「経済にデモクラシーを!」〜「アベノミクスは絶対いらない」と水野和夫氏もコールしたAEQUITAS新宿街宣〜

服を買うこと。たまには外食に行くこと。友達と飲みに行くこと。そんなことさえ諦めなければならないのが今の賃金水準なのだ。

「もうやめませんか? こういう状況は。変えていきませんか? 今の僕たちの状況は、なんとか生き残ってる、なんとかサバイヴしてるって状況です。でも、本当はサバイヴなんてしたくないんですよ。ちゃんと誇りもって人間らしく生きたいんです。

だから、最低限生活できるような給料を、国が保障しなければいけません。ある程度ゆとりが持てて、将来が見通せるような生活を、社会が保障しなければなりません。低賃金で劣悪な働き方を規制して、なくしていかなければなりません。それが最低賃金1500円ということなんです」

AEQUITAS(エキタス)の中心的メンバーである原田仁希氏(26歳)が言うと、集まった人々から「そうだ!」と声が上がった。3月20日、新宿アルタ前。この日行われたのは「最低賃金1500円」を掲げるエキタス新宿街宣。

この日、そうそうたるメンバーが応援に駆けつけ、スピーチした。

最初にマイクを握った東大教授の本田由紀氏は、戦後の日本の雇用状況を振り返りつつ、バブル崩壊後、さまざまな問題が「若者バッシング」にすり替えられてきたことに憤る。

「若者にフリーターが増えている、働く意欲のないニートが増えていると指摘され、それは若者が甘えている、努力が足りない、根性がないせいにされました。実際には原因は若者側より企業の側にあったにもかかわらず、若者がバッシングされてきたのです。ひどいと思いませんか?」

真剣な表情で聞き入る人々から「そうだ!」と怒りの声が上がる。本田氏は力強く続ける。

「要するに、経済の低迷が長引く中で企業は利益を上げることが難しくなっており、その皺寄せをすべて働き手にかぶせるような働かされ方が蔓延している。そのノウハウを企業に入れ知恵するようなブラック社労士などのビジネスも広がっています」

「私たちは怒り、動き、ひどい状態をやめさせるよう改善し、人間らしい生活を政府と企業から勝ち取っていくべきです!」

そう言うと、本田氏のリードでコールが始まる。

「最低賃金1500円上げろ」「長時間労働絶対反対」「ブラック企業はさっさと消えろ」「ブラックバイトから学生守れ」

惚れ惚れするほど完璧なコール!! 本田さん、カッコいい! 

中心的メンバーの原田仁希さん

本田由紀さんがコール!! 右はこばしゅんさん

その次にマイクを握ったのは「もやい」理事長の大西連氏。日々、生活困窮者の支援に走り回る氏は、ある20代のシングルマザーの生活実態に触れた。

離婚して2人の子どもを抱えて働くものの、時給は1000円。フルタイムで働いても16万円。そこから社会保険料や税金を引かれると、手元に残るのは13万円ほど。これで子ども2人を育てるのは難しいので、ダブルワーク、トリプルワークで働く日々。しかし、無理がたたり、彼女は倒れて働けなくなってしまう。そうして生活保護を受けるものの、2013年8月から引き下げられている生活保護費。

もし、最低賃金が1500円だったら。年収300万円は超えないものの、月収は24万円。手元に残るのは20万円。

「彼女は過労で倒れるまで夜中にバイトに行ったり、朝早くから飲食店で働いたりする必要はなかったんじゃないか」と大西氏。

それだけではない。全員の生活が今よりはずっと楽になる。

「手元に残るのは20万円だったら、洋服も買えるしたまには外食できるし友達と飲みに行くこともできる」

この言葉を書きながら、なんだか悲しくなってきた。服を買うこと。たまには外食に行くこと。友達と飲みに行くこと。そんなことさえ諦めなければならないのが今の賃金水準なのだ。

大西氏は、ニューヨークやロサンゼルスでは最低賃金1800円、フランスでも1300円という事実に触れたあと、多くの国で今注目されているという「インクルーシブ・グロース」という言葉を紹介した。

「より所得の低い人や困っている人へ支援をすることによって経済成長しようということです。多くの国で、そういう声が上がり始めています」

さて、次にスピーチしたのは大学2年生のエキタスメンバー・栗原氏。

彼は、久しぶりに会ったという芸大の友人の話をした。年間の学費は150万円。借りている奨学金は月に6万円。そんな友人は、大学を出たら賃金の低い「やりたい仕事」ではとても奨学金を返せないので、やりたい仕事は諦めざるを得ないと覚悟しているという。栗原氏は、スピーチで「僕らには自由がない」と繰り返した。

「かつてのような正社員になりたいわけじゃない。サービス残業死ぬほどやって企業の言うこと聞いてたまに過労死する人が出るような働き方はしたくない。一方で、非正規の多くがワーキングプア。僕らにはブラック企業かワーキングプアか、或いは会社人間かといった自由しかありません。これは自由でしょうか?」

