営業規制を撤廃したため、従来の3号営業と4号営業はなくなりました)、従来の5号営業は、番号が繰り上がって新2号営業となったのです。

新2号営業は、客室の照度を10ルクス以下とする飲食店(「低照度飲食店」といいます)を風俗営業と位置づけるものです。

低照度飲食店営業は、昭和34年(1959年)の風営法改正時に設けられた営業形態です。当時、カップルが喫茶店で抱き合うなどの性的行為を行う同伴喫茶という形態の店舗が出現し、そのような店舗では、店内の照明を暗くすることが往々にして行われていたため、低照度飲食店として風営法で規制するようになったといわれています。

条文上は、営業所内の(なお、改正風営法では「客席における」照度から「営業所内の」照度に変更になっています)照度を10ルクス以下で営む飲食店は、低照度飲食店に該当することになりますが、低照度飲食店の数(改正前風営法5号営業の許可を取得している店舗の数)は、平成22年には全国で7軒、平成23年から平成25年には全国で6軒、平成26年には全国で5軒となっています(平成27年度版『警察白書』のデータ)。

なお、この数字は、改正前風営法6号営業すなわち区画席飲食店営業との合計数なので、低照度飲食店単体で数えるとさらに少ない数になる可能性があります。

低照度飲食店営業の基準となる10ルクスがどの程度の明るさかというと、「10ワットの電球から1メートルの距離における当該光の方向に直角に置かれた面の明るさとほぼ同じ」で、「普通の劇場や映画館の休憩時間中の明るさが大ざっぱにいってこれに当たる」(飛田清弘・柏原伸行『条解風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律』79頁)とされています。

では、ライブハウスは、低照度飲食店営業にあたるのでしょうか。

ライブハウスは、当然のことながら、演出上の効果として、店舗内の照度が10ルクス以下となる場合もあります。単に営業所内の照度を10ルクス以下で営む飲食店が低照度飲食店にあたるのだと考えれば、ライブハウスが低照度飲食店にあたってくる可能性はあります。

なお、このような解釈の可能性自体は、改正前風営法の頃からあったものなので、平成27年の風営法改正によって、新たに照度が問題とされることになったという言い方はあまり正確ではないと思います。

条文だけ見れば、低照度飲食店営業とは、「喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、国家公安委員会規則で定めるところにより計つた営業所内の照度を十ルクス以下として営むもの」をいいます。そうすると、営業所内の照度が10ルクス以下になる飲食店については、すべて低照度飲食店営業にあたるようにも思えます。

しかし、そのような整理は、風営法の規制の目的に照らして、妥当ではないと思います。

風営法はあくまで、第1条の目的(風営法1条は「善良の風俗と清浄な風俗環境を保持し、及び少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止するため、風俗営業及び性風俗関連特殊営業等について、営業時間、営業区域等を制限し、及び年少者をこれらの営業所に立ち入らせること等を規制するとともに、風俗営業の健全化に資するため、その業務の適正化を促進する等の措置を講ずることを目的とする」と定めています。)の達成のために、営業の規制を行うものです。

形式的には低照度飲食店営業の条文上の要件があてはまる場合であったとしても、風営法の規制の目的がそもそも妥当しないような営業に対してまで、低照度飲食店営業にあたるとして、風営法の許可がなければ営業できないとすることは、営業の自由に対する過度な規制であるといわざるを得ないと考えます。

例えば、単にお店の雰囲気を良くするために間接照明などを使って落ち着いた照明を使っているようなカフェやバーまでもが、低照度飲食店営業として風営法の許可を取得しなければならないとしたら、皆さんはどうお考えになるでしょうか。

いかなる店舗を低照度飲食店営業と考えるかについては、昭和33年当時に「低照度飲食店営業」を風俗営業として規定するかどうかについてなされた国会での議論などが参考になるのですが、これについては、別の機会に改めて検討したいと思います。

ライブハウスについても、演出上の効果として照度が10ルクス以下になる場合がありますが、これをもって、単純に低照度飲食店営業にあたると考えるのは性急であると考えます。

特に、演出上の効果として10ルクス以下になる場合があるライブハウスやナイトクラブを単純に低照度飲食店営業にあてはめるのは問題であることについては、私たちがロビー活動で議連や警察庁などと対話していく中でも問題点として指摘し、照度の計測方法については実態に即した形で計測すべきであることを求めてきました。

これについては、警察庁が集めた有識者会議である風俗行政研究会の「ダンスをさせる営業の規制の在り方等に関する報告書」(平成26年9月10日付)の中でも次のような指摘がなされています。

クラブにおいては照度が著しく変化することが一般的であることから、照度の測定方法については、営業の実態を見ながら、実質的なものとなるようにすべきであると考えられる。

このような経緯を経て、改正風営法に基づいて定められた風営法施行規則においては、低照度飲食店営業にあたるかどうかを判断するための照度の計測方法について、これまでとは違う取り扱いをしています。その取り扱い方は若干複雑なので、これについても別の機会に検討しましょう。

ライブハウスに関しては、そもそも風営法の目的に照らして低照度飲食店営業にあたらないと考えられるうえに、演出上の効果として10ルクス以下となる場合を考慮した照度の計測方法が定められていることから、新2号営業にあたる可能性は低いのではないかと考えています。

(3)特定遊興飲食店営業(改正後風営法2条11項)

特定遊興飲食店営業は、今回の改正風営法で認められた新たな営業形態です。この特定遊興飲食店営業は、①深夜(午前0時から午前6時まで)に、②酒類を提供して、③客に遊興をさせる、営業形態です。

この点、ライブハウスについては、ドリンクとして酒類が提供されることはありますし、客にライブを観せることは「遊興」にあたるとされているので、②と③は満たすと考えられます。

もっとも、ライブハウスは、たいてい19時くらいからライブを開始し、遅くとも23時くらいには全ての演目が終了し、0時までには営業を終了するところがほとんどではないでしょうか。そうすると、①の深夜に営業するという部分はあてはまらない店舗が多いと思います。このため、多くのライブハウスは、特定遊興飲食店営業には該当しないことになります。

もちろん、数は少ないですが、①深夜にも営業するライブハウスもあります。深夜営業を行うライブハウスについては、特定遊興飲食店営業に該当する場合が多くなると思います。

(4)飲食店営業(改正後風営法2条13項4号)

前述したように、深夜営業を行わない多くのライブハウスは、風俗営業や特定遊興飲食店営業にはあたらず、単に飲食店営業にあたるということになります。

すなわち、改正前風営法においては、ライブハウスもダンスの解釈によっては3号営業として風俗営業に該当する可能性がありましたが、改正後風営法においては、深夜営業を行わないのであれば、特に風営法の許可の取得を必要としない飲食店営業として整理されるということになります。

深夜営業を行わない多くのライブハウスについては、今回の風営法改正によって、3号営業にあたるという可能性がなくなったという意味では、不安定な地位から解放されたと評価して良いのではないでしょうか。

まとめ

以上見てきたとおり、深夜営業を行わない多くのライブハウスは、(4)飲食店営業に整理されることになります。このため、風営法改正によってライブハウスが風俗営業になるというのは誤りであるといえると思います。

もっとも、照度の計測方法などによって(2)新2号営業と整理される可能性もありますし、深夜営業を行う場合には(3)特定遊興飲食店営業に該当する場合もありますので、その点については注意が必要です。

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