「僕たちの多くは、いろんなことを諦めながら、期待しないで生きてきたと思います。でも、僕らは社会を、政治を変えることができます。そのために僕たちには路上があります。路上に立ってプラカードを掲げて声を上げる。一人ひとりの声、怒りが希望です」

次に登壇したのは、この日もっとも注目度が高かった水野和夫氏だ。日本大学教授にして、日本を代表するエコノミストの一人。著書『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)は私ももちろん読んだ。余談だが、この本が出版された直後、ある討論番組の楽屋でこの本への凄まじい批判が繰り広げられている光景を見たことがある。

その中には竹中平蔵氏もおり、そのことによって私の中で「水野氏への信頼」は勝手に上昇したのだった。あの時の、水野氏の問題提起を否定したがるいわゆる「勝ち組権力男性」の過剰反応は、彼らの恐怖感をまざまざと表しているように思えた。

そんな水野氏は、景気がよくなっていないのに企業が2年連続で最高益を更新する背景には、正規を非正規にし、人件費の削減をしてきたことがあると指摘。そして安倍政権の「成長戦略」に疑問を呈した。

「成長戦略は主語が抜けている。誰が成長しているかというと、株主が成長している。株主のうち半分は外国人投資家。今の経済政策は民主主義から大きくかけ離れている」

そうして水野氏は最低賃金を1500円に、すぐに上げることが必要と述べ、なんとコール!

エキタスの名物コーラー・19歳のこばしゅんとともに水野氏はコールする。「アベノミクスは絶対いらない!」「アベノミクスは絶対意味ない!」。

なんだか時空が歪むような光景が出現したあとは、社民党・福島みずほ氏、民主党・石橋みちひろ氏、共産党・小池晃氏のスピーチが続き、なんとか自分を取り戻した。

そうして最後は野党議員3人とエキタスメンバーが登壇し、両手を高々と上げると、大きなコールがアルタ前に響き渡った。

「経済イシューで野党は共闘!」「経済にデモクラシーを!」

この日、2時間に及ぶ街宣には700人が集まった。通りすぎる人々も興味津々の顔で立ち止まり、「最賃1500円、むっちゃいいじゃん」と会話するカップルがいたり、「SEALDsみたい!」と声を上げる女の子もいた。というか、「SEALDsみたい」って、新宿の雑踏で通りすがりの女の子の口から聞くと、なんだかしみじみしてしまうのは私だけではないだろう。

この日聞いたスピーチで、忘れられない言葉がある。原田さんが、息子を持つあるお母さんから聞いた話を引用したスピーチだ。

「息子さんが低い給料で、毎日帰ってくるのが深夜。疲弊した姿を見て、いつか過労で倒れてしまうんじゃないかって気が気じゃないって。僕、思ったんですけど、戦場に子どもを送りだす親の気持ちって、もしかしたらこういう気持ちに近いんじゃないかって思いました」

大袈裟な、と思う人もいるかもしれない。しかし、過酷な労働でうつ病や自殺に追い込まれる若者は、この15年で10倍にも増えているのだ。

エキタスの街宣に参加して、改めて、思った。

私たちはもうずっと長いこと、少ないパイの奪い合いの中にいた。到底椅子が足りない椅子取りゲームで他人を蹴落とし、自らが蹴落とされないように必死でしがみついてきた。その中で、隣の人がうつになったり自殺したり過労死したり電車に飛び込んだりしても、いつからか「仕方ない」なんて麻痺するように仕向けられていた。麻痺しないと「サバイヴ」できないぞ、とずっと脅迫されてきた。

だけど、そんなのはもう無理なのだ。限界なのだ。何よりも、そんな社会は嫌なのだ。そしてそう思っている人は、おそらく多数派なのだ。この日の街宣で、改めてそう思った。

次のエキタスの大きな動きは、4月16日のデモだ。このデモはアメリカの「Fight for $15」アクションに呼応したデモで、世界各国でアクションが開催される。15時30分に渋谷・宮下公園に集合に集合して16時に出発だ。

街宣後、原田さんは言った。

「次のデモはワールドワイドな動きなんで。やっぱりこの問題は、最終的には国際的な規制が必要なんで、それに向けて、グローバリゼーション、多国籍企業のことも言っていきます」

今、世界中で「行き過ぎた資本主義」に対する抵抗が始まっている。そして多くの国々で繋がりが生まれている。世界規模のこのうねりに、ぜひ、身を投じてみてほしい。

これは貴重! 「アベノミクスは絶対いらない!」とコールする水野和夫氏。

25条のプラカード

街宣のラスト、「経済イシューで野党は共闘!」。

左からAEQUITAS藤川さん、民主党・石橋みちひろ氏、社民党・福島みずほ氏、共産党・小池晃氏、こばしゅんさん

(2016年3月23日 「雨宮処凛がゆく!」より転載)

